【完結】王子の婚約者をやめて厄介者同士で婚約するんで、そっちはそっちでやってくれ

天冨七緒

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リーヴェス アフェーレ

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「んで、ここで良いだろ?」

アティランが先に控え室に入り、ソファに座った。

「使用人を呼ぶ…」

「別にいいだろ、長居する訳じゃない。」

…長居…したくない…か…。

「……紅茶を…私が使っていた控え室のテーブルのを頼む」

少しでも長く一緒に居たくて使用人を呼んだのだが、考えを気付かれてしまった。
それでも使用人を呼び、紅茶を頼んだ…二人でいたくて。
使用人は気付くだろうか…。

「話しはなんだ?エストレヤが来たら途中でも出ていくからな。」

「……彼と結婚するつもりか?」

「あぁ。」

「…何故彼なんだ。」

「理屈じゃねぇな、本能かもな。」

「……王宮に仕える気はないのか?」

「記憶ねぇからな。」

「記憶が戻れば…」 

「そんなもん期待すんな。」 

「…俺に構ってないでピンク頭を気にしろよ。」

「あいつとは…関係ない。」

「…あっそ。」

「あっそ」…そんなに私に興味ないのか?

その時、使用人によって紅茶が運ばれた。
私の分とアティランの目の前に…。

使用人に視線を移すと合図があった。

私は一度深呼吸をして決意した。

「…飲まないのか?」

「んあ?あぁ」

アティランは紅茶になかなか手を付けなかった…。

「…何故、私じゃない?」

「ん?」

「私は婚約者だったんだぞ。」

「……何言ってんだ?」

「婚約者は私だ。」

「…過去の話だろ?今は違う。」

「アティランが勝手に婚約解消したんじゃないかっ。」

「婚約解消した時、何の問題もなかったじゃねぇかよ。」

「…婚約解消は簡単に出きるものじゃ…」

「それは、婚約者に何のもなければだろ?俺は記憶喪失だ。」

「記憶は…戻る可能性があるだろ…」

すぐに決めなくても…。

「戻らなかったら?」

「…それでも」

側にいてくれるだけでそれで良いんだ。

「記憶の無い人間に王族の補佐をさせるのか?」

「アティランなら出来る。」

「過去の俺ならな、今の俺には無理だ。」

「…出来る、私が補佐する。」

私がアティランを支える。
一緒にいられるなら私が手取り足取り教える。

「お前何言ってんだ?王族の補佐をするために選ばれたのに王族が補佐してどうすんだよ。」

「構わない。」

そんなことはどうだって良い。
アティランに迷惑がかからないよう、執務を滞らせるようなことはしない。
睡眠を削ってでもアティランの側にいたい。

「そういう問題じゃないだろ。」 

「………」

「……あんたの隣にはピンク頭がいたろ?」

「あんな奴…関係ない。」

奴の事は思い出したくもない。
アティランと私達二人だけいれば充分だ。

「関係ないって…」

「アティランのが相応しい。」

「…そんなもん、今からあいつに教え込めばいいだろ?」

「無理だ…させる気もない…」

させたところで無理だ、アティランには追い付かない。

「…あっそ。」

「戻ってこい。」

「…無理だ。」

いい加減目を覚ませ。

「アティランっ」

「…もう、アティランて呼ぶな。」

あいつはお前をアティと呼んでいたじゃないかっ。

「……そんなにアイツが良いのか?」

「あぁ。」

「なんで…」

「お前にはわかんねぇよ……もういいだろ?」
 
…行くな。

「………紅茶…好きだったろ…」

アティランの目を見ることは出来ず、紅茶を勧めた。

「………」

これで飲まなかったら、私たちは本当に終わりだな…。
アティランから視線を逸らし終わりを受け入れる。

かちゃ

カップの音で視線を上げれば、アティランが紅茶に口を付けていた。
私は何て事をっ。

「ぁっアティ…ラン…俺は…」

飲むなっ飲んじゃダメだっ。

「これ以上聞きたくねぇわ。」

カップは空になっていた。

「………」

あっあっあぁ…あぁあ゛あ゛…。

「エストレヤも着替え終わる頃だろ、もぅ…ぃ…」

ガタッ

アティランは薬が効いたのかふらつき膝を付き、額に手を当て呼吸を荒くしていた。

すまないアティラン。

まずはソファで休ませるべきだと思い手を伸ばすと、アティランは立ち上がり扉へ歩きだし。
だめだ、そんな状態で歩いては怪我をする可能性もあるだけでなく、変な輩に見付かれば何をされるか分からない。

朦朧としているのか、自身の状況が分からないのだろう。

「待て。」

そんな状態で外に出ては危険だ。
アティランの腕を掴むも、私が誰か分かっていなかった。

「私はお前の婚約者だ。」

だから、安心しろ…なにもしない。

「…やめっ…」
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