【完結】王子の婚約者をやめて厄介者同士で婚約するんで、そっちはそっちでやってくれ

天冨七緒

文字の大きさ
上 下
153 / 177

リーヴェス アフェーレ

しおりを挟む
私は正面からそいつに立ち向かった。

「いつまでアティランを苦しめるつもりだ?」

「苦しめ…る?」

何も分からない顔をしているところを見ると、本当に気付いていないんだな。
自分がアティランの荷物になっていることを。
私がハッキリと伝えなければ。

「アティラン程の男がお前の側にいるのは国のためにもアティラン自身の為にもならないのは分かっているだろ?早くアティランを解放しろ。」

「…解放…」

「もう、充分だろ?」

思い出はつくったはずだ。
早く私に返せ。

「…ゃです…アティと別れたくない。」

ふざけるなっ。

「お前なんががアティと呼ぶなっ。」

テーブルの上にあった誰かの飲み掛けかのグラスが目につき、奴に掛けていた。
いくら不快な相手でも感情に任せしていいことではなかった。

「エストレヤ」

アティランの声に更に心拍数が上がった。

違うんだ…これは…。

だが、アティランは私を見ずに奴しか見ていなかった。
こんなことまでした私をアティランは責めることもなく通りすぎていく。

「待て。」 

アティランの腕を掴むも払い除けられた…。

初めての体験だった。

「…話がある。」

「俺にはない。」

アティランは振り返ることなく告げ、歩いて行ってしまった。
こんなに怒るなんて思ってもみなかった。
今までアティランは感情を見せなかったのでこんな扱いを受けるなんて想像が出来ていなかった。

置いていかないでくれ…。

何も出来ず、アティランの後ろをついて行くしか出来なかった。

「…アティラン。」

聞こえていないはずはない。
ただ、私の話など聞きたくないのだろう…。

間違えてしまった。

それでも諦めきれず後ろを歩いた。

「…グラキエス…話がある。」

「…俺にはねぇよ。」

「少しでいいんだ…。」

「断る。」

「…そいつが…着替えている間だけ…。」

「その前に言うことあんだろ?」

「………」

漸く足を止め振り向いてくれた。
が、アティランの目は鋭く心臓を突き刺す痛みだった。

彼への謝罪…。

「わかんねぇのか?」

「………」

分かっている…。
王族としての矜持が私を邪魔をする。

「エストレヤに謝罪しねぇ限り話しなんかねぇよ。」

「………」

…分かっている…が…。
よりにもよってそいつに謝罪…。
悔しさで一杯だった。

「…ぼ、僕は」

「黙ってろ。」

アティランの声は本気だった。

「……飲み物を…掛けたことは…悪いと思ってる。」

「……「思ってる」じゃねぇだろ?」

「……すまなかった。」

漸く謝罪は出来ても、頭は下げることは出来なかった。

「…ぃぇっ…はぃ。」

「…少しでいいんだ…。」

謝罪はした…それでもだめなのか?

「………」

「あの…僕一人で着替えてくるから…。」

「控え室は突き当たりの左の扉だ、グラキエス私達は王族専用の控え室に…」

彼にも私達の場所を伝えた。

「断る。」

「…ぇっ」

だめ…なのか?

「エストレヤの隣の控え室じゃだめなのかよ?」

「…防音が…」

「そんなに重要な話かよ?」

「…あぁ。」

「この部屋は?王族専用って上の階だろ?面倒だ、ここでいいだろ?エストレヤの部屋からも遠いし良いだろ?」

「……分かった。」

話が出来るなら場所は何処でも良かった。

「エストレヤ…すぐに来いよ。」

「ぅん…んっんふぅんっんんっんぁむっんん」

アティランは私に見せつけるようにそいつとキスをした。
漸く「彼」と思えるようになったのに、そんな姿を見せられたら憎くてたまらない。

「俺はお前の婚約者だから。」

「…ぅん」

婚約者…アティランはそいつを安心させる為に言ったのだろうが、私の心も抉った。
使用人が到着し、そいつは遠く離れた部屋へと案内された移動した。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

処理中です...