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リーヴェス アフェーレ
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私が十歳の時に婚約が決まった。
相手は王家に忠実な家臣で公爵家の優秀な人物だと。
その頃には王子である私が特別な存在であるのは認識していた。
お茶会など多くの貴族が私にすり寄り、全てにおいて賛同してくる。
それが当然であり、私も気持ち良かった。
その中で見た目も可愛らしく居心地の良い相手を婚約者にと考えていた。
私より小さく笑顔を絶やさない人間を。
父から婚約者が決まったと話があり期待していた。
婚約者にはどんな子が良いか?と聞かれた時「可愛い子が私の好みです」と以前話した。
扉の向こうには可愛い子が僕を待っていると胸が高鳴った。
使用人は僕を焦らすようにゆっくりと扉を開けた。
大人達に囲まれ見えないが私と同じくらいの子がいるのが分かり、焦る気持ちを押さえ少年の顔が見える位置まで移動した。
どんな可愛い子なのか期待に胸を膨らませながら近付いた。
初めて見た私の婚約者は…私と同じくらいの身長に綺麗だが笑顔を知らないような冷酷そうな人物だった。
「父様…彼が私の…」
「あぁ、婚約者だ。」
…どうして…。
私の好みとは違いすぎる。
可愛らしく柔らかい雰囲気の婚約者が良かったんだ…。
目の前の彼は真逆…ではないですか…。
「父様?」
縋るように父を見上げた。
笑顔で頷く父には悪気が無いことを知る。
父には彼が可愛らし子に見えたのだろう…父と僕は好みが違いすぎることをこの時初めて知った。
既に断ることが出来ない程、話が進んでいた。
これから私は彼と婚約者の時間を過ごさなければならない。
私の理想は崩れ去った。
甘い恋人同士の時間を過ごしてみたかったんだ。
王宮でも見かける貴族達の密会現場のように。
彼らは二人の世界で甘い一時を過ごしていた。
世界に二人しかいないような雰囲気を醸し出し、木に隠れるように重なりあう影に興味を注がれ自身を押さえられず二人に近付いた時があった。
二人は愛おしそうに名を呼び唇を重ねていた。
これが恋人同士なんだと理解した。
あんな風に私もいつか…。
そう思っていたのに…。
現れたのは恋愛など一切興味もないような人物で、王宮でのお茶会でも見たことがないような奴だった。
彼の父は公爵家の中でも上位に来る家門だ。
だから選ばれたのだろう…。
ならば、父も私の好みなど聞かずに国のための政略結婚だと言ってくれれば良かったのに…。
そうしたら、期待などせずに済んだ…。
父も人が悪い…。
それでも、私は王族。
個人の感情ではなく、国のために動かなければならないのは理解している。
婚約者とのお茶会も苦痛を感じながらも必ず行った。
話せば、お茶会等より王宮の図書館に興味があると言われた。
「人との会話は難しく、本が相手の方が気楽です。」
私には彼の言葉の意味が良く分からなかった。
本は会話にはならない、私の話しに耳を傾けないし意見も言わない。
そんなのつまらないじゃないか。
やはり、彼とは合わないと知る。
彼は頻繁に王宮にやってくる。
それは私に会いに来るのではなく、私の隣に立つに相応しい教養を身に付ける為らしい。
私の隣に立つのだからそのくらいしてほしいが、彼が優秀になればなる程、婚約が現実のものになっていった。
私は彼と結婚するのか…。
あの時の、木に隠れて会瀬を交わす二人に私はなれないのか…。
彼から誕生日の贈り物が届くとインクだのと実用的なものばかりで、恋人同士が贈り合うようなものではなかった。
宝石が欲しいとは言わないが、事務的ではなく心のこもった物が欲しかった。
彼はきっと使用人に伝え贈らせていたのだろう。
そんな物を贈られるくらいなら贈られない方がましだろうと、私は彼に一度も贈り物をしなかった。
彼の誕生日にも何もすることはなかった。
当然エスコートも…いや参加もしなかった。
王族がわざわざ貴族の誕生日に参加する必要はないと判断した。
「忙しい」
という理由に彼の誕生日パーティーには欠席すると返事をした。
一度断るとニ度目は罪悪感もなく断ることができた。
何もなく私たちの時間は坦々と過ぎていった。
過ぎていく中で彼が領地での功績を上げ、他国との貿易にも乗り出したと…。
彼は国に必要な存在だと認識されてしまった。
社交界デビューの際も、私はエスコートせず遠くから彼を見ていた。
彼が私にどうしても、というならダンスくらいしても良いと考えていた。
だが、彼は私に一向に近付いて来ることはなかった。
他の貴族達は私を見つけては必ず寄ってくるのに、彼だけは私の思い通りに動かなかった。
遠くにいる彼は実力の有る貴族達に囲まれ会話している。
お前は私の婚約者なのに、何故そんな無防備に許しているんだ?
相手との距離も近すぎるんじゃないのか?
私には事務的な会話のみで、徹底して距離を保っていたのに…。
あの光景は不愉快でしかなかった。
そのパーティーからかは分からないが、私と婚約者は不仲だという噂が流れた。
少し楽しみでもあった。
私の婚約者で居たかったら何らかの行動を起こすだろう。
あの堅物が何をするのかワクワクした。
冷静を保っては居たが必ず行動するはず…。
だがいつになっても彼は噂を否定することも、私に対して行動を起こすこともなかった。
婚約解消…したくないんだよな?
