27 / 78
聖女のオマケらしいので自力で帰ります
聖女のオマケらしいので自力で帰ります 異世界側
しおりを挟む
一方、聖女を呼び出した異世界では……
「まさか、聖女様があちらだったとは……」
聖女召喚に立ち会った王子。
その後、なかなか能力を発揮しない聖女を不審に思い儀式を執行した代表者の元へ赴きあの日の続きを知る。
「あの聖女様、自力で戻ったようです」
聖女召喚の儀式を執行した司祭が報告する。
「あの魔法陣は、呼び寄せる事は出来ても帰ることは出来ないんじゃなかったのか?」
「……そう聞いております」
「帰ってしまったのは仕方がない。もう一度儀式を執り行うしかあるまい。それから誠心誠意謝罪をしよう」
「それがですが……」
「何だ?」
「聖女様が帰る際、魔法陣に亀裂が……」
「亀裂? では、もう聖女様は呼べないという事か?」
「……はい」
「どうするんだっ、使えない女だけが残り聖女様が帰還だなんて」
「申し訳ありません」
「……はぁぁぁぁぁぁぁ」
王子は長い溜息を吐く。
聖女召喚には成功したものの、聖女はすぐに帰還。
聖女召喚に巻き込まれた人間だけが取り残されている状態。
国は今も魔獣に襲われ続け、被害が拡大している。
騎士も応戦してはいるが、日に日に戦力を失い衰退している。
いつ王都に魔獣が襲ってきてもおかしくない状況。
今や他国から『消滅への秒読みが始まった国』と揶揄され援助も打ち切られた。
神頼みも、聖女頼みも手は尽くし、最大のチャンスを手放した。
悔やんでも悔やみきれない……
「聖女様……」
<聖女:岩崎聖子>
「どうして、鶴子が聖女なのよ。聖女は私よ。アイツ等間違ってる」
数か月前。
私は聖女召喚に呼ばれ、王宮に滞在している。
皆が私を『聖女』と求め、崇める姿が堪らなく心地よかった。
対照的に一人取り残される鶴子。
惨めな扱いを受ける彼女がいる事で、私は恵まれている事に幸せを実感していた。
「聖女様、我が国にお越しくださり感謝しています」
「私が聖女?」
困惑した様子を見せながら、当然だと内心思っていた。
鶴子が聖女なわけがない。
あの子はきっと私の召喚に巻き込まれたのだろう。
この世界でも面倒事はあの子にしてもらおうっ。
それがあの子にはお似合いだもの。
「はい」
皆が羨望の眼差しで私を見る。
目の前の素敵な男性も。
こんなにカッコいい男性初めて見た。
彼に出会えただけで私が呼ばれた理由が分かる。
彼は私の運命の相手。
今まで出会った男達とは比べ物にならない程、素敵な人。
顔は整っていて綺麗で、体も逞しい。
そして一番の魅力は身なり。
彼の服装や周囲からの対応を見ると『王子』だと予想。
それから、この国の事を説明を受ける。
「我が国は今、魔獣の標的となっています。騎士も疲弊し国民にも甚大な被害が出ています。国としてやれることはやったつもりですが、もう聖女様に頼るしか出来ないのです。どうか、我が国を救って頂けないでしょうか?」
「……私に出来る事であれば……」
「ありがとう」
「……えっと……貴方は?」
「名乗っていなかったな。私はこの国の王子、エヴァルド・レイニカイネンだ」
「私は岩崎聖子。聖子って呼んで」
「聖子……良い名前だな。聖子には王宮に滞在してもらう。不便な事があれば遠慮なくなんでも使用人に言ってくれ」
「私が王宮に?」
「当たり前だ……聖子に部屋を案内してくれ」
エヴァルドの言葉で使用人に部屋を案内される。
「ここが私の部屋?」
「はい、こちらが聖女様の部屋でございます」
与えられた部屋は映画に出て来そうな豪華な部屋。
まるでお姫様気分。
幼い頃からお姫様に憧れていた。
父にも『うちのお姫様』と、姫扱いを受けて育ったくらい。
これから楽しみで仕方がない。
私はきっとパーティーなどで紹介されるのだろう。
「その場で王子との結婚を公表されたりして?」
