31 / 35
31.
しおりを挟む「はぁへえぇえ~~…………そんで、恋を認めたから職務放棄ってか!」
出勤しておきながら客は取らないと言ってベッドにうつ伏せた瀬野へ、平田からの口撃が刺さった。
瀬野は言い訳もせず、むっすりと黙り込んだまま、そばの椅子に腰掛け札を数える平田をじっとりと見やった。繰り返し数えられているお札は、結構な枚数だ。
「あ、これ? 今日1日あんたを貸し切った客が置いてったよ」
「は!?」
がばっと身を起こす。
「今日は客取らねえって言って……!」
「それ、今日だけ?」
風俗店の店長は働かないキャストに容赦がなかった。
「まじで今日1日自覚した恋に悶々としたら、明日からは切り替えて他の奴とセックスできんの? どのみちヤらなきゃなんないなら、今日ヤるのも明日ヤるのも一緒じゃない? ねえ? 違う? なあ?」
「でも……!」
それ以上、何も言い返せなかった。力なく拳を握り、項垂れる。
「ま、客が到着するまで時間あるから、せいぜい悶々としな~」
数えた札を懐に忍ばせ、平田は手を振って退室した。
恋心を認めた上で、ユルシィ以外の相手と性行為ができるのか?
肉体的にはできる。悔しいが、できるだろう。
でも精神的にはきっとつらい。
相手にユルシィを重ねて、こんなんじゃないって苦しむ。自分に触れているのがユルシィでないことに胸を痛める。
ユルシィに抱かれた経験があるから。本物を知っているからこそ、余計に違いに耐えられないだろう。
こんな気持ちで、客を取るなんてできっこない。
やっぱり無理だ。断ろう。
仕事として、金銭のやり取りがある以上、プロとしてセックスしなければならない。不手際なんかがあったら、瀬野だけでなく店の評判にも傷がつく。
ーー断ろう。
でも、今日断って、明日からは?
今、こんなにも無理だと思っているのに、一晩経ったら、あっさり他の相手と寝れるもんなのか?
無理だろ。無理だ。できる気がしない。どうすればーー
悶々と思考の迷宮を彷徨っているところへ、ノックの音が響いた。
客が来てしまった。
まだ全然、何も決まっていないのに。
いや、断ろう。とりあえず、今日のところは。お引き取り願おう。すみません、ごめんなさいーー
「ユルシィ……?」
「ユルシィ……?」
間抜けな声が出た。
迎えに来てくれたのか?
今日一日瀬野を貸し切ったという客はどうなった……?
平田さんが気をきかせてくれた??
混乱に、薄く口を開いたまま固まる。
ベッドに座り込む瀬野の目の前に、ドアを閉めたユルシィが膝をついた。
「きょう、いちにち、セノ、かしきる、した」
今日1日、セノを貸し切ったーーそう、言ったのか?
「きょう、いちにち、セノ、私のもの」
ーーは?
再び、間抜けな声が、漏れた。
126
お気に入りに追加
184
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。


美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる