恋愛に向いていない女性の記録。婚約者との関係改善を目指して記憶喪失のフリをしたら……婚約解消になった編

天冨 七緒

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トゥーリッキ・カタストロフィ

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<トゥーリッキ・カタストロフィ>

 折角侯爵夫人になれると思っていたのに……

「ダミアン・オルトロス侯爵。貴殿を謀反の疑いで拘束する」

 突然現れたのは王室直轄の騎士。
 何のことだか分からず、私は侯爵から離れる。
 私……関係ないもの。

「どうして……こうなるの? 」

 騎士は侯爵の執務室を入念に調査し、私も聴取された。
 
「私は二日前に侯爵の婚約者となり、侯爵家にお世話になっておりました。ですが、また屋敷内を案内されただけで、侯爵夫人としての仕事を教わったりなどしておりません」

「あぁ、調査済みだ。この後、オルトロスの屋敷は捜査が入る。滞在は可能だがカタストロフィ伯爵家に戻ることも問題ない。但し、監視対象であるので国外に出る事は禁止だ」

「監視……対象……私、関係ありません」

「それが証明されるまでは、共犯者・協力者としての疑惑は拭えない事を忘れるな。それと、監視中であるので令嬢が接触した人物も監視対象になる。むやみやたらに外出しないことを進める」

 オルトロスの屋敷では騎士が行き交い、不安を煽り冷静ではいられないので伯爵家に戻る事にした。

「なんで戻って来た? 」

 父は私の帰りを待ってはいなかった。

「面倒事ばかり起こしやがって……」

「め……面倒事って、侯爵との婚約はお父様も喜んでいたじゃないっ私のせいにしないでよ」

「全く……このまま誰とも婚約出来なかったら、お前をどこかの貴族に売り払う。嫁ぎ先を私に決められたくなかったら、直ぐにでも自分で探せ」

「そんなっ……フ……フランツは? フランツは私の事を今でも愛しているはずよ。彼ならきっと喜んで私と婚約するはずよ」

「フランツ様は……」

「何かあったのですか? 」

「……お前が婚約し、侯爵の元へ向かった後に……婚約の打診があった」

「まぁ、なら丁度いいじゃない。すぐに婚約を受けれいる返事をしてください」

「……既に断りの手紙を送ってしまった」

「なんて事してるんですか? 」

「侯爵と婚約したんだ。侯爵にあらぬ疑いを掛けられない為に仕方がなくだ。こうなるなんて私も思っていなかったんだ」

「……どうするんですか……」

「美しいトゥーリッキが婚約を望めば、どの令息も受け入れるに違いない」

「私、爵位の下の人は嫌っ」

 伯爵令嬢で美しい私が下位貴族なんてありえない。

「……マルタール侯爵はどうだ? 夫人が亡くなり随分経つ」

「マルタール侯爵は私の三十以上も年上じゃないっ、そんな年寄りに嫁ぎたくないわっ」

 この私の相手がそんな人だなんて、誰も羨まず自慢にもならないじゃない。
 
「年齢の見合う婚約者のいない令息は……レオミュール公爵だが……打診しても面識ないだろう? 他に結婚していない高位遺族はフランツ様か……カガーリン伯爵令息……他は……」

 レオミュール公爵は二つ年上で年齢的にも丁度良く、麗しい姿で紳士的と聞く。
 だが、本人が結婚に興味がないというのは令嬢達の間では有名な話。
 それに、過去に私が挨拶をした記憶も曖昧。
 カガーリン伯爵令息は、とても地味な顔立ちに至って目立つ能力もなく貴族の中で上位ともいえる質素な生活を送られている。
 なので、彼に婚約者が不在だというのも納得。
 結婚適齢期の今、高位貴族で相手のいない者は訳アリと呼ばれている。

「……フランツ様しかいないのね……なら、強引に婚約を迫られ断れなかった事にします。私に合わせて余計な事言わないでくださいね」

「あぁ」

 それから急いで彼に会いに行った。

「フランツ様っ」

 涙ながらにでっち上げれば簡単に信じた。
 昔からこの男は操りやすい。
 他の令嬢であればこんな事に騙されたりはしないだろう。
 私だから出来る事。

「……なんですか? この契約……」

 フランツは愚かな事をしたと話、契約書の存在を明かす。

「今の彼女は……事故の後遺症で記憶喪失となった。その為、全ての約束は契約書として残すことに……」

「だからって、こんな契約は……」

 騙されやすいと思っていたが、まさかここまでとは……
 しかも、私に契約書を見せた瞬間に慰謝料を支払わなければならないことに気が付いているのだろうか?
 私との婚約の為に契約解消を望む事は『気持ちの変化』に該当し、契約違反にあたらない。
 それに記憶喪失の件も令嬢と対面した時に、うっかり私が口にしたらどうするつもりだ?
 追及したくても、契約書の存在を知ってしまった今、記憶喪失という切り札は使えない。
 使おうものなら、フランツは多額の慰謝料を支払う事になる。
 それは許せない。
 フランツのお金は全て私のお金よ、誰にも奪わせないんだから。

「これは……何か考えなければいけませんね……」
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