今後の事を考えると楽しみで仕方なく、一緒に召喚された鶴子の事は忘れていた。
豪勢な食事に好待遇。
私は異世界という環境に適応していく。
「それで、聖子。君には魔獣の被害が続出している場所に向かってほしい」
「……魔獣が続出する場所にですか?」
いつかは行くのではないかと予想はしていた。
だが、採寸などを行われたのでパーティーでのお披露目が先に行われると思っていた。
「あぁ。これが装備一式だ」
エヴァルドの後ろに控えている使用人が箱をいくつもテーブルの上に置く。
てっきり、パーティーに参加する為のドレスや宝石だと決めつけていた。
箱を開けると、白を基調としたワンピースに帽子付きのコートのようなもの。
私の好みではない。
「これは……」
「司祭に保護魔法をかけてもらってある。聖女の聖子には必要ないものだが、我々の気持ちだ」
少し、聖女という立場が面倒に思えた。
「……エヴァルド様も一緒ですよね?」
「いや、私は足手まといになる。王宮で指揮を執る」
それって、安全な場所で待機ってこと?
大抵、聖女と共に王子も一緒に魔獣討伐に向かうものじゃないの?
次第にやる気を奪われる。
「……いつからでしょうか? まだ心の準備が出来ておらず」
「そうか。こちらとしては万全の準備が整ったので明日にでもと思っていた」
「明日? それは、少し早すぎます。私はこちらに来てまだ体が対応できておらず能力もまだ……」
「……あぁ、そうだったな。少し焦り過ぎてしまった。では、どのくらいで向かえる?」
一カ月と言いたいが、相手の反応からして難しいと判断。
……どうして私が相手を窺う必要がある?
「一カ月は必要かと」
私はこの国にたった一人しかいない聖女。
これはワガママではなく、国を救うための準備期間であり正当な訴えだ。
「一カ月? それは難しい」
「ですが、万全な体調でないと私も難しいです」
「……分かった。一カ月待とう」
私の訴えが通り魔獣討伐は一カ月後となった。
「あの……」
「どうした?」
「私は貴族の方にご挨拶などはしなくていいのでしょうか?」
早くパーティーで私を紹介してほしい。
「挨拶? それは、魔獣討伐を終えてからパーティーを開催する」
「終えてからですか……」
私は今すぐにでも『聖女』と公表して皆に羨ましがられたいのに。
聖女になってあげたのに、全然私の事を分かってくれない。
エヴァルドは女の子にプレゼントを贈った事ないのかな?
「それでは、私はこれで」
「もう行っちゃうの?」
「あぁ。魔獣被害は各地で起きている。その支援に援助を検討しなければならない」
「……そうですか」
エヴァルドは去って行った。
魔獣被害と言われると、それ以上彼を引き止める事が出来なかった。
「……こういう時、物わかりの良い私って損よね」
暇な私は、使用人を引き攣れて庭の散歩。
穏やかな王宮。
「本当に魔獣なんているの?」
犬や猫ではなく、トラやライオンなんて動物園でしか見たことがない。
アニメのような魔獣なんて信じられないでいる。
討伐までの一カ月、静かに過ごす。
本当ならお茶会でも開催したいのに、誰も提案をしてくれない。
エヴァルドも、最初の頃は毎日一度は会いに来ていたのに次第に二日に一度、三日に一度に変わる。
「私の事、蔑ろにしすぎじゃない?」
不満が募っていくばかり。
そして……
「聖女様、本日はよろしくお願いいたします」
「……えぇ」
共に行動する騎士達とも対面。
騎士団長は予想とは違い、強面で屈強な男。
アニメなどに出てくるようなイケメン騎士ではなかった。
共に出発する騎士達は『聖女』の私に羨望の眼差しを向ける。
これよ、これ。
私が望んでいたもの。
「俺、聖女様の護衛に選ばれ光栄です」
一人の騎士に声を掛けられる。
顔は普通でパッとしないが、正直な感想が私を喜ばせる。
「よろしくお願いね」
