32 / 35
32.
しおりを挟む触れてこようとする翡翠色の手を、掴む。
「ちょっと待て。あんた、俺を1日貸し切ったのか? なんで?」
本当に、本気でわけがわからなかった。
「セノ、だく、したい」
「?? 抱けばいいじゃねえか」
「???」
それじゃあとばかりに伸ばされる腕を、再び掴み直して阻止する。
「いや、そうだけど。そうなんだが、違う」
ユルシィもハテナを飛ばしまくっているが、疑問符を並べ立てたいのは瀬野の方である。
「あんな大金払って貸し切りなんかしなくたって、いつでも抱けるだろ」
わざわざ瀬野の個室まで来て、これみよがしに平田が数えていた大金は、ユルシィの財布から出てきたものだったのだ。あんなもの。ユルシィなら、瀬野を抱くためだけにあんな金額を支払わなくたって、よかったのに。
「せい、うる、しごと。セノは、ぷろ。ただではたらく、よくない。しごとには、たいか、はらうもの」
「俺はあんたに抱かれるのを仕事だなんて思わない」
「…………わかる、する」
ユルシィは何故かしゅんと肩を落とした。
「セノ、ていきてき、だかれる、しないとくるしい。だから、私にだく、される、してた。いまは、しごとで、ていきてき、だかれる、してる。くるしくない。私にだかれる、しなくて、いい。私、だく、ひつようない」
そうだ。ユルシィが瀬野を抱く必要はなくなった。
「でも、俺はずっと、ユルシィに抱かれたかったんだよ」
押し込めて、抑圧していた言葉が、口から次々溢れ出す。
「抱きしめられるのも、抱かれるのも、抱かれないのも、苦しい。あんたは、俺が苦しむのを可哀想と思って抱いてくれてたし、俺が苦しまずに済むならと『タナカ』を紹介してくれたけど、ずっと苦しいよ。苦しいまんまだよ。あんたがただ優しくて親切な警察官ってだけで、そこにある俺への好意が、俺と同じじゃないってこと、苦しくて、苦しくて、ずっと、つらいんだ。ーー俺は、ユルシィのことが好きだから……!」
衝動のままにぶちまけた瀬野を、ユルシィは無言で見つめた。紅い光が戸惑うように揺れ動く。
「???」
そして、ユルシィは折れるんじゃないかというほど首を横に曲げた。なんだその反応。返答を待つ時間が、瀬野にはひどく長く感じられた。
「セノ、私、好き?」
「……そうだ」
「私、セノ、好き」
「???」
瀬野は片眉を吊り上げた。すぐには言葉の意味を理解できなかった。しかめっ面で、ユルシィの顔を睨めつけるように見つめる。ユルシィはさらに首を傾げた。
「私、いつ、セノをだく、ただのしんせつ、いう、した?」
瀬野は真顔になった。
100
お気に入りに追加
184
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる