【完結】王子の婚約者をやめて厄介者同士で婚約するんで、そっちはそっちでやってくれ

天冨七緒

文字の大きさ
上 下
88 / 177

仲間の勇姿

しおりを挟む
俺達もだが他の奴らもダンスの終わりに集中していた。

「婚約者なんだ、最後はキスで締め括れよ。」

俺の言葉がホールにいる多数の人間の頭に残り、ダンスの後を期待していた。婚約者ダンスに挑んでいた者達は曲が終わり礼をする。
ホールにいる婚約者達はお互いを観察していたが、行き着く先はティエンダとフロイントだった。
二人は緊張しながらもゆっくり近付き唇が触れると勢い良く離れた。
それを目撃した婚約者達も軽くちゅっとしてからホールを小走りで後にしていた。
顔を真っ赤にさせたティエンダとフロイントが戻ってくるのを視線を外さず「俺の勝ちだな」とエストレヤの耳元で囁き耳を食べれば「ひゃぁん」と可愛らしく啼いた後「ぅん」と頷いていた。

結果としては俺が確認出来たのは十組前後といったところだ。
顔だけでなく首まで赤くした二人が戻ってきた彼らと入れ替わるよう、三曲目が始まろうとしていた。

「グラキエス様…。」

真横から話し掛けてきたのは…同じクラスのオプ二…オプト…なんとかだった。
咄嗟にエストレヤを腕の中で隠していた。

「ん?」

「ダンスを…」

「ん?」

「ダンスをお願いできませんか?」

…なんでだ?
社交界?
ダンスパーティーだからダンスを誘われるのは当然なのか?
だが、俺はエストレヤ以外とダンスをする気はない。

「…練習したとは言えまだダンス不馴れなんだよ、悪ぃな。」

「それでも…」

引き下がらないな…。
貴族のパーティーの常識は知らないが、婚約者の目の前でダンスに誘うのはどうなんだ?
許されることなのか?

「俺より婚約者の居ない奴、誘った方がいいんじゃないのか?」

「………はぃ。」

オプ…なんとかは、分かりやすく落ち込み去っていった。
社交界って出会いの場なんだろ?婚約者のいる俺じゃなくてフリーの奴に狙いを定めるべきだ。
他人の者を欲していると幸せにはなれないのを早く気付くべきだ。

「お帰りなさい。」

エストレヤの二人を出迎える声で、帰ってきたのを知った。
ダンス終えただけにしては、かなり火照った顔をしている二人だな。

「外で少し涼むか?」

「「はぃ」」

俺達四人は外のベンチで冷たい風に当たりながら休むことにした。
俺の膝の上には向かい合うようエストレヤが座り、ティエンダの膝の上にはフロイントが横向きに座っていた。

静かだな。

「ダンスはどうだった?」

「…緊張…した。」

だよな、俺も。

「一曲目になっちまったもんな。」

「んっ」

「だけど気持ち良かったな、誰にも邪魔されず二人だけで。」

「…ぅん。」

「キスも…」

「ん…」

「これでエストレヤは俺のもんだって証明できた。」

「……僕はもう…。」

「俺のもの?皆に見せ付けてぇんだよエストレヤに手を出すなって。」

「誰も僕に…手なんか出さないよ。」

俺の胸に凭れていたエストレヤが視線を上げ俺に訴える。

「エストレヤが分かってねぇだけだよ。」

「そんなこと…ァティの方がだよ…。」

「俺の方が?なら、エストレヤが見せ付けたらいいだろ?」

「…んっ」

「こんな風に。」

「んっんふぅんっんんっん」

「エストレヤからしてくれんだろ?」

「んっ…ぁっここじゃ…だめ。」

二人だけの世界から隣のティエンダとフロイントを確認した。
忘れていた訳じゃないが、二人は二人の世界を作り出していたのであえて気にしなかった。
膝の上にはフロイントを乗せ俺が以前気を付けろと言った通り腰に手を回し支えていた。

抱きしめる腕でなく支える手だった。

フロイントもティエンダの胸に凭れ、ダンスの余韻に浸ったいる状態で、二人はその体勢のまま一言も話していなかった。

「少し会場でパーティーに顔を出したら部屋に戻るか?」

「んっ」

「エッチしような。」

「…んっ」

頬を染めながら答えるエストレヤに、まだ照れるんだなと嬉しくなった。
俺を意識してるってことなんだよな?

「賭けに勝ったんだ、エストレヤにエッチな事してもらわないとな。」

「……ぁっ…」

忘れていたのか驚きの表情で俺と目が合う。

「してくんねぇの?」

「…する。」

態と悲しそうに聞けばエストレヤから望んだ言葉が聞けた。

ちゅっと頬にキスしてから立ち上がる。

「ティエンダ、俺達先に会場に戻るわ。」

「あっあぁ。」

「二人もすぐに戻れよ、風邪引くぞ。」

「あぁ」

婚約者、初心者二人はまだ熱が冷めていないようで頬が赤く、くっついている分には風邪などひいたりはしないだろうが、風は冷たい。
いつまでもいるべきではない。

俺はエストレヤの腰に手を回し会場を目指した。

「ひゃっ」

目指していたが、建物に入る前にエストレヤを壁に押し付けエストレヤの頬に手をやると冷たく冷えていた。
唇を重ね深いキスをし暖め合った。
会場の音楽を壁越しに聴き、ティエンダ達からも遠く、誰の気配も感じない場所で存分にキスをしあう。
周囲に人が居ない場所でのキスだとエストレヤも素直に受け入れ、俺の背に腕を回していた。

「戻るの、もうちょっと待って。」

「んっ」

何度もキスを繰り返し戻るタイミングを探っていたが、丁度曲が終わりそれを合図に唇を離す。

「…もぅ…」

エストレヤも同じ考えだったのだろう。
そろそろ戻らなければならない、戻りたくない、戻るタイミングが分からない。
そんな感じだ。

「…行くか。」

「ぅん。」

二人で建物に入った。
静かに、周囲に気付かれないようひっそりと。

人が居ない方へ居ない方へと歩いていく。
ダンスホールから離れ、人脈づくり等の挨拶周りの集団も避け軽食が用意されている場所に辿り着いた。
数人しか居ない場所で、一口サイズのクッキーを食べさせあったりと俺達なりにパーティーを楽しんでいる。
飲み物がほしくなりエストレヤを残し取りに行った。

両手にジュースを持ちエストレヤが待つ場所まで歩いていく。
この国では十五歳以上であればアルコールの摂取が許されるが、学園のパーティではアルコールは用意されていない。
アルコールを飲んだエストレヤに興味があったが、俺自身酒を受け付ける体質なのか分からないので失態を犯す前にここは我慢した。
下らないことを考えていれば、何か不穏な空気を感じた。
エストレヤの周囲にいる人間がダンスホールではなく別のところに注目している。

あの時の教室を思い出す…。

良く見るとエストレヤと遠くない位置に金髪野郎がいた。
胸がざわつき早足で向かい、人を避けエストレヤを確認すればエストレヤの服には赤い染みが出来、王子は空のグラスを手にしていた。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

処理中です...