「はいっ」
彼の喜ぶ姿に他の騎士も、私達に温かい眼差しを向ける。
「聖子よ、頼んだ」
「はい」
エヴァルドに見送られ、私は出発する。
「はぁ……面倒……こういう面倒事はアイツの仕事でしょ……てか、アイツ何処行ったんだろう? もしかして、王宮追い出されてたりして……笑える。帰ったら聞いてみなきゃ」
久しぶりに鶴子の事を思い出す。
私がパーティーで主役の姿をアイツに見せつけたくなった。
「帰ったら、アイツを王宮へ戻してもらおう。それで、私のお付きにしてあげようっ」
帰る楽しみを考えながら魔獣の被害に遇っている場所を目指す。
到着まで一カ月ほどは掛かるのかと思っていたが、二週間程で到着してしまった。
「聖女様っ、お願いします」
「はい」
私は呼ばれ、優雅に登場する。
魔獣と対峙しているという場所へ案内される。
「え?」
熊サイズの魔獣かと思っていたが、騎士達が戦っているのはバスと同じくらいの魔獣。
大きさに圧倒されてしまう。
「聖女様、お願いします」
お願いしますと言われても私は何をすればいいの?
混乱しながらも、アニメとかであるように祈りを捧げる。
祈りと言うよりも、願い。
『お願い、消えてください。私、死にたくない。お願い、死んで。早く、死んで……』
私は目をつぶって必死に願った。
「聖女様っ」
『やだ、やだ、やだ。私、死にたくない。お願いだから早く終わって……早く』
「くそっ」
その後も騎士の戦いは続く。
ドン
私の足元に何かが転がって来た。
コロコロコロ
「……ひゃっ」
目を開け何事かと確認すると、先程挨拶した騎士と目が合った。
彼の首から下を確認できない。
私はどうしてこんなところに来てしまったの?
帰りたい。
「いやぁぁぁぁぁぁああああああ」
私は、急いで乗って来た馬車に乗り込む。
「聖女ぉぉぉおおお……」
その後も、戦いは続く。
私は終わるまで目を瞑り耳を塞ぎしゃがみ込んでいた。
「……聖女……」
「きゃっ……」
馬車の扉が開き、呼ばれる。
「……魔獣は退治した。この後も続く。今日は、宿に戻る」
「……はい」
私はいち早くこの場所から移動したかった。
いつの間にか泣いていた私は、騎士が鋭い視線を私に向けている事になど気付く余裕がなかった。
宿に到着し部屋に戻り、私はベッドに潜り込む。
「帰りたい、帰りたい、帰りたい……」
何度も繰り返すも現実は変わらず。
早朝、騎士団長に呼ばれる。
「朝食だ」
「……いりません」
「食べないと身が持たない」
「……私には無理です」
「……貴方は聖女様として呼ばれました、ここで王宮に引き返すことは出来ません」
「そんなこと言われても……」
「貴方は聖女様なのですよね?」
「力の使い方が分からないんです」
「……何故、今さらそんなことを……」
「王子には、準備が必要と話しました。それなのに強引に行くよう言われたんです」
「だから、一カ月も出発を後らせたのですか?」
何も言わず頷いた。
「まさか……分かりました。今から王宮へ戻りましょう」
騎士は納得し、王宮へ戻る決意をした。
王宮へ戻る馬車に乗り込む際、騎士達から鋭い視線を受けた。
行きとは違う、睨みつけるような視線。
そんな視線、初めて向けられた。
王宮へ戻る道中、休憩や宿に宿泊する時も騎士達の目に触れないよう過ごした。
何日も何日も、隠れて過ごす。
そしてようやく王宮へ到着した。
「……聖女」
私が帰ってくるのを報せでも受けていたかのようにエヴァルドが待ち構えていた。
「エヴァルド……」
「話がしたい」
「……少し休みたいのですが……」
エヴァルドの態度からいい話ではないと察知し、休みたいと告げる。
告げた瞬間、エヴァルドから今まで見たこともない目で睨まれた。
「時間が無い。着替えたら、私の執務室に来るように。騎士団長、報告をしてくれ」
「はい」
エヴァルドと騎士団長は私を置いて歩き出す。
