【完結】王子の婚約者をやめて厄介者同士で婚約するんで、そっちはそっちでやってくれ

天冨七緒

文字の大きさ
上 下
108 / 177

噂は嘘ほど広まるのが早い

しおりを挟む
食堂に入りいつも座る席付近に向かえばティエンダとフロイトの姿を見つけた。
近付くと二人も気付いた。

「グラキエス…大丈夫か?」

「あぁ」

ティエンダは声を押さえながら、慎重に声をかけてきた。
かなり周囲を気にしているように見えたが、食堂に入った時点でかなり注目を浴びていたので普段通りでも構わなかった。

「…イグニス様は?」

フロイトの方もエストレヤを窺いながら尋ねた。
これ程注目されてるのはパーティーでの一件が広まったのだろう、二人から心配の表情で見られる。
エストレヤを座らせ二人分の食事を準備した。

「グラキエス、この後時間あるか?話したいことがあるんだ。」

「あぁ、わかった。」

何も気付いていないように振る舞い、食事を終え四人席を立った。
談話室に向かい、何となくだが二人がけのソファにエストレヤといつものようにではなく並んで座った。
ティエンダとフロイトも膝に乗ることなく隣に座っていた。

「あの日の事が噂になってる。」

「…あぁ。」

注目を浴びていたので、だろうなとは思っていた。
確かに学園主催のパーティーで何か起これば、他人を蹴落とすための噂を広げる事に労力を厭わない貴族達により一気に広まるのは用意に想像できる。

「俺達は経緯を知っているし、教師達からも他言無用と言われたので誰かに話してはいない…いないんだが…。」

「なんだ?」

「間違った噂が流れている。」

「間違った?」

あれだけ目撃されてるんだ、間違ったってどう間違うんだよ?

「あぁ、パーティー会場でイグニス様が王子を誘惑し飲み物をかけられたと…そして控え室でも王子を襲い、あろうことか媚薬まで使っていた…と…。」

中途半端に間違った噂だ。

事実ではないのはすぐに理解できる。
金髪がエストレヤに突っかかり飲み物をかけ、控え室で金髪が媚薬を盛った…。
中途半端に当たっている噂は広まるのが早い。
観ていた奴らが都合良く広めたんだろう。

「それだけじゃないんだ。」

「んあ゛?」

ティエンダは今の状況を正確に伝えているだけなのに、つい苛ついた返事をしてしまった。

「イグニス様が…。」

「…僕が何ですかが教えてください。」

エストレヤは既に聞いた噂だけでも不愉快なものなのに、ティエンダが躊躇うほどの噂に不安な表情でありながら尋ねていた。

「王子とグラキエスに媚薬を盛り、それだけでは飽き足らず他の男達とも愉しんでいたと…王子やグラキエスが休んでいるのは相当な媚薬で隔離されているが、イグニス様は今も男達と代わる代わる…。」

語るティエンダが申し訳なさそうな表情だった。

「…その噂は教師にも届いてんだろ?教師はなんて?」

「王子と高位貴族の問題を軽々しく話すわけにはいかない、今は静観するしかないと言われました…。」

それって、エストレヤ一人を傷物にして騒ぎが収まるのを待つだけって事だろ?
問題を起こしたのが王子だから忖度したと…。
その為にエストレヤを生け贄にした…。

「エストレヤ。」

「はっはい。」

涙目で胸の前で手を組むエストレヤ。
真実とは異なる噂を広められ、一人悪者にされたエストレヤ。

「基本は俺といろ、一人になるようなことはするな。」

「…はい。」

エストレヤは震える声で返事をする。

「俺も協力する。」

「僕もお側に…。」

ティエンダもフロイトも協力してくれるのはありがたい…が、全員クラスが違う。
結局、教室ではエストレヤは一人だと言うことになる。

「ありがとうございます。」

僅かに安心しているエストレヤに不安になるようなことは言いたくなかった。

噂が収まるのを待つしかないのか?

いくら加害者が王族だからって関係ない奴をスケープゴートにすんなよ。
エストレヤが言い返せないのを見越してだとするなら教師も屑野郎だな。

「教えてくれてありがとうな。」

「いや…なにも出来ず…。」

「教師の指示にしたがったんだティエンダは悪くない…そんな顔すんなよ。今回の件ではすげぇ助かってるから感謝してる。」

「………。」

少し気まずいものとなったが、ティエンダやフロイトに助けられたのは事実だ。
媚薬を盛られ助け出され、エストレヤを呼んでくれた。

それだけで十分だ。

部屋に戻るとエストレヤの顔色は真っ青だった。
当然だ、あんなデタラメな噂を流されれば。

一方的にエストレヤが悪者だ。

全ての被害者はエストレヤなのに…くそっ。

「エストレヤ」

ソファに座りいつものようにエストレヤを膝の上に乗せた。
俺にしがみつきながら身体を震わせていた。

「俺達は真実を知っている、今度はちゃんと守るから。」

エストレヤが落ち着くまで背中を擦った。

全ては俺の責任だ。

相手の不貞とはいえ綺麗に婚約解消出来ていなかったと言うことだ。
あいつは俺に相当な恨みを持っていたようだ…。

過去の俺か今の俺かなんて関係なく、俺の行動でエストレヤを苦しめた。

俺ではなく俺の弱点を突いてくるなんて…戦術としては有ることだが糞野郎の手口で不愉快極まりない。

「エストレヤ…愛してる。」

頬にキスをするが、極力エッチな雰囲気は出さず宥め続けた。
エストレヤは何一つ悪くないのに、何故こんなに苦しまなければならないだ。

「エストレヤは一人じゃない、俺がいる…ティエンダもフロイントも味方だ。」

「んっ」

「俺達は本当のエストレヤを知ってる。」

「…ん」

「不安になったら俺に言え。」

「…ん」

「エストレヤが苦しいと俺も苦しいんだ。」

「………」

「エストレヤが居なくなったら生きていけねぇよ。」

「…僕も。」

エストレヤは漸く俺を見た。
唇が触れれば互いに舌を絡めだし、噂のことを忘れるように互いを求めた。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

処理中です...