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晩餐
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卒業パーティーも終わり、限られた貴族が王宮の晩餐に招かれていた。
そこはクリストフ王子を中心にしている。
「やっと、この日を迎えられましたね殿下」
「フフ、あぁ長かったな。皆ご苦労だった」
クリストフはマシューズに頷き、全員に視線を送る。
この場に集まった人間は、ある目的を実行した集団であった。
「いえいえ、こうして恩恵に預かることができ光栄に思います」
ピエール司祭は冷静さを保つも、高揚している。
「そうだな。まさか、聖女が発見されるとは思っていなかった。ワンダーソン男爵、感謝する」
「いえ、私も驚きました。まさか、あのような奥地に人が住んでいるとは予想しておらず、災害がなければ気付きませんでした。まさに神の思し召しです」
「ワンダーソンご兄弟は信仰心が深いですからね」
ワンダーソン兄弟は誰よりも強く聖女を崇拝している。
過去の逸話を聞き、取り憑かれた人物として知らない者がいない程有名だった。
何故なら、彼らの父である前男爵が子供だった二人に毎夜のように聖女についてを語っていた。
ワンダーソン前男爵は、二十年前の聖女を実感した人物の一人であった。
「グリード先生も大変でしたね」
「いえ、本日参加するためでしたら何てことありませんよ。フフ」
グリードは学園では見せることのない、不適な笑みを浮かべている。
「聖女に嫌がらせしていた令嬢達の面倒まで、苦労掛けたな」
「あの令嬢達は我が校の代表ということで、隣国へ留学しています」
「そうか。聖女と関わったせいで我が国の貴族が犠牲になるのは、私も望んでいないからな」
聖女へ嫌がらせしていた令嬢達は実際は隣国へ留学しており、そもそも停学になっていた事実はない。聖女にはそう、教師から伝えられていただけ…
「今回こそジョバルディー公爵家も参加していただけたら良かったのに、あそこまで頑なにならずとも、国のためを思えば多少の犠牲は致し方ないだろうに」
晩餐に参加している貴族は、本来であればこの場にいてもおかしくない人物の話題をした。
「ジョバルディー公爵は潔癖が過ぎるのが玉に瑕ですね」
この場にはジョバルディー公爵の者も呼ばれていたが、誰一人出席することはなかった。
「皆、良いではないか。ジョバルディー公爵はそれでいい」
王族の晩餐を断ることは貴族としてあってはならないこと。公爵ともなれば説明しなくても理解している。それでも断るということは、それだけ受け入れがたいという意思表示。そのような貴族の行為をクリストフは、不愉快になることはなく笑顔で受け入れていた。
「マシューズ、管理と共に色々と世話してくれていたらしいな」
「この日を思えば、多少の出費など安いものだ」
お金に厳しいマシューズが、婚約者でも無い人間に貢いだのは相当な見返りがあるからと予想させる。
「サリモンも護衛を頼んだが、婚約者は大丈夫なのか?」
「問題ない。聖女と聞き、俺がこの場に選ばれたことを喜んでいた」
サリモンとエスメラルダは互いに適度な距離を取っているだけで、決して不仲なわけではない。
寧ろお互いがお互い以外の異性に興味がない。
人目のあるところで愛を語らう事に抵抗のある二人は、周囲に人がいる場は距離を取るも二人きりの時はとても親密である。
「そうか、ナターシャル嬢と良好ならば良かった」
「あの程度で壊れる関係ではない」
「あはっ、そうだな。フィリップス子爵、令嬢には大変世話になったな」
「いえ、娘も楽しんでいましたので」
高位貴族の晩餐に子爵が呼ばれるのは稀だが、フィリップスは臆することなく参加していた。娘と同様に好奇心旺盛で面白いものを好む性格。今回晩餐に同席が許されたのは娘の手柄といっても過言ではない。
「ふっ、そうか。…どうしたトーマス?」
「私はやはり迷信なのでは?と今でも半信半疑です」
トーマスはクリストフの側近と言うよりも、集団に溶け込みやすい身なりと肩書きのため噂話などの情報収集を得意として王子の駒として動いている。
「だが、この場にいる」
「…まぁ…その…本当であれば、こんな機会なかなか訪れませんから…」
迷信は信じていないが、本当であればあやかりたいという性格だ。
