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第2章
15.お母さん【玲奈】
しおりを挟む「ジェイスの肉じゃがってさ」
賑やかな昼食を終え、ジェイスが帰宅し、皿を洗いながら兄貴はふと口にした。
二十年余りの人生で、玲奈がほとんどそこに立つことを許されなかったキッチン。御幸の家ではないのに、この洋館の、ここだけが、実家そのまま。自分でも気づかなかったくらい、ほんの僅かな憧れを、死後ここに立つことで消化している。
今なら、キッチンに立つことを許される。兄貴の隣で、皿を拭くだけの、簡単なお手伝いを、許される。
「お母さんの味したよな」
そうだな。
だって玲奈が、そう設定した。
手料理が嗜好品でしかない世界で、料理が趣味の変わり者ジェイス。
まあこういうキャラがいてもいいんじゃない、と軽い考えから生まれた男。
なんとなく、彼の料理の腕前に『おふくろの味』という設定を加えた。
自分の母親を想定したものではなかった。
でも、ジェイスの作った肉じゃがは、御幸家のおふくろの味だった。
だから、まあ、そういうことなんだろ。
「お母さん……今どうしてんだろな」
兄貴の声が沈む。
今まで、全く気にしていなかったわけがない。
気にするなという方が難しい。
だって、お母さんだ。
キッチンに立つことを許されなくても。
時に理不尽に怒られても。
誕生日やクリスマスのケーキとプレゼントを欠かさなくて、毎日ご飯作ってくれて、些細なことでも感謝の言葉を忘れなくて、落ち込んでたら下手くそな励ましをくれて、娘が彼氏に殴られたらお父さんのゴルフクラブ担いで報復に行く。強くてたくましいお母さん。いっぱい、いっぱい、愛してくれた。
「お母さん……」
今、どうしているだろう。
娘と息子、いっぺんに亡くして。
しかも、お母さんが深夜にアイス食いたいと言いだしたのがきっかけで。
コンビニへ走った娘と息子が、帰りに通り魔に襲われて、二度と帰ってこなくなるなんて。
お母さん、今、どうしてんの。
「玲奈……泣くなよ」
「兄貴のせいだろ」
「え、俺?」
「考えないようにしてたのに、思い出させるから」
「ええ~……ごめん」
ああ、会いたいな、お母さん。
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