残された私は、共に帰還した騎士から悪意を向けられているのに気が付く。
体が強張り、後ろにいる彼らに振り向けないでいた。
『能力を制御できないって……』
『出発前に言えば、アイツらは死ぬことなかったのに……』
『本当に聖女なのか?』
『偽物じゃないのか?』
幻聴なのか現実に言われているのか、私には分からなかった。
彼らから逃げるように部屋を目指す。
すれ違う使用人達は早すぎる私の帰還に困惑していた。
時間を掛け、お風呂に入り着替えを済ませる。
部屋に戻ると使用人が待ち構える。
「エヴァルド王子がお待ちです」
「……はい」
エヴァルドの待つ執務室へ向かう。
早く会いたいと思っていたエヴァルドが、今では気が重い。
「……聖子」
「お待たせしました」
「騎士団長から報告を受けたが、能力を使いこなせないというのは本当か?」
「……はい」
「一カ月何を……いや、聖子にはこれから教会に移り住み訓練してもらう」
「……はい」
エヴァルドの提案を断ることが出来ず、教会で訓練する事に。
だが、私が聖女の能力を発揮する事は無かった。
そして、ある事実を告げられる。
「貴方は聖女ではありませんでした。聖女は、一緒に訪れた女性の方でした」
「一緒に訪れた……鶴子の事? そんな事はあり得ない。あの子が聖女だなんて……絶対に間違いよ」
「いえ、あの方は自らの力で帰還されました」
「帰った? あの子が? なら、私も帰れるのね? なら帰るわ。聖女じゃないなら、こんな処いたくない」
「それは難しいでしょう。魔法陣は使用できなくなりましたから」
「どうして、アイツは帰れて私は帰れないのよ」
「こちらの手違いでお呼びしてしまったお詫びにこちらを……」
差し出された袋の中には金貨が入っていた。
「これは……手切れ金じゃないですよね?」
「その通りです。こんな訳も分からない魔獣の世界に一人で生きられるわけないじゃない。返してよ」
「私にはどうにもできません」
「なら、ここにいさせてよ」
「それも難しいです」
「責任取りなさいよ」
「この金貨がお詫びです」
話は平行線で譲つもりは無かったが、騎士が登場。
そして私は力づくで教会から追い出された。
「……なんでこんな事になるのよ……」
私は王宮を目指す。
無我夢中だったが、到着。
人間その気になればなんでも出来るもので、何も知らない騎士を言いくるめ聖女召喚の儀式が行われた場所を探す。
「……あった」
司祭の言った通り、儀式場の床には亀裂が。
「お願い、私を元の世界に帰らせて。お願い。私、帰りたいのお願い……お願い……」
いくら願っても魔法陣が反応する事は無かった。
そして、私は王宮へ許可なく侵入したとして犯罪者となった。
本来であれば処刑されてもおかしくないのだが、私の境遇もあり二度と王宮へ足を踏み入れないという事で私は解放された。
街で私は他の人と同じように魔獣に怯える日々を過ごす。
「帰りたいよ……鶴子……助けて……」
「まさか、聖女様があちらだったとは……」
聖女召喚に立ち会った王子。
その後、なかなか能力を発揮しない聖女を不審に思い儀式を執行した代表者の元へ赴きあの日の続きを知る。
「あの聖女様、自力で戻ったようです」
聖女召喚の儀式を執行した司祭が報告する。
「あの魔法陣は、呼び寄せる事は出来ても帰ることは出来ないんじゃなかったのか?」
「……そう聞いております」
「帰ってしまったのは仕方がない。もう一度儀式を執り行うしかあるまい。それから誠心誠意謝罪をしよう」
「それがですが……」
「何だ?」
「聖女様が帰る際、魔法陣に亀裂が……」
「亀裂? では、もう聖女様は呼べないという事か?」
「……はい」
「どうするんだっ、使えない女だけが残り聖女様が帰還だなんて」
「申し訳ありません」
「……はぁぁぁぁぁぁぁ」
王子は長い溜息を吐く。
