上 下
76 / 177

ラーデン ティエンダ

しおりを挟む
隣に座るのと同時にフロイントの手が視界に入った。
急に手を繋いだりしたら振り払われるだろうか?
やはり俺達には一つ一つ確認が必要だよな…。

「手を…繋がないか?」

「…はぃ」

先に手を差し出せば、フロイントの手が重なった。
俺とは違う小さく細い指を気遣いながら優しく覆った。
下手に握ると折れてしまうのではと不安になる。

「ティエンダ様。」

「…お゛お」

フロイントの手にばかり意識が集中してしまった。

「もぅ…行きますか?」

「…えっ?」

「…時間が…。」

「時間?」

フロイントの視線を辿ると時計があり、既にあれから大分時間が経っていた。
俺は長い間フロイントの手を見つめていたらしい。

「い…くか。」

「はい。」

空いている手でカバンを持ち立ち上がれば、フロイントもカバンを持って立ち上がる。
二人で俺の部屋を出ていく。
如何わしい事は何も無いと断言できるが、二人で俺の部屋から出ると言うだけで何処か恥ずかしくもあった。

学園に向かう途中もなんだか視線を感じる。

疑わしいことをしたわけでも後ろめたいわけでもないが、今日はすれ違う人間に全てにフロイントが俺の部屋から出てきたのがバレてしまっているのではと考えてしまう。

伯爵家で多少視線を感じて何も感じなかったが、今日は違う…。
フロイントは俺の婚約者だ。

「ティエンダ様?」

「ん?…っ」

「よぉティエンダ、今日は珍しいな。」

「んぁ?」

フロイントに聞き返す前に声をかけられ、振り返ると友人のフェッセン コンパーニョがいた。

「手繋いでティエンダの部屋から一緒に出てくるなんて初めてじゃないのか?」

「あっ、あぁ」

俺達はあれからずっと手を繋いでいた。

「ふぅん」

なんだそのにやついているような微笑みはっ。

「ティエンダ様…。」

「なんだっ」

そうだ、さっきも声をかけられていたんだ。
フェッセンの登場によりフロイントを後回しにしてしまうなんて、婚約者失格だ。

「あの…手…」

「手が痛いのか?」

しまった気を付けていたのに強く握りすぎたか?

「あっいえっその…。」

まさか…俺に触れられるのが…。

「…あっ、繋ぐのが嫌だったか?」

「いえっそうじゃなく…。」

「…言ってくれ。」

なに言われても…フロイントの言葉なら耐える。
我慢はしないでくれ。

「…学園まで…その…手を?」

「そのつもりだが…だめ…だろうか?」

ダメなのか?
離さなきゃいけないのか?
…離したくない。

「いぇっ………だ…め…じゃない…です。」

「そうか。」

良かった。
拒絶されたわけじゃないんだな?
俺達は手を繋いだまま登校したが、それでも別れは来る。
何故俺達は別のクラスなんだ。
悔しさにフロイントのクラスの前に来ても手を離せずにいた。

「ティエンダ様?」

「………。」

離したくないんだ…フロイントはもう俺から離れたいのか?

「お昼をご一緒してもいいですか?」

「もちろんだっ。」

誘われたっ、フロイントから食事を誘われた。

「ふふっまた、お昼に。」

なんて可愛らしい笑みだ。

「あぁ…(また、お昼に)」

フロイントの言葉が頭を占めた。
俺が手を緩めるとフロイントの手がするりと消えていった。

昼…はあと何時間だ?

俺のクラスに行き席についてもフロイントの事ばかりを考えてしまい、時計を見つめていた。
昼になると急いでフロイントのクラスまで迎えに行った。
クラスの前で待っていたので、出てくる生徒全員と視線が合う。

「あっ」

「フロイント。」

「待っていてくれたんですか?」

「…会いたかった。」

「えっ」

フロイントの反応で思いが声に出ていたことを知る。
なんて恥ずかしいことを言ってしまったんだと後悔しかない。
たった数時間さえ待てない狭量な男と思われたか?

「…僕も…。」

「へっ」

あまりに小さい声だったが、俺は聞き逃さなかった。
鼻血が出るのではと思う程、血液が顔に集中し始めた。
廊下で顔を真っ赤にした婚約者同士を気になりつつも、視線を逸らしなが多くの生徒が通りすぎていった。

「…食堂に行くか?」

「はぃ」

ぎこちなくも歩き出したが、俺の隣にフロイントは居なかった。
振り返ると半歩後ろにフロイントが歩いていた。

「フロイント。」

「ひゃいっ」

「…手を…繋ごう。」

「…はぃ」
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

うそっ、侯爵令嬢を押し退けて王子の婚約者(仮)になった女に転生? しかも今日から王妃教育ですって?

天冨七緒
恋愛
目覚めると王妃教育が始まる日。 婚約者の侯爵令嬢から、あの手この手で王子を奪った子爵令嬢に転生してしまいました。 子爵令嬢という立場では婚約者にはなれないので多少の教養を身に付けてから何処かの貴族に養子にという表向きの言葉を信じ今日から王妃教育が施されます。 実際は厳しくされ、逃げ出すよう仕向け王妃に気に入られている侯爵令嬢を婚約者に戻す計画のようです。 その後、子爵令嬢は王子を誑かした罪により自身に見合った職業、娼婦にされるという大人達の思惑。 目覚めるのが早ければ王子なんて手出さないのに。 手を出した後。 このままだと娼婦。 その道を避けるには、出来るだけ真面目に王妃教育をこなし王族の怒りをこれ以上買わないようにし静かに身を引く。 せめて追放ぐらいにしてくれたらその後は一人で生きていきます。 王宮では恥知らずの子爵令嬢を出迎える準備が整っていた。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

処理中です...