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08.
しおりを挟む「旦那様は人間の中でも日本人男性が殊更好きなんだ」
旦那様と呼ばれた触手人外ーーテアォロは、日本人の男ばかりを8人も飼っていた。立派な屋敷の奥の3部屋をぶち抜いて、全裸の人間を室内飼いにしている。そこへ今日から新たに加わる瀬野へ、一番の古株だという伊田が寄ってきてにこやかに迎えた。
「あんたも脱いで。ここでは旦那様の許可なく服を着ることは許されてないよ」
瀬野は恥ずかしげもなく裸体を晒す伊田を無言で一瞥し、従順に自らの着衣に手をかけた。
「そっちの娘は? 旦那様の好みじゃないな」
「彼女は俺とは違う」
服を脱ぎながら、伊田の好奇な視線からルタを隠すように庇い立つ。ルタは瀬野の背に身を寄せて、それでもしっかりと伊田を睨み据えた。
「そう。じゃあきみは脱がなくてもいいよ」
瀬野が最後の1枚を脱ぎ捨てると、伊田は口笛を吹いた。
「あんた、名前は?」
「瀬野」
脱ぎ散らかした衣服を、世話係の人外生物が回収していく。役割を明確にするためか、世話係は人外生物にしては珍しく、服をーーそれもメイド服を着ていた。
「瀬野、そう、瀬野ね。新入りは久しぶりだからなあ、今日は瀬野だけ旦那様の寝所に呼ばれて抱かれるだろうね。今日だけの特別だ」
「……今日、だけ?」
「いつもはこの部屋で乱交だから」
息を詰める瀬野の背を、ルタが不安げに撫でた。
「****、セノ!」
制服を着た使用人が、部屋の出入り口から呼びかけてくる。
「呼ばれてるよ、瀬野。きっと旦那様だ」
伊田がニタニタと笑う。
「いっぱい楽しんでおいでよ」
瀬野は何も返さなかった。背を向けて、呼びにきた使用人のもとへと歩いていく。だが、自分の後ろをついてくる影に気づいて、足を止めた。振り返って、華奢な肩を掴む。
「ルタ、」
「わ、私も」
「きみはここにいろ」
くしゃりと、ルタの顔が歪んだ。
「セノ、私、」
「うん、わかってる。ありがとう」
ルタが瀬野を想って、強い覚悟を決めて、共に悪夢を耐え抜こうとしてくれていることはわかっている。だが、きっと売られる前のようにはいかない。あの10日間、瀬野はさんざん凌辱され、身体を開発されたが、結局なんだかんだ本番はなかった。最後まで、ヤられてはいなかったのだ。しかし、ここまできたらもうそうはいかないだろう。瀬野は、生身の肉体に処女地を貫かれる。そんなものを見せられて、ルタはどんなに傷つくだろう。ルタの心に、トラウマを植え付けたくない。
「ルタ、ありがとう」
瀬野が歯を見せてにかっと笑ってみせると、ルタは一瞬泣きそうな顔をして、唇を噛み締め、次の瞬間には、情けなく眉尻を下げたまま無理矢理笑顔をつくった。
「大丈夫。絶対、絶対、大丈夫です、セノ。私が、セノを、必ずーー」
「****!」
待ちきれなかった使用人に遮られて、最後まで聞くことはかなわなかった。腕を引かれながら、振り返る。ルタは、下手くそな笑顔で手を振った。
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