聖女召喚には成功したものの、聖女はすぐに帰還。
聖女召喚に巻き込まれた人間だけが取り残されている状態。
国は今も魔獣に襲われ続け、被害が拡大している。
騎士も応戦してはいるが、日に日に戦力を失い衰退している。
いつ王都に魔獣が襲ってきてもおかしくない状況。
今や他国から『消滅への秒読みが始まった国』と揶揄され援助も打ち切られた。
神頼みも、聖女頼みも手は尽くし、最大のチャンスを手放した。
悔やんでも悔やみきれない……
「聖女様……」
<聖女:岩崎聖子>
「どうして、鶴子が聖女なのよ。聖女は私よ。アイツ等間違ってる」
数か月前。
私は聖女召喚に呼ばれ、王宮に滞在している。
皆が私を『聖女』と求め、崇める姿が堪らなく心地よかった。
対照的に一人取り残される鶴子。
惨めな扱いを受ける彼女がいる事で、私は恵まれている事に幸せを実感していた。
「聖女様、我が国にお越しくださり感謝しています」
「私が聖女?」
困惑した様子を見せながら、当然だと内心思っていた。
鶴子が聖女なわけがない。
あの子はきっと私の召喚に巻き込まれたのだろう。
この世界でも面倒事はあの子にしてもらおうっ。
それがあの子にはお似合いだもの。
「はい」
皆が羨望の眼差しで私を見る。
目の前の素敵な男性も。
こんなにカッコいい男性初めて見た。
彼に出会えただけで私が呼ばれた理由が分かる。
彼は私の運命の相手。
今まで出会った男達とは比べ物にならない程、素敵な人。
顔は整っていて綺麗で、体も逞しい。
そして一番の魅力は身なり。
彼の服装や周囲からの対応を見ると『王子』だと予想。
それから、この国の事を説明を受ける。
「我が国は今、魔獣の標的となっています。騎士も疲弊し国民にも甚大な被害が出ています。国としてやれることはやったつもりですが、もう聖女様に頼るしか出来ないのです。どうか、我が国を救って頂けないでしょうか?」
「……私に出来る事であれば……」
「ありがとう」
「……えっと……貴方は?」
「名乗っていなかったな。私はこの国の王子、エヴァルド・レイニカイネンだ」
「私は岩崎聖子。聖子って呼んで」
「聖子……良い名前だな。聖子には王宮に滞在してもらう。不便な事があれば遠慮なくなんでも使用人に言ってくれ」
「私が王宮に?」
「当たり前だ……聖子に部屋を案内してくれ」
エヴァルドの言葉で使用人に部屋を案内される。
「ここが私の部屋?」
「はい、こちらが聖女様の部屋でございます」
与えられた部屋は映画に出て来そうな豪華な部屋。
まるでお姫様気分。
幼い頃からお姫様に憧れていた。
父にも『うちのお姫様』と、姫扱いを受けて育ったくらい。
これから楽しみで仕方がない。
私はきっとパーティーなどで紹介されるのだろう。
「その場で王子との結婚を公表されたりして?」
今後の事を考えると楽しみで仕方なく、一緒に召喚された鶴子の事は忘れていた。
豪勢な食事に好待遇。
私は異世界という環境に適応していく。
「それで、聖子。君には魔獣の被害が続出している場所に向かってほしい」
「……魔獣が続出する場所にですか?」
いつかは行くのではないかと予想はしていた。
だが、採寸などを行われたのでパーティーでのお披露目が先に行われると思っていた。
「あぁ。これが装備一式だ」
エヴァルドの後ろに控えている使用人が箱をいくつもテーブルの上に置く。
てっきり、パーティーに参加する為のドレスや宝石だと決めつけていた。
箱を開けると、白を基調としたワンピースに帽子付きのコートのようなもの。
私の好みではない。
「これは……」
「司祭に保護魔法をかけてもらってある。聖女の聖子には必要ないものだが、我々の気持ちだ」
少し、聖女という立場が面倒に思えた。
「……エヴァルド様も一緒ですよね?」
「いや、私は足手まといになる。王宮で指揮を執る」
それって、安全な場所で待機ってこと?
