可憐な少女よりガチムチおじさんが圧倒的に性被害に遭う恐ろしい世界に迷い込んだ

汐崎えみや

文字の大きさ
上 下
4 / 35

04.

しおりを挟む


「もう行くのか?」

閉店時間ぎりぎりまでおしゃべりしても、まだまだ会話に飢えている。名残惜しく縋ってしまう瀬野を、ユルシィは巨体を丸めるようにしてやんわりと抱きしめた。

「またくる、くる」
「……絶対?」
「ぜったい」

どうしても離れがたくて、瀬野からもぎゅっと強く抱き返した。つるつるのボディに鼻先を擦りつける。

「レサロヌ゙……ゥ゙」

か細い声でユルシィが鳴いた。
このひと月でさんざん客から聞かされたので、ユルシィに意味を教えてもらった言葉だ。もう、なんと言われたのか、瀬野は知っている。

「俺がかわいいなら、また来いよ。絶対」
「かわいい」

今度は日本語で言い直して、ユルシィは顎を瀬野の頭に擦り寄せた。






「ァロウェカレ~、ァロウェカレ~!」

これは「人間ちゃん~、人間ちゃん~!」と言ってるらしい。これまたよく耳にする言葉だったので、ユルシィに聞いた。

「ァロウェカレ~」

必死に気を引こうとしてくる客に背を向けて、瀬野はふて寝の体勢に入る。

初対面から1週間経つが、ユルシィが来ない。

「絶対また来るって言ったのに……」

まあ、すぐに来るとは言ってなかったけど。

「いつ来てくれるか約束しとけばよかったな」

尻を撫でる不埒な手を、視線もくれずに強く叩き落として独りごちる。
無言の攻防を続けていると、やがて客は諦めて他の人間を構いにいった。

しばらく、平和な時間にうとうとする。

微睡んでいると、小さな気配が遠慮がちに寄ってきた。
僅かに頭を持ち上げて、肩越しに振り返る。いつかの洗い場で目が合ってしまった、金髪の少女だった。視線が絡むが、今回はそわそわと泳いだあと、再び見つめ返される。

「どうした?」

伝わらないとわかっていながら、尋ねる。
少女は口を開いては閉じ開いては閉じ、を繰り返すも何も言わず、ぎゅっと唇を閉ざして諦めたのかと思ったら、何やら変な動きをしだした。

「……踊ってる?」

伝わっていないことが伝わっているのか、少女は一旦腕を組んで顎に手を当て、真剣に考え込む。
瀬野は上体を起こし、彼女に向き合ってあぐらをかいた。
熟考の末、少女は人差し指の先を瀬野のひたいに押し当てた。これは彼女のジェスチャーが壊滅的に下手くそとかそんなんじゃなくて、同じ人間の括りとはいえお互い異世界人。世界が異なればジェスチャーが表す意味も違うという、そういう異世界カルチャーショック的なものではないだろうか。
ふと、少女がひたいに押し当てていた指先を、手のひらに変えた。そのまま、瀬野のひたいに触れる手の、甲側に自分のひたいを寄せる。くっつけて、じっとうかがうような上目遣いを向けてくる。それが、瀬野には熱を測ろうとしている動作に見えた。

「もしかして、体調を聞いてる?」

ずっと隅で寝転がって動かなかったから、身体の調子が悪いのではないかと、この娘は心配してくれたのか。

「大丈夫。ふて寝してただけだから。ありがとう」
「ありがとお?」
「そう。お礼の言葉。えーっと、頭を下げれば伝わるか?」

通じないわりに身振り手振りで一生懸命伝えようとすると、お礼を言ったのが伝わったかはわからないが、とりあえず瀬野が全くもって元気であることくらいはわかってくれたらしい。

「俺、瀬野。瀬野」

自分を指差し、繰り返す。

「瀬野。わかるか? 名前。瀬野」
「セノ?」
「そう!」
「セノ」
「きみは?」

言葉は通じなくても、瀬野が名乗った後、自分が指差された意図は伝わったらしい。

「ルタ」

ルタと名乗った少女は綻ぶように笑った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

処理中です...