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03.
しおりを挟むひと月も経てば、瀬野は理解した。
この世界では可憐な少女より、筋肉をまとったガチムチおじさんの方が、人外生物から性的な目で見られやすい。
このひと月で、瀬野はうんざりするほど性被害に遭った。
中には、本当に猫をかわいがるように、なんの下心もなさそうな手つきで撫でるだけの客もいる。しかしそれに紛れて痴漢してくる手の多さよ。際どい写真を撮ろうとしてくる輩もいる。気づかないとでも思っているのだろうか。
「ァロウェカレ~」
すっかり警戒心ばりばりの瀬野を、客が強引に膝の上に抱きあげてきた。威嚇しても怯まない。頬擦りしてこようとするので、猫のように口を両手で押さえ、腕を突っ張り抵抗した。
「や~め~ろ~~!」
「****! レサロヌ゙~」
「******ーー**、***」
頬擦り野郎の連れが、何か声をかけて瀬野の脇に両手を入れた。ひょいっと持ち上げられて、背中を胸にもたれさせるような向きで、連れの膝の上に乗せられる。子どもが大人の膝に座るような格好だが、嫌がっているのをわかって助けてくれたのかもなーーと、思った、ら。背後から胸筋を鷲掴まれた。
「おいっ! やめろ!」
抓って引っ掻いて叩いて身を捩るが、遠慮なく揉みしだかれる。
「嫌だ! 揉むなって!」
もしかして、この店は猫カフェ的なものではなくて、実は風俗とかそっち系の店だったのか……?
「***!」
言葉が通じないからこその勘違いだったのかと冷や汗をかいたところで、第三者が割り込んできた。
「*****!」
つるんと透明感のある翡翠色のボディを持つ巨体の人外生物だった。顔であろう位置に、2つの紅い光が浮いている。目鼻や口、耳は見当たらない。それでいて何かを喋り、瀬野を指差し、セクハラ二人連れを指し示し、赤い光を旋回させ、表情なんてないのに怒ってますを全身で表している。やがて話がついたのか、翡翠色の人外生物が瀬野をそっと抱き上げ、店の隅にあるソファに移動した。優しく降ろされ、翡翠色ボディがどむんと隣に腰を下ろす。
「だいじょぶ?」
衝撃のあまり、瀬野は思わず二度見した。
この世界で、初めて自分以外から聞く母国語だった。
「日本語話せるのか!?」
「ちょっと。はなす、ちょっと」
飛びつかんばかりに身を乗り出した瀬野を、翡翠色の両手が触れそうで触れない絶妙な距離で宥めるように撫でる。
「あなた、にほんじん? 私、むかし、にほんじん、しりあい、はなす、したくて、にほんご、べんきょう、した。へた、ごめんネ」
「上手だよ。話が通じるんだ、文句なんかない」
心の底から出た言葉だった。
なんならちょっと泣きそうだった。
「あなた、なまえは。私、ユルシィ」
「瀬野だ」
他愛もないことを、たくさん、たくさん、話した。
こんなにも会話に飢えていたのかと、驚くほどだった。
「ねこかふぇ、まちがう、しない。ねこ、私、わからない。でも、タナカ、『こんなのねこかふぇのにんげんばーじょんじゃん!』いう、した」
その他にも、ユルシィは様々な情報をくれた。
この世界はリーラと呼ばれること。
たびたび、ありとあらゆる世界から様々な言語を操る人間が迷い込んでくること。
保護された人間は、瀬野のように『人間カフェ』で飼われたり、個人のペットとして飼われたりする。
裏で違法に売買されて性奴隷のような扱いを受けたり、強制的にAVに出演させられたり、酷い待遇を与えられる者もいるらしい。
瀬野は、まだ運が良かった方なのだ。
どんなにここでセクハラされたり、際どい写真を撮られそうになったり、風呂に入れるついでに無理矢理射精させられても。
犯されたり輪姦されたり四肢を欠損したり目玉を食べられたり全身穴だらけにされたり口にするのも憚られるような、恐ろしい目に遭ったりすることは、ない。
ちゃんと衣食住揃っていて、命を保証されている。
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