大抵、聖女と共に王子も一緒に魔獣討伐に向かうものじゃないの?
次第にやる気を奪われる。
「……いつからでしょうか? まだ心の準備が出来ておらず」
「そうか。こちらとしては万全の準備が整ったので明日にでもと思っていた」
「明日? それは、少し早すぎます。私はこちらに来てまだ体が対応できておらず能力もまだ……」
「……あぁ、そうだったな。少し焦り過ぎてしまった。では、どのくらいで向かえる?」
一カ月と言いたいが、相手の反応からして難しいと判断。
……どうして私が相手を窺う必要がある?
「一カ月は必要かと」
私はこの国にたった一人しかいない聖女。
これはワガママではなく、国を救うための準備期間であり正当な訴えだ。
「一カ月? それは難しい」
「ですが、万全な体調でないと私も難しいです」
「……分かった。一カ月待とう」
私の訴えが通り魔獣討伐は一カ月後となった。
「あの……」
「どうした?」
「私は貴族の方にご挨拶などはしなくていいのでしょうか?」
早くパーティーで私を紹介してほしい。
「挨拶? それは、魔獣討伐を終えてからパーティーを開催する」
「終えてからですか……」
私は今すぐにでも『聖女』と公表して皆に羨ましがられたいのに。
聖女になってあげたのに、全然私の事を分かってくれない。
エヴァルドは女の子にプレゼントを贈った事ないのかな?
「それでは、私はこれで」
「もう行っちゃうの?」
「あぁ。魔獣被害は各地で起きている。その支援に援助を検討しなければならない」
「……そうですか」
エヴァルドは去って行った。
魔獣被害と言われると、それ以上彼を引き止める事が出来なかった。
「……こういう時、物わかりの良い私って損よね」
暇な私は、使用人を引き攣れて庭の散歩。
穏やかな王宮。
「本当に魔獣なんているの?」
犬や猫ではなく、トラやライオンなんて動物園でしか見たことがない。
アニメのような魔獣なんて信じられないでいる。
討伐までの一カ月、静かに過ごす。
本当ならお茶会でも開催したいのに、誰も提案をしてくれない。
エヴァルドも、最初の頃は毎日一度は会いに来ていたのに次第に二日に一度、三日に一度に変わる。
「私の事、蔑ろにしすぎじゃない?」
不満が募っていくばかり。
そして……
「聖女様、本日はよろしくお願いいたします」
「……えぇ」
共に行動する騎士達とも対面。
騎士団長は予想とは違い、強面で屈強な男。
アニメなどに出てくるようなイケメン騎士ではなかった。
共に出発する騎士達は『聖女』の私に羨望の眼差しを向ける。
これよ、これ。
私が望んでいたもの。
「俺、聖女様の護衛に選ばれ光栄です」
一人の騎士に声を掛けられる。
顔は普通でパッとしないが、正直な感想が私を喜ばせる。
「よろしくお願いね」
「はいっ」
彼の喜ぶ姿に他の騎士も、私達に温かい眼差しを向ける。
「聖子よ、頼んだ」
「はい」
エヴァルドに見送られ、私は出発する。
「はぁ……面倒……こういう面倒事はアイツの仕事でしょ……てか、アイツ何処行ったんだろう? もしかして、王宮追い出されてたりして……笑える。帰ったら聞いてみなきゃ」
久しぶりに鶴子の事を思い出す。
私がパーティーで主役の姿をアイツに見せつけたくなった。
「帰ったら、アイツを王宮へ戻してもらおう。それで、私のお付きにしてあげようっ」
帰る楽しみを考えながら魔獣の被害に遇っている場所を目指す。
到着まで一カ月ほどは掛かるのかと思っていたが、二週間程で到着してしまった。
「聖女様っ、お願いします」
「はい」
私は呼ばれ、優雅に登場する。
魔獣と対峙しているという場所へ案内される。
「え?」
熊サイズの魔獣かと思っていたが、騎士達が戦っているのはバスと同じくらいの魔獣。
大きさに圧倒されてしまう。
「聖女様、お願いします」
お願いしますと言われても私は何をすればいいの?
