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この野郎 侯爵家当主
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グラキエス家から婚約話が有った時には何が起きたのか理解できずにいた。
数ヶ月前にアティラン様が事故にあったと噂が流れたと同時に、婚約が解消されたと報告が飛び込んできた。
何でも殿下が平民に入れ込み他者の目も気にせず会瀬を交わす姿に耐えきれずアティラン様が忠告したところ、開き直り暴力を振るった結果アティラン様が記憶喪失になったと。
同情の余地がない程愚かな行為だ。
アティラン様程優秀であり聡明な方はいなかった。
あの方が王家に嫁ぐ事は国のためだと納得していた。
例え殿下との仲がどうしようもなく悪くとも、世継ぎが出来ないのであれば側妃を迎えればいいだけの事。
寧ろ、国の内政は全てアティラン様に任せ王家との繋がりのために側妃に我が子をと考える貴族は多数いた。
斯く言う私もその一人だった。
我が家は王家との繋がりを欲した事はないが、アティラン様が納める王宮であればエストレヤは平穏に暮らせると考えた。
我が家は侯爵家であり殿下の婚約者候補の一つではあったが、エストレヤの能力は言ってしまえば普通だった。
飛び抜けて良いのは顔と言いきることが出来るが、世渡りは下手だ。
アティラン様は確かに愛想はないが貴族派も王族派も文句をつけることはなかった。
能力と家柄、更には派閥関係なく平等であり潔癖だった。
取り入ることは出来ないので、墓穴を掘らないよう皆安易にお近づきになろうとは考えていなかった。
近付くなら殿下だと、それでも不用意に近付きグラキエス家の怒りに触れるのを恐れ結婚後の数年は待つことは暗黙の了解だった。
世継ぎが出来ない時に側妃と名乗る、その為に学園で顔見知り程度に近付きなさいとエストレヤには伝えてあった。
…なのに、殿下とアティラン様が婚約解消し記憶喪失となったアティラン様の婚約者にエストレヤが?
殿下よりも難攻不落のアティラン様をエストレヤが?
グラキエス家から婚約話があり、混乱していた時にエストレヤからグラキエス様と婚約したいと手紙があった。
これは単なる偶然なのか、二人は思いあっている?のか…。
あのアティラン様が?
あのアティラン様が?
なんども言ってしまうが、あのアティランが?
エストレヤと?
…だめだ、想像することを脳が拒否している。
どうすれば良いのか悩んでいると連休後半にアティラン様と共に我が家へと先触れが来た。
急いでエストレヤにも連休には帰って来なさいと先触れを出した。
グラキエス家が来る前にエストレヤに事実確認をすれば「グラキエス様と…婚約したぃです…。」と頬を染めながら告白してきた。
いつまでたっても、なんて可愛らしいんだと微笑ましくなるものの婚約したいから婚約出来るものではない。
アティラン様は、記憶を失ったとは言え王族と婚約していたお方。
こちらから婚約を申し出ることも、お断りすることも容易く出来るものではない。
あちらの出方次第でもあり、エストレヤの気持ちも聞いた。
当日のグラキエス家の提案に次第で決定するものと判断した。
我々は話し合いの当日、グラキエス家の馬車が来る前から屋敷の前で出迎えの為整列していた。
エストレヤも心なしか落ち着きがなかった。
今のエストレヤからアティラン様を慕っているのはわかる。
あの方だ、お慕いしてしまうのは仕方がない。
親としてエストレヤが幸せであり悲しむことがないことを祈るしかない。
グラキエス家の馬車が到着し公爵に続いて夫人が降りてくる、そしてアティラン様が現れた。
エストレヤは美しい顔だが、まだ幼さが残る。
それに比べアティラン様は、中性的ではあるものの大人の妖艶さを兼ね備えていた。
太陽の光なのかアティラン様には後光を背負っているようだった。
つい見とれてしまっていたが、公爵や夫人に挨拶をしていると「エストレヤ」と美しい声が響いたと思えば抱き合う恋人たちがいた。
唇を重ね美しい絵画を観ているようで錯覚に陥ってしまった。
脳が覚醒するまで、二人の口付けをこの場にいる全てのものが見入っていた。
ふと覚醒し、屋敷の中へと案内した。
その間もアティラン様はエストレヤの腰を抱いていた。
鉄壁、潔癖、無関心のあのアティラン様が他所の屋敷で当主の目の前でまだ婚約者と決まっていない相手の腰を抱くなんてこれは現実か?
この方は本当にアティラン様なのか?
目の前で起きている光景を信じることが出来ず、気が付けば応接室についていた。
公爵の方から婚約について話があった。
その間もアティラン様を盗み見れば、エストレヤから一切視線を逸らすことはなくエストレヤに向けて微笑んでいた。
二人は恋人同士なのか?