相手は王家に忠実な家臣で公爵家の優秀な人物だと。
その頃には王子である私が特別な存在であるのは認識していた。
お茶会など多くの貴族が私にすり寄り、全てにおいて賛同してくる。
それが当然であり、私も気持ち良かった。
その中で見た目も可愛らしく居心地の良い相手を婚約者にと考えていた。
私より小さく笑顔を絶やさない人間を。
父から婚約者が決まったと話があり期待していた。
婚約者にはどんな子が良いか?と聞かれた時「可愛い子が私の好みです」と以前話した。
扉の向こうには可愛い子が僕を待っていると胸が高鳴った。
使用人は僕を焦らすようにゆっくりと扉を開けた。
大人達に囲まれ見えないが私と同じくらいの子がいるのが分かり、焦る気持ちを押さえ少年の顔が見える位置まで移動した。
どんな可愛い子なのか期待に胸を膨らませながら近付いた。
初めて見た私の婚約者は…私と同じくらいの身長に綺麗だが笑顔を知らないような冷酷そうな人物だった。
「父様…彼が私の…」
「あぁ、婚約者だ。」
…どうして…。
私の好みとは違いすぎる。
可愛らしく柔らかい雰囲気の婚約者が良かったんだ…。
目の前の彼は真逆…ではないですか…。
「父様?」
縋るように父を見上げた。
笑顔で頷く父には悪気が無いことを知る。
父には彼が可愛らし子に見えたのだろう…父と僕は好みが違いすぎることをこの時初めて知った。
既に断ることが出来ない程、話が進んでいた。
これから私は彼と婚約者の時間を過ごさなければならない。
私の理想は崩れ去った。
甘い恋人同士の時間を過ごしてみたかったんだ。
王宮でも見かける貴族達の密会現場のように。
彼らは二人の世界で甘い一時を過ごしていた。
世界に二人しかいないような雰囲気を醸し出し、木に隠れるように重なりあう影に興味を注がれ自身を押さえられず二人に近付いた時があった。
二人は愛おしそうに名を呼び唇を重ねていた。
これが恋人同士なんだと理解した。
あんな風に私もいつか…。
そう思っていたのに…。
現れたのは恋愛など一切興味もないような人物で、王宮でのお茶会でも見たことがないような奴だった。
彼の父は公爵家の中でも上位に来る家門だ。
だから選ばれたのだろう…。
ならば、父も私の好みなど聞かずに国のための政略結婚だと言ってくれれば良かったのに…。
そうしたら、期待などせずに済んだ…。
父も人が悪い…。
それでも、私は王族。
個人の感情ではなく、国のために動かなければならないのは理解している。
婚約者とのお茶会も苦痛を感じながらも必ず行った。
話せば、お茶会等より王宮の図書館に興味があると言われた。
「人との会話は難しく、本が相手の方が気楽です。」
私には彼の言葉の意味が良く分からなかった。
本は会話にはならない、私の話しに耳を傾けないし意見も言わない。
そんなのつまらないじゃないか。
やはり、彼とは合わないと知る。
彼は頻繁に王宮にやってくる。
それは私に会いに来るのではなく、私の隣に立つに相応しい教養を身に付ける為らしい。
私の隣に立つのだからそのくらいしてほしいが、彼が優秀になればなる程、婚約が現実のものになっていった。
私は彼と結婚するのか…。
あの時の、木に隠れて会瀬を交わす二人に私はなれないのか…。
彼から誕生日の贈り物が届くとインクだのと実用的なものばかりで、恋人同士が贈り合うようなものではなかった。
宝石が欲しいとは言わないが、事務的ではなく心のこもった物が欲しかった。
彼はきっと使用人に伝え贈らせていたのだろう。
そんな物を贈られるくらいなら贈られない方がましだろうと、私は彼に一度も贈り物をしなかった。
彼の誕生日にも何もすることはなかった。
当然エスコートも…いや参加もしなかった。
王族がわざわざ貴族の誕生日に参加する必要はないと判断した。
「忙しい」
という理由に彼の誕生日パーティーには欠席すると返事をした。
一度断るとニ度目は罪悪感もなく断ることができた。
何もなく私たちの時間は坦々と過ぎていった。
過ぎていく中で彼が領地での功績を上げ、他国との貿易にも乗り出したと…。
彼は国に必要な存在だと認識されてしまった。
社交界デビューの際も、私はエスコートせず遠くから彼を見ていた。
彼が私にどうしても、というならダンスくらいしても良いと考えていた。
だが、彼は私に一向に近付いて来ることはなかった。
他の貴族達は私を見つけては必ず寄ってくるのに、彼だけは私の思い通りに動かなかった。
遠くにいる彼は実力の有る貴族達に囲まれ会話している。
お前は私の婚約者なのに、何故そんな無防備に許しているんだ?
相手との距離も近すぎるんじゃないのか?
私には事務的な会話のみで、徹底して距離を保っていたのに…。
あの光景は不愉快でしかなかった。
そのパーティーからかは分からないが、私と婚約者は不仲だという噂が流れた。
少し楽しみでもあった。
私の婚約者で居たかったら何らかの行動を起こすだろう。
あの堅物が何をするのかワクワクした。
冷静を保っては居たが必ず行動するはず…。
だがいつになっても彼は噂を否定することも、私に対して行動を起こすこともなかった。
婚約解消…したくないんだよな?
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