【完結】王子の婚約者をやめて厄介者同士で婚約するんで、そっちはそっちでやってくれ

天冨七緒

文字の大きさ
上 下
133 / 177

我が儘をしていた エストレヤ イグニス

しおりを挟む
僕は眠り続けるアティの部屋のソファで眠っている。

眠っていると言うより横になっているだけだけど。
アティが目覚めるかもと思うと眠る気にはなれなかったし、眠くなかった。
公爵家のお世話になることだけでも迷惑になるのに、更に無理を言ってアティの部屋に居続ける事に対して公爵様から許可をいただいた。

僕はただアティが目覚めたら一番に会いたいだけなの…。

我が儘を言ってはいけないと分かってはいても、自分を止められなかった。
僕が我が儘を言い過ぎて、お父様が公爵家にやって来た。
きっと僕を疎ましく思った公爵様により、お父様に抗議の連絡がいったのだと思う。

僕は連れて帰られるのかな…。

ただ、アティの傍にいたかっただけなのに…。
婚約も…。
…アティと離れたくないよ。

「エストレヤ」

「……はぃ」

連れていかれるのかな?
アティと別れるの?

「アティラン様も心配だが、私はエストレヤも心配だ。グラキエス公爵様もエストレヤを心配し私に連絡をくれたよ。」

「………」

それは…帰れってこと?

「不安なのは分かる、だけどエストレヤまで倒れてしまったらどうするんだ。アティラン様が目覚めた時に元気な姿で傍にいなさい。」

「………」

やっぱり侯爵邸に帰れって事だよね?

「…怖いのは分かる。グラキエス公爵様と話してきた。万が一アティラン様が再び記憶喪失になっていたとしても、エストレヤとの婚約解消は考えていないと。二人で関係を築きあげ、話し合ってからでも決断は遅くはないと仰ってくれたよ。」

それは…どういう事?
だめだ、よく考えられない。
別れなくて良いって事?
記憶を失ったアティと婚約を続けられるって事?
そうなったらアティは僕の事…。

「…アティ…また、僕の事好きになってくれるかな?」

「記憶が有っても無くても、アティラン様の本質は変わらないよ。エストレヤは今まで通り振る舞えば良いんだ。」

「………」

記憶があってもなくても…。
以前のアティラン様は完璧で、誰に対しても公平な人だった。
それは当時の婚約者アフェーレ王子に対しても…。
僕達もあんな風になっちゃうのかな…。

「エストレヤ、ちゃんと食事や睡眠は確り取りなさい。公爵様もアティラン様を心配たいのにエストレヤの事まで気に掛けていただいているんだぞ。」

「…はぃ」

公爵邸に来てから僕はずっとアティの傍から離れなかった。
公爵様はそんな僕をずっと許してくれた。
アティの傍から離れたくないという僕の我が儘を叶えてくれている…。

「公爵様もアティラン様が心配なんだ。エストレヤばかりがここにいてはいけない。ちゃんと客室を借りなさい。」

「…はぃ…すみません。」

「エストレヤ、アティラン様は大丈夫だ。いずれ目を覚ます。喩え記憶を失っても私も協力する。エストレヤは一人じゃない。」

「……はぃ」

僕はとても我が儘を言っていたことを思い知らされた。

アティが心配で傍にいたくて僕は僕の事しか見えていなかった。
アティのお父様やお母様だって心配でアティに会いたいはずなのに…。

僕が邪魔をしていた…。

僕は何をしているんだろう。
大好きな人が大変な時に大好きな人の家族に迷惑を掛けるなんて…。

「アティラン様が目覚めた時にそんな元気の無い顔でどうするんだ。食事を頂き休みなさい。アティラン様が目覚めたら起こすから。」

「…はぃ」

離れたくはないがアティの部屋を出て食堂に向かった。
既に話が通っていたのか、僕の姿を見た使用人の人が食事を手配してくれる。
食欲はなかったが、無理矢理にでも食べた。
僕が食べなかったら使用人から公爵様に報告されてしまう…僕が食事に手を付けなかったら公爵様に迷惑を掛けてしまう…。

食べ終わると使用人に客室へと案内され、客室に一人でいるとアティの事しか事しか考えられなかった。

眠っていても良いからアティに会いたい。
アティの寝顔を見たかった。

こんこんこん

ノックを聞いただけでアティが目覚めたんだと思った。

「はい」

返事をしながら急いで扉に向かった。

「紅茶をお持ちしました。」

「……はぃ」

僕の聞きたかった言葉ではなかった。
扉が開くと先ほどの使用人が立っていた。

「イグニス侯爵様が紅茶を飲んで少し休むようにと。」

「…はい」

使用人さんの後ろ姿を眺めながら、僕はソファに腰を下ろす。
手際よく紅茶を淹れるのを何も考えられず、ただ眺めていた。
五感が鈍感になっているのか、紅茶の香りも味も良く分からない。
視界もボヤけ次第に頭も働かなくなり、ゆっくり瞼が降りた。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

処理中です...