失礼を承知で殿下との婚約解消や記憶の事を尋ねた。
公爵が答えるかと思えば、アティラン様が発言した。
「私」ではなく「俺」と発したことでアティラン様が本当に記憶を失っていることを知る。
あの方は幼い頃から自身の事を「私」と呼び、大人顔負けの発言をしていた。
「記憶は有りません、戻る気配もありません。一生このままの可能性も有ります。不安だと思いますが俺はエストレヤと婚約したいと思っております。」
その後も恨まれるような質問を続けるも、淡々と受け答えをする。
記憶を失ってもアティラン様はアティラン様だった。
最後にエストレヤに婚約について尋ねれば
「ぼくも…グラキアス様と婚約したいです。」
恥ずかしがりやで、自分の意見を伝えることが苦手なエストレヤがはっきりと宣言した。
この成長に感極まり、反対の言葉は出てこなかった。
「こちらも婚約をお願いします。」
それから書類にサインをし、婚約は正式に決まったので食事に誘ってしまった。
これがいけなかったのかもしれない。
数ヶ月前にアティラン様が事故にあったと噂が流れたと同時に、婚約が解消されたと報告が飛び込んできた。
何でも殿下が平民に入れ込み他者の目も気にせず会瀬を交わす姿に耐えきれずアティラン様が忠告したところ、開き直り暴力を振るった結果アティラン様が記憶喪失になったと。
同情の余地がない程愚かな行為だ。
アティラン様程優秀であり聡明な方はいなかった。
あの方が王家に嫁ぐ事は国のためだと納得していた。
例え殿下との仲がどうしようもなく悪くとも、世継ぎが出来ないのであれば側妃を迎えればいいだけの事。
寧ろ、国の内政は全てアティラン様に任せ王家との繋がりのために側妃に我が子をと考える貴族は多数いた。
斯く言う私もその一人だった。
我が家は王家との繋がりを欲した事はないが、アティラン様が納める王宮であればエストレヤは平穏に暮らせると考えた。
我が家は侯爵家であり殿下の婚約者候補の一つではあったが、エストレヤの能力は言ってしまえば普通だった。
飛び抜けて良いのは顔と言いきることが出来るが、世渡りは下手だ。
アティラン様は確かに愛想はないが貴族派も王族派も文句をつけることはなかった。
能力と家柄、更には派閥関係なく平等であり潔癖だった。
取り入ることは出来ないので、墓穴を掘らないよう皆安易にお近づきになろうとは考えていなかった。
近付くなら殿下だと、それでも不用意に近付きグラキエス家の怒りに触れるのを恐れ結婚後の数年は待つことは暗黙の了解だった。
世継ぎが出来ない時に側妃と名乗る、その為に学園で顔見知り程度に近付きなさいとエストレヤには伝えてあった。
…なのに、殿下とアティラン様が婚約解消し記憶喪失となったアティラン様の婚約者にエストレヤが?
殿下よりも難攻不落のアティラン様をエストレヤが?
グラキエス家から婚約話があり、混乱していた時にエストレヤからグラキエス様と婚約したいと手紙があった。
これは単なる偶然なのか、二人は思いあっている?のか…。
あのアティラン様が?
あのアティラン様が?
なんども言ってしまうが、あのアティランが?
エストレヤと?
…だめだ、想像することを脳が拒否している。
どうすれば良いのか悩んでいると連休後半にアティラン様と共に我が家へと先触れが来た。
急いでエストレヤにも連休には帰って来なさいと先触れを出した。
グラキエス家が来る前にエストレヤに事実確認をすれば「グラキエス様と…婚約したぃです…。」と頬を染めながら告白してきた。
いつまでたっても、なんて可愛らしいんだと微笑ましくなるものの婚約したいから婚約出来るものではない。
アティラン様は、記憶を失ったとは言え王族と婚約していたお方。
こちらから婚約を申し出ることも、お断りすることも容易く出来るものではない。
あちらの出方次第でもあり、エストレヤの気持ちも聞いた。
当日のグラキエス家の提案に次第で決定するものと判断した。
我々は話し合いの当日、グラキエス家の馬車が来る前から屋敷の前で出迎えの為整列していた。
エストレヤも心なしか落ち着きがなかった。
今のエストレヤからアティラン様を慕っているのはわかる。
あの方だ、お慕いしてしまうのは仕方がない。
親としてエストレヤが幸せであり悲しむことがないことを祈るしかない。
グラキエス家の馬車が到着し公爵に続いて夫人が降りてくる、そしてアティラン様が現れた。
エストレヤは美しい顔だが、まだ幼さが残る。
それに比べアティラン様は、中性的ではあるものの大人の妖艶さを兼ね備えていた。
太陽の光なのかアティラン様には後光を背負っているようだった。
つい見とれてしまっていたが、公爵や夫人に挨拶をしていると「エストレヤ」と美しい声が響いたと思えば抱き合う恋人たちがいた。
唇を重ね美しい絵画を観ているようで錯覚に陥ってしまった。
脳が覚醒するまで、二人の口付けをこの場にいる全てのものが見入っていた。
ふと覚醒し、屋敷の中へと案内した。
その間もアティラン様はエストレヤの腰を抱いていた。
鉄壁、潔癖、無関心のあのアティラン様が他所の屋敷で当主の目の前でまだ婚約者と決まっていない相手の腰を抱くなんてこれは現実か?
この方は本当にアティラン様なのか?
目の前で起きている光景を信じることが出来ず、気が付けば応接室についていた。
公爵の方から婚約について話があった。
その間もアティラン様を盗み見れば、エストレヤから一切視線を逸らすことはなくエストレヤに向けて微笑んでいた。
二人は恋人同士なのか?
失礼を承知で殿下との婚約解消や記憶の事を尋ねた。
公爵が答えるかと思えば、アティラン様が発言した。
「私」ではなく「俺」と発したことでアティラン様が本当に記憶を失っていることを知る。
あの方は幼い頃から自身の事を「私」と呼び、大人顔負けの発言をしていた。
「記憶は有りません、戻る気配もありません。一生このままの可能性も有ります。不安だと思いますが俺はエストレヤと婚約したいと思っております。」
その後も恨まれるような質問を続けるも、淡々と受け答えをする。
記憶を失ってもアティラン様はアティラン様だった。
最後にエストレヤに婚約について尋ねれば
「ぼくも…グラキアス様と婚約したいです。」
恥ずかしがりやで、自分の意見を伝えることが苦手なエストレヤがはっきりと宣言した。
この成長に感極まり、反対の言葉は出てこなかった。
「こちらも婚約をお願いします。」
それから書類にサインをし、婚約は正式に決まったので食事に誘ってしまった。
これがいけなかったのかもしれない。
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