混乱しながらも、アニメとかであるように祈りを捧げる。
祈りと言うよりも、願い。
『お願い、消えてください。私、死にたくない。お願い、死んで。早く、死んで……』
私は目をつぶって必死に願った。
「聖女様っ」
『やだ、やだ、やだ。私、死にたくない。お願いだから早く終わって……早く』
「くそっ」
その後も騎士の戦いは続く。
ドン
私の足元に何かが転がって来た。
コロコロコロ
「……ひゃっ」
目を開け何事かと確認すると、先程挨拶した騎士と目が合った。
彼の首から下を確認できない。
私はどうしてこんなところに来てしまったの?
帰りたい。
「いやぁぁぁぁぁぁああああああ」
私は、急いで乗って来た馬車に乗り込む。
「聖女ぉぉぉおおお……」
その後も、戦いは続く。
私は終わるまで目を瞑り耳を塞ぎしゃがみ込んでいた。
「……聖女……」
「きゃっ……」
馬車の扉が開き、呼ばれる。
「……魔獣は退治した。この後も続く。今日は、宿に戻る」
「……はい」
私はいち早くこの場所から移動したかった。
いつの間にか泣いていた私は、騎士が鋭い視線を私に向けている事になど気付く余裕がなかった。
宿に到着し部屋に戻り、私はベッドに潜り込む。
「帰りたい、帰りたい、帰りたい……」
何度も繰り返すも現実は変わらず。
早朝、騎士団長に呼ばれる。
「朝食だ」
「……いりません」
「食べないと身が持たない」
「……私には無理です」
「……貴方は聖女様として呼ばれました、ここで王宮に引き返すことは出来ません」
「そんなこと言われても……」
「貴方は聖女様なのですよね?」
「力の使い方が分からないんです」
「……何故、今さらそんなことを……」
「王子には、準備が必要と話しました。それなのに強引に行くよう言われたんです」
「だから、一カ月も出発を後らせたのですか?」
何も言わず頷いた。
「まさか……分かりました。今から王宮へ戻りましょう」
騎士は納得し、王宮へ戻る決意をした。
王宮へ戻る馬車に乗り込む際、騎士達から鋭い視線を受けた。
行きとは違う、睨みつけるような視線。
そんな視線、初めて向けられた。
王宮へ戻る道中、休憩や宿に宿泊する時も騎士達の目に触れないよう過ごした。
何日も何日も、隠れて過ごす。
そしてようやく王宮へ到着した。
「……聖女」
私が帰ってくるのを報せでも受けていたかのようにエヴァルドが待ち構えていた。
「エヴァルド……」
「話がしたい」
「……少し休みたいのですが……」
エヴァルドの態度からいい話ではないと察知し、休みたいと告げる。
告げた瞬間、エヴァルドから今まで見たこともない目で睨まれた。
「時間が無い。着替えたら、私の執務室に来るように。騎士団長、報告をしてくれ」
「はい」
エヴァルドと騎士団長は私を置いて歩き出す。
残された私は、共に帰還した騎士から悪意を向けられているのに気が付く。
体が強張り、後ろにいる彼らに振り向けないでいた。
『能力を制御できないって……』
『出発前に言えば、アイツらは死ぬことなかったのに……』
『本当に聖女なのか?』
『偽物じゃないのか?』
幻聴なのか現実に言われているのか、私には分からなかった。
彼らから逃げるように部屋を目指す。
すれ違う使用人達は早すぎる私の帰還に困惑していた。
時間を掛け、お風呂に入り着替えを済ませる。
部屋に戻ると使用人が待ち構える。
「エヴァルド王子がお待ちです」
「……はい」
エヴァルドの待つ執務室へ向かう。
早く会いたいと思っていたエヴァルドが、今では気が重い。
「……聖子」
「お待たせしました」
「騎士団長から報告を受けたが、能力を使いこなせないというのは本当か?」
「……はい」
「一カ月何を……いや、聖子にはこれから教会に移り住み訓練してもらう」
「……はい」
エヴァルドの提案を断ることが出来ず、教会で訓練する事に。
だが、私が聖女の能力を発揮する事は無かった。
そして、ある事実を告げられる。
「貴方は聖女ではありませんでした。聖女は、一緒に訪れた女性の方でした」
「一緒に訪れた……鶴子の事? そんな事はあり得ない。あの子が聖女だなんて……絶対に間違いよ」
「いえ、あの方は自らの力で帰還されました」
「帰った? あの子が? なら、私も帰れるのね? なら帰るわ。聖女じゃないなら、こんな処いたくない」
「それは難しいでしょう。魔法陣は使用できなくなりましたから」
