【完結】王子の婚約者をやめて厄介者同士で婚約するんで、そっちはそっちでやってくれ

天冨七緒

文字の大きさ
上 下
68 / 177

正しい婚約者とは

しおりを挟む
「ごほん」

「ぴゃぁ」

存在をアピールするようにティエンダが咳をすると、二人きりでない事を思いだし驚いたエストレヤから面白い悲鳴が聞こえた。

「あっすみません…。」

ティエンダの咳は偶然だったのか、俺達を邪魔してしまったことに謝罪された。
俺としてはもうちょっとしていたかったが、まぁ良いタイミングではあった。

「ぁっぁっぁっ」

エストレヤは見られていたことにパニックになっていた。

「あぁ、俺達の事は気にしなくていい。婚約者同士このくらいは普通だろ?」

挑発ではないが、この程度でとやかく言うなよとアピールしてみた。

「普通…なのか?」

「……わかんない。」

ティエンダが普通なのかフロイントに尋ねるも、彼も婚約者初心者なので困惑していた。

「普通だよなエストレヤ?」

この場にいる最後の一人に意見を求めると、視線が集中した。

「ふぇっ?」

突然自分に話を振られ、皆に見られてあたふたしていた。

「部屋ではいつもこんな感じだよな?」

「…ぇっぁっそのっ。」

エストレヤは恥ずかしくて本当の事が言えずにいた。
いつの間にか落ち着いていたエストレヤの顔が再び真っ赤に染まっていた。

「嘘ついたら俺が悲しいなぁ。」

そんな風に言えば正直に言うしかないのを分かっていて「悲しい」という言葉を選んだ。

「ぁっ…ぅん…いつも…こんな感じです。」

エストレヤは恥ずかしがりながら本当の事を口にした。

「いつも?」

ティエンダの質問は好奇心ではなく、純粋に婚約者というものが知りたかったのだろう。

「エストレヤ答えて。」

俺ではなくエストレヤに答えさせた。

「…はぃ、いつも…です。」

「どのくらいの頻度ですか?」

「…毎日です。」

まるで尋問のように尋ねてくる。
ティエンダにとっては真剣なんだろうが、真剣すぎて刑事のようだった。

「毎日…毎日…毎日…。」

ティエンダは壊れたように「毎日」という言葉を繰り返していた。

「エストレヤは俺の部屋にずっといるもんな?」

助け船のように俺が答えた。
全く助け船ではないが。

「ぁっ……ぅん。」

「エスト…イグニス様はグラキエスの所に?」

ティエンダは自身の許容範囲を越え始めたのか、俺がエストレヤと呼んでいるのに引っ張られエストレヤと呼びそうになっていた。
だが、最後までは呼ばなかった…良い判断だ。

「ぁっはい…。」

「………。」

ティエンダは言葉を失いフロイントと見つめ合っていた。
次第に二人の顔が赤くなった。
婚約者初心者の二人は何を想像してんのか考えるとニヤついてしまう。

「婚約者だったら、許されることだよな?」

エストレヤの喉元にかぶり付いた。
二人に確りと見えるように。

「ゃっん…だめぇ…んぁっ…」

先程とは違い二人の存在を覚えていたので、エストレヤから軽く抵抗されるも続けた。
唇を離し視線を合わせると「だめって言ったのに」と抗議の言葉を聞いたが口を塞いだ。
俺の胸を押し返す手には大して力が入っていない…いつもそうだよな?
婚約者初心者へのサービスタイムもそろそろ終え、二人きりの時間が欲しくなってきた。

「部屋で二人きりで続きする?」

「…んっ。」

囁くように尋ねると小さな声で同意された。
エストレヤは続きがしたいのもあるが、人前では恥ずかしいんだろう…教室や廊下、中庭とは違う状況に耐えられない様子だった。

「んじゃ俺達そろそろ行くわ。」

「あっあぁ。」

「はァい。」

不意に声をかけられティエンダはなんとか返事をするが、フロイントの声は裏返っていた。
そんなに激しいもん見せたつもりはないんだけどな。
そういえば初めて至近距離で知り合いのキスを目撃してしまった時は気まずかったな…。
悪ぃ、そんな経験あったのに同じ事しちまった。

「二人はもう少し婚約者らしくしてみたら?じゃあなっ」

「あっぁ…お先に失礼します。」

エストレヤの腰にイヤらしく手を回し、去り際に課題を残しておいた。
二人がこの後どうするのか多少は気になるものの、俺は部屋に向かって二人きりでするエストレヤとのことを妄想していた。
婚約者の事を知りたいと思うのは当然で一度知ってしまえば離れられないだろう。
きっとティエンダも俺と同じになるはず。
フロイントはエストレヤよりも辛いかもしれない。
ティエンダは俺よりも体格が良く体力ありそうで、フロイントはエストレヤと同じような体格だ。
尚且つティエンダはいう迄もなく童貞。
初めては相手を思って手加減するとは思うが、四回目・五回目には多分暴走するんだろうな。
その時フロイントが無事であることを祈るしかない。

学園休むだろうな…。

そん時のために、俺よりもエストレヤと仲良くなっておくべきだろ。
あっちも俺じゃなくて同じ立場のエストレヤに相談したいこととか出てくんだろうな。
仲間意識じゃないが仲は深めておいた方がいい。
エストレヤも俺以外にも信用できる奴はいた方がいいし。
ティエンダとフロイントは色んな意味で変な気を起こすようには見えないから信頼できる。

それよりもアイツだよな。

今後もちょこまかしてきそうだ。
一応情報収集しておくか。
聞ける相手は今のところ二人しかいないが、一応聞いておくべきだろう。

あの二人キスぐらいしてっかな?

何年も婚約者やって、手を繋いで終わりって…。
この世界の奴はそれが当たり前なのか?
んな分けねぇよな…。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

処理中です...