可憐な少女よりガチムチおじさんが圧倒的に性被害に遭う恐ろしい世界に迷い込んだ

01.

１週間過ごしてみてわかったのは、ここが所謂、瀬野の母国日本での猫カフェのようなものであるということだった。ただし、日本では猫や梟などがする役割を人間が請け負い、それらをかわいがる側の客として足を運ぶのは、人間ではなく人外生物である。






「ァロウェカレ～」

何を言われているのか、全くわからない。相手は瀬野とは全く姿形の異なる人外生物だ。言葉が通じないのも頷ける。しかし、猫カフェならぬ『人間カフェ』の猫役である人間達の間でも、困ったことに会話が成立しないのだった。理由は、なんとなく察しがつく。同じ人間であることは間違いないが、出身地が異なるのだ。それもおそらく、生まれた国どころか、世界自体が。人間達の容姿も、似ているようでそれぞれ特徴がある。何より、その身に宿す色彩が色とりどりだった。瀬野はごく普通の人工的に染めていない日本人の色合いをしているが、他の人間は緑の髪だったり赤い目だったり、褐色の肌だったり、様々な人種が揃っている。
おそらくこの『人間カフェ』には、様々な世界の様々な言語を操る人間が集められているのだ。
10日前にこの人外蔓延る世界に迷い込み、わけもわからず捕獲され、ここに放り込まれてからというもの、瀬野がまともに言葉を交わせた相手は１人としていなかった。

いいかげん、頭がおかしくなりそうだった。







「ァロウェカレ～」

それにしてもこの言葉、よく耳にする。
意味はわからないが、こちらの気を引こうとしているのは、投げかけられる声の調子や雰囲気から察せられた。

「ァロウェカレ～」

人外生物が、携帯端末を掲げて声をかけてくる。向けられたカメラのレンズに向かって歯茎剥き出しにして威嚇する瀬野を無許可で撮影する相手には、どうせ瀬野が嫌がっていることも伝わっていない。なんせ逆の立場なら、瀬野だって威嚇する猫をかわいいと思ったとしても、怖っ近寄らんとこ……とは、ならないから。

「＊＊＊＊＊＊」

何やら早口で喋りながらアングルに試行錯誤する人外生物からそっぽを向き、瀬野は彼ーーもしくは彼女？ーーから与えられたカフェメニューのおやつである謎のスパイシーな焼き菓子を口に運んだ。