「どうして、アイツは帰れて私は帰れないのよ」
「こちらの手違いでお呼びしてしまったお詫びにこちらを……」
差し出された袋の中には金貨が入っていた。
「これは……手切れ金じゃないですよね?」
「その通りです。こんな訳も分からない魔獣の世界に一人で生きられるわけないじゃない。返してよ」
「私にはどうにもできません」
「なら、ここにいさせてよ」
「それも難しいです」
「責任取りなさいよ」
「この金貨がお詫びです」
話は平行線で譲つもりは無かったが、騎士が登場。
そして私は力づくで教会から追い出された。
「……なんでこんな事になるのよ……」
私は王宮を目指す。
無我夢中だったが、到着。
人間その気になればなんでも出来るもので、何も知らない騎士を言いくるめ聖女召喚の儀式が行われた場所を探す。
「……あった」
司祭の言った通り、儀式場の床には亀裂が。
「お願い、私を元の世界に帰らせて。お願い。私、帰りたいのお願い……お願い……」
いくら願っても魔法陣が反応する事は無かった。
そして、私は王宮へ許可なく侵入したとして犯罪者となった。
本来であれば処刑されてもおかしくないのだが、私の境遇もあり二度と王宮へ足を踏み入れないという事で私は解放された。
街で私は他の人と同じように魔獣に怯える日々を過ごす。
「帰りたいよ……鶴子……助けて……」
493
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
いつまでもドアマットと思うなよ
あんど もあ
ファンタジー
二年前に母を亡くしたミレーネは、後妻と妹が家にやって来てからすっかり使用人以下の扱いをされている。王宮で舞踏会が開催されるが、用意されたのは妹のドレスだけ。そんなミレーネに手を差し伸べる人が……。
さようなら、私の初恋
しょくぱん
恋愛
「さよなら、私の初恋。……もう、全部お返しします」
物心ついた時から、彼だけが世界のすべてだった。 幼馴染の騎士団長・レオンに捧げた、十数年の純粋な初恋。 彼が「無敵」でいられたのは、アリアが無自覚に与え続けた『治癒の加護』があったから。
だが婚約直前、アリアは知ってしまう。 彼にとって自分は、仲間内で競い合う「賭けの対象」でしかなかったことを。
「あんな女、落とすまでのゲームだよ」
【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない
あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。
王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。
だがある日、
誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。
奇跡は、止まった。
城は動揺し、事実を隠し、
責任を聖女ひとりに押しつけようとする。
民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。
一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、
奇跡が失われる“その日”に備え、
治癒に頼らない世界を着々と整えていた。
聖女は象徴となり、城は主導権を失う。
奇跡に縋った者たちは、
何も奪われず、ただ立場を失った。
選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。
――これは、
聖女でも、英雄でもない
「悪役令嬢」が勝ち残る物語。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
あなたの幸せを祈ってる
あんど もあ
ファンタジー
ルイーゼは、双子の妹ローゼリアが病弱に生まれたために、「お前は丈夫だから」と15年間あらゆる事を我慢させられて来た。……のだが、本人は我慢させられていると言う自覚が全く無い。とうとう我慢のしすぎで命の危機となってしまい、意図せぬざまぁを招くのだった。
ドアマットだと自覚してないドアマット令嬢のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる