16 / 35
16.
しおりを挟むなんの歌だ……?
「セノ! 気がついたのですね」
異国の歌が止み、金髪の少女が上から覗き込んでくる。ゆっくりと数回瞬きして、ようやく頭が回りだした。
「ルタ……」
彼女は、ルタだ。安堵の色が濃い顔を見上げ、緩やかに周囲を確認する。ペットルームに備え付けられている、でかい浴場の手前ーー脱衣所だった。ルタは瀬野の肩から上を自身の膝の上に乗せるように抱き、座り込んでいた。瀬野に残った凌辱の跡を拭ってくれたのだろう、様々な液体で汚れたバスタオルが丸めて隅に寄せられている。
「身体、洗いましょう。立てますか?」
「……ああ」
清らかな少女の手に手を引かれ、洗い場のバスチェアに腰を下ろす。
ひどく、疲れていた。
身体を洗うために腕をあげるのすら億劫で、背中を丸めて座り込んだまま、ぼんやりする。
「お湯、かけますね」
シャワーの温度を確かめたルタが、そうするのが当然といったように、瀬野を洗い始めた。
「知ってますか、セノ」
頭を濡らし、髪をシャンプーでわしわし泡立てながら、ルタは明るい声音で喋りだす。
「この世界には、警察という組織があるそうです。正義のヒーローだそうです。悪い奴らを、捕まえてくれるそうです」
されるがまま、項垂れて頭を差し出す瀬野を洗う手つきは、優しいが遠慮がなく、心地よかった。
「私の世界にも私が知らないだけで、警察という組織があったのかもしれません。警察という名称ではなくても、似たような組織があったのかもしれません。私の村はとても田舎で、私達少数民族のみ暮らしていました。だから、私達の村に、そのような組織はありませんでした。私達の中で悪いことをすれば、私達の長が、罰を与える。これが、私達の決まりでした」
シャンプーを洗い流され、ハンドタオルで濡れた顔を拭われる。ルタが、両手で瀬野のほおを挟んで、まっすぐ見つめてきた。真剣で真摯な眼差しに、射抜かれる。
「セノ、助けはきます」
凛とした声だった。
信じて、疑わない強さ。
「助けがくるのは、」
重い口を開く。
「助けが必要だと気づいてもらえた奴の所にだけだ」
身内も友人も同僚もいない、頼れる相手のいない異界の地で、一体誰が気づいてくれる?
「セノ」
少女は、殊更優しく微笑んだ。
「私、セノのことを知りたいです。もっと、もっと、個人的なことです。セノは家族はいますか? 恋人は? どんな仕事をしていましたか? 故郷に、帰りたいと思いますか?」
濁った目に、純真な心は眩しかった。
130
お気に入りに追加
184
あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる