【完結】王子の婚約者をやめて厄介者同士で婚約するんで、そっちはそっちでやってくれ

天冨七緒

文字の大きさ
上 下
136 / 177

僕が分かる? エストレヤ イグニス

しおりを挟む
広すぎるベッドで一人、目を覚ました。

「アティに会いたい。」

声に出すつもりはなかったのに、気が付いたら呟いていた。
服はサイズの合った物をお父様が用意してくれたので、そちらを着ることにした。
食堂で皆と朝食を取り、僕とお父様は談話室に待機した。
アティにいち早く会いに行きたかったけど、公爵様が向かったので大人しく待つことにした。

ばたん

昨日僕に紅茶を淹れてくれた優秀な使用人なのに、ノックや確認なく乱暴に扉を開けた。
音に驚き反射的にお父様と共に扉を向いた。

「アティラン様がお目覚めになりました。」

ずっと待ち望んだ言葉。

その言葉で僕の頭からは使用人の無作法なんて何処かへ行ってしまった。
ソファから立ち上がり駆けるように使用人さんの元へ。
後からお父様も早足でくるも、僕は振り返ることなく走ってアティの部屋を目指した。
他所様の…格上の方の屋敷を走り回るなんて、してはいけない事だったけどアティに会いたい気持ちでいっぱいでそれどころではなかった。

お父様も僕を注意することはなかった。

アティの扉の前ではなんとか立ち止まりノックをすることが出来た。
「エストレヤです」と告げれば「どうぞ」と公爵様の許可を得ることが出来た。
扉を開け部屋に入ると公爵様に重なり見えないが、起き上がっているアティが見えた。

「アティ…」

さっきまであんなに走ってしまっていたのに、アティの姿を見たら急な足がゆっくりになった。
早くアティの傍にいきたいのに…怖い。
アティとの距離が縮まるにつれ不安が増していき、公爵様が場所を譲ってくれた。
アティと目が合うもいつものように…

笑ってはくれない。

「アティ?」

呼び掛けても返事もない…。
次第に心臓が壊れそうに締め付けられた。

「アティ…僕の事…分かる?」

お願い「分かる」っていって「エストレヤ」って名前て呼んで。

「すげぇ俺の好みの奴がいる、来いよ。」

…もしかして覚えて…ない?
アティに手を伸ばし促されるままベッドの上に乗りアティに跨がった。

「僕の事…覚えて…ない?」

声が震えてしまっていた。
アティ…。

「俺達ってどんな関係?」

「…っ…僕達は…婚約者です。」

「ふぅん、俺の事どう思ってる?」

「アティの事、大好き。」

「へぇ…ならさぁ…。」

「ぅん?」

「キスして。」

「…ぅん」

公爵様やお父様が同じ空間にいるというのは頭に合ったけど、恥ずかしいという気持ちはなかった。
キスしたら記憶が戻るかかもって期待してしまう。
うんん、喩え記憶がなくても僕の事を好きになってほしい…。
その願いが叶うなら僕から何度だってキスをする。

軽く触れ合うキスをして離れた。

「…それで思い出せるかよ。思い出して欲しかったら…分かるよな?」

「んっ」

アティの首に腕を回し唇を重ねた。
触れ合うだけでなく舌を絡めるキス。

眠るアティとは出来なかったエッチなキス。

エッチな音が生まれて後頭部しか見られていないがお父様にも聞かれているかもと、頭を過ると途端に恥ずかしくなり唇を離した。

「ん?ん~ん、思い出せそう…もう一回してくんねぇ?」

「ぅんっ」

思い出せそうと言われると、もう一度唇を重ねた。

「お願い思い出して」という思いを込めて一生懸命舌を絡めた。

腰に腕を回されキスを受け入れてくれているのに少しだけ安堵した。
記憶がなくても僕とキスしてくれてる。
また、僕を好きになってくれるかもと期待してしまう。
キスに夢中で気付くのが遅れたけと、アティの手がエッチになりだした。
いつもアティを受け入れいる箇所に指が当たってる。
記憶を失ってもアティはエッチだった。
嬉しくなってお父様がいるのをすっかり忘れてエッチなキスに夢中になった。

「んん゛?エストレヤ゛っ離れなさいっ。」

突然のお父様の声に驚いたけど、唇を離すことはなかった。
というより離すことが出来なかった。
アティに頭を押さえられキスを続行するしかなかった。

「エストレヤ、アティラン様は記憶を失ってない゛。」

「ん?」

本当?

お父様の叫び声に驚いて閉じていた瞼を開けた。
目があったままキスを続けると、意地悪なアティがいた。

記憶…失ってない?

言われるといつものアティのキスのように感じる。
アティだから記憶を失ってもキスの仕方は同じなのかなって思ったけど、記憶失ってないの?
頭を押さえられ一向にキスが終わらなかった。
どうしよう、皆に見られてないけど久しぶりのアティのキス…。
気持ち良くて僕のが反応しちゃってる。

「アティラン」

公爵様の言葉が合図となり唇が離れた。

「アティ?僕の事…。」

「俺がエストレヤを忘れるわけねぇだろ?」

「うっぅっうっんっん゛ん゛」

「泣くなよ…ちゅっ」

アティだ。
僕の知ってるアティが帰ってきてくれた。
離れたくない。

「エストレヤ、アティラン様は目覚めたばかりだ。」

「…はい」

病み上がりでアティの上から降りなきゃと思うのに、アティから離れたくないという思いと離れたら皆に僕のがどうなってるから知られてしまうという思いでなかなかアティの膝の上から降りられなかった。

「エストレヤこのままでいろよ。」

「ぇっ、でもアティが…。」

「俺は平気、離れたくないんだよ。」

「…ぅん、僕もっ。」

アティは更に抱き寄せ、僕のを隠してくれた。

「アティランどのくらい覚えてるんだ?」

「どのくらい…。」

「最後の記憶は?」

「ん~なんだったっけな?」

「授業で魔力を使いきったとか。」

「…あっそうだ、魔力切れになりながら階段上ってたら金髪野郎に突き落とされたんだ。」

突き落とされた?
事故じゃないの?

「…金髪野郎とは?」

…そうだよね、金髪野郎じゃ分かんないよね誰だか…。

「んぁ?あぁ、元婚約者。」

「………そうか…、ではどうする?目撃者もいるしアティランの証言だけでも王族に抗議することも出来る。」

アティが王子を金髪野郎と呼んでいるのを公爵様やお父様は驚いていたというより困惑?していた。
僕もアティが王子を金髪野郎と初めて聞いた時、金髪野郎が王子だと結び付かなかったというか、結び付けて良いのか困惑した。
何でも寛大に許している公爵様も一瞬表情が止まったように見えた。

「あぁ、抗議してもあいつ変わんねぇと思うけど…。」

「だとしても、公爵家が何の理由もなく暴行を受けたんだ。三日も目を覚まさない程の事を無かったことになど出来ない。きっちりと報告する。」

「ふぅん、ならあいつと話したいんだけど。」

「それは構わないが、平気か?」

「一度確り話さないとあいつは諦めないと思う。俺だけじゃなくエストレヤにも被害が行く可能性がある。そうなる前に出来ることはしておきたい。」

「分かった。」

僕は二人が真剣な話をしていたので存在を消すようにアティに抱きついていた。
このままで良いのか分からず視線を彷徨わせていたら、お父様と目があった。
「降りなさい」とお父様の口が動いたように見えた。
僕も「うん」と頷き降りるタイミングを見計らっていた。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

処理中です...