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第1章 開幕
03.一筋の光
しおりを挟む「ーーラララララナラナは死後の世界で、転生するためにはラララララナラナで生活しながら定められた期間労働に励まなければならず、転生するにも生活するにも労働するにも、何をするにも、身分を証明する刻印とやらが必要で? でも手の甲にあるはずのそれが俺達には無くて? 刻印が無い人間はラララララナラナでは存在しないものとされるので、転生も生活も労働もできず、無に還るしかないーーと、いうことだな?」
神妙な面持ちで頷いた玲奈に、御幸は首を傾げる。
「それで、俺達と同じく刻印無しの主人公はどうしたんだよ」
「冒頭で挫折したから詳しい行動は考えてなかったし……設定上じゃ主人公は浄化能力持ちでシェロリアに拾われてなんとかなったことになってるけど、」
言いながら、玲奈はゆっくり顎をあげていった。うつむきがちだった顔が、上向いて一筋の光に照らされる。
「そうだ、主人公のモデルは兄貴なんだ。今、この世界における主人公が、モデルである兄貴自身なんだとしたらーー」
希望を見出した目が、力強く輝く。
「そこに、活路がある」
「ラララララナラナの公認掃除屋“くりん”のリーダー、シェロリアに連絡して!」
御幸の腕を引いた玲奈はずんずんとした足取りで相談窓口に戻ると、先ほど出直すと告げた職員に掴みかかる勢いで要求を述べた。
「あたしの兄貴は浄化能力持ちだ! 喉から手が出るほど欲しいだろ。あたし達の転生と生活と労働を保障してくれるんなら、あんた達に手を貸す! そう、伝えて。早く!」
職員は鉄壁の微笑をたたえたまま、しかし額に薄っすら汗を滲ませて、席を立った。小走りに去っていく背を静かに見送って、御幸はがばっと玲奈に向き直る。
「俺って浄化能力持ちなのか!?」
「たぶん」
「そんなあやふやな感じのくせに、強く出たのか……? 正気か?」
御幸が肩を掴んで詰め寄るが、玲奈は強気な表情を崩さない。
「この世界においての主人公が兄貴なら、ほぼ間違いなく浄化能力持ちだ。現に、あたしが考えた主人公と同じで兄貴に刻印はない」
「玲奈にだってないだろ」
「それはきっとーーあたしが登場人物じゃないからだ。あたしはそもそも、この世界に存在しない」
ひゅっ、と御幸は息を呑む。
「でも、あたしが想像上に創造したこの世界で、主人公は兄貴なんだ。そうだ、間違いねえ。兄貴は浄化能力を持ってる。持ってるよ」
自分に言い聞かせるように何度か頷いた玲奈は、真摯な瞳で御幸を見つめた。
「あたしを信じて」
強張っていた身体から、力が抜けた。御幸は深く息を吐いて、パイプ椅子に座り込む。
「………万が一、俺が浄化能力持ちじゃなかったら?」
両膝に肘をついてうつむく兄の肩に、妹の両手が添えられる。甘えるように、軽く揺すられた。
「万が一、兄貴が浄化能力持ちじゃなかったら。そん時は、諦めて、あたしと一緒に無に還って」
無に還るとは、この世界で死ぬということだ。
転生先のある者でも、労働期間が定められた条件に達していない内に死ねば消滅する。
今のところ転生先のない御幸と玲奈は、当然労働もくそもないので、死ねば消滅する未来しかない。
無になるのだ。全て。何もかも。
肉体の死だけではなく。
魂の死。
「ーーうん。そうだな。すでに一回、一緒に死んでるんだ。次死ぬ時も、一緒だよ」
もし転生できたとしても、転生先で再び兄妹になれる可能性なんて、きっと想像する以上にすごく、すごく、低いだろう。
シスコンと呼ばれてもいい。
認める。
御幸は玲奈が大好きだ。
最高の妹だと思っている。
だから、たとえ二回目の死を迎えることになっても、最後まで兄妹でいられるなら、それはそれで悪くないと、そう思えた。
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