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05.
しおりを挟む「おはよう」
「お、は、よ、ぉ」
「こんにちは」
「こにちは」
「こんばんは」
「こばんわ」
瀬野の言葉を復唱して、何が楽しいのかルタはくすくす笑う。43のおっさんには、少女の純真な笑顔は眩しかった。
「セノ~……私、きた~…………」
店内に入ってくる前から、ショーウィンドウ越しにこちらの様子をうかがっている巨体には気づいていた。でもなんだか、待たされたこれまでの時間がおもしろくなくて、素知らぬふりをしていた。そんな意地も、しょんぼりと巨体を丸めておずおず声をかけられたりなんかしたら、あっさり吹き飛ぶ。
「遅えよ、ユルシィ!」
顔をあげて、ぺしっと翡翠色の肌を叩けば、ユルシィが嬉しげにそわそわと身体を揺らす。
「え~、ごめん~? 怒る、した?」
「いいよ。ちゃんと来たから、許す」
「またくる、いった」
「そうだな」
「ぜったい、いった」
「わかったわかった。まあ座れよ」
自分達も座っているソファを勧めると、黙ってにこにこ成り行きを見守っていたルタを間に挟んで、ユルシィも腰を下ろした。
「アィヴェフ」
じっと見上げてくるルタに、ユルシィがリーラの挨拶を告げる。ルタもにこやかに同じ言葉を返した。ユルシィは顎を人差し指と親指で挟んで首を捻ったかと思うと、次いで長々とルタにリーラの言葉を投げかけた。ルタは動じた様子もなく、応じる。何度かやり取りがあった後、ユルシィはほうと感嘆の息を吐いた。
「セノ、このこ、すごい。私のことば、わかる、してる。リーラのげんご、おぼえる、してる」
「そうなのか!?」
二人のやり取りの雰囲気から、感じてはいた。会話が、噛み合っていると。同じ言語の応酬が、成立していると。それでも改めて聞くと、この少女が、異なる世界の人間が、人外生物の言語を、教えてくれる相手などいなかっただろうに、会話が成り立つほど習得しているというのは驚愕に値する。
「すごいな……」
「*******、*、***」
「*******、****ーー******、**」
ユルシィがリーラの言語で尋ね、ルタが同じ言語で答える。それをまたユルシィが拙い日本語に訳してくれ、瀬野が整理すると、こうなる。
ーールタ達の民族は、聞いたことのない言語を話者の様々な動作や表情、口の動き、その単語や文章を使う状況などから判断して、理解することに長けている。
それは、突如射した一筋の光だった。
「じゃあ、俺と喋ってれば、いずれは日本語も、わかるように……なる……?」
結果、いずれどころじゃなかった。
「私はルタです。16歳の女です。ジャマルケスという国の最東端にある小さな村の少数民族です。言語を習得することに長けています。よろしくお願いします」
ばりばり日本語で自己紹介をこなすルタは、ユルシィよりよっぽど流暢に喋った。
「ルタ、すごい。すごいね、ルタ。ね、セノ」
「……そうだな」
ユルシィとルタの初対面から、半月も経っていなかった。
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