「あぁ、迷信だったとしても我々に被害がないのだから良いじゃないか」
クリストフはリスクがないのであれば何でも挑戦すべきと思っている。
「…兄さん、僕まで頂いて良いのかな?」
晩餐にはクリストフの弟、ジョルジオの姿もあった。
彼は今回の件にほぼ関与していない。
「当たり前だ」
晩餐に参加していた二人の男性は互いに合図をした。
「…クリストフ殿下、我々も同席させて頂ける事に光栄に思います」
「私も、感謝いたします」
「あぁ。エスメラルダ嬢とエレンターナ嬢には、こちらも色々助けられた。令嬢達の兄である二人をこの場に参加させるのは当然だ」
二人はナターシャル伯爵家とタロンヴィス伯爵家の次期当主となる人物。
妹達の功績でこの場にいるのを許可された。
タイミングを見計らったように料理が運ばれ、皆の前に置かれる。
メインディッシュに相応しい、皿の上に一口サイズの肉。
その場にいる全員が今宵の豪華なディナーに見惚れている。
「さてメイン料理の時間ですね」
貴族であれば肉料理などは珍しくもないだろうに、この場にいる人間は隠しきれないほど昂っている。
「おぉ、これが…」
「こちらを頂けば我々の魔力が増大すると…」
王子を筆頭に肉をフォークで刺し、礼儀作法など今は忘れ掲げた。
「では頂こう、我々の輝かしい聖女に」
「「「「「「「聖女に」」」」」」」
その場に居るものは興奮を隠しきれない震える手で、メインの肉を口にし魅惑の味を堪能した。
そこはクリストフ王子を中心にしている。
「やっと、この日を迎えられましたね殿下」
「フフ、あぁ長かったな。皆ご苦労だった」
クリストフはマシューズに頷き、全員に視線を送る。
この場に集まった人間は、ある目的を実行した集団であった。
「いえいえ、こうして恩恵に預かることができ光栄に思います」
ピエール司祭は冷静さを保つも、高揚している。
「そうだな。まさか、聖女が発見されるとは思っていなかった。ワンダーソン男爵、感謝する」
「いえ、私も驚きました。まさか、あのような奥地に人が住んでいるとは予想しておらず、災害がなければ気付きませんでした。まさに神の思し召しです」
「ワンダーソンご兄弟は信仰心が深いですからね」
ワンダーソン兄弟は誰よりも強く聖女を崇拝している。
過去の逸話を聞き、取り憑かれた人物として知らない者がいない程有名だった。
何故なら、彼らの父である前男爵が子供だった二人に毎夜のように聖女についてを語っていた。
ワンダーソン前男爵は、二十年前の聖女を実感した人物の一人であった。
「グリード先生も大変でしたね」
「いえ、本日参加するためでしたら何てことありませんよ。フフ」
グリードは学園では見せることのない、不適な笑みを浮かべている。
「聖女に嫌がらせしていた令嬢達の面倒まで、苦労掛けたな」
「あの令嬢達は我が校の代表ということで、隣国へ留学しています」
「そうか。聖女と関わったせいで我が国の貴族が犠牲になるのは、私も望んでいないからな」
聖女へ嫌がらせしていた令嬢達は実際は隣国へ留学しており、そもそも停学になっていた事実はない。聖女にはそう、教師から伝えられていただけ…
「今回こそジョバルディー公爵家も参加していただけたら良かったのに、あそこまで頑なにならずとも、国のためを思えば多少の犠牲は致し方ないだろうに」
晩餐に参加している貴族は、本来であればこの場にいてもおかしくない人物の話題をした。
「ジョバルディー公爵は潔癖が過ぎるのが玉に瑕ですね」
この場にはジョバルディー公爵の者も呼ばれていたが、誰一人出席することはなかった。
「皆、良いではないか。ジョバルディー公爵はそれでいい」
王族の晩餐を断ることは貴族としてあってはならないこと。公爵ともなれば説明しなくても理解している。それでも断るということは、それだけ受け入れがたいという意思表示。そのような貴族の行為をクリストフは、不愉快になることはなく笑顔で受け入れていた。
「マシューズ、管理と共に色々と世話してくれていたらしいな」
「この日を思えば、多少の出費など安いものだ」
お金に厳しいマシューズが、婚約者でも無い人間に貢いだのは相当な見返りがあるからと予想させる。
「サリモンも護衛を頼んだが、婚約者は大丈夫なのか?」
「問題ない。聖女と聞き、俺がこの場に選ばれたことを喜んでいた」
サリモンとエスメラルダは互いに適度な距離を取っているだけで、決して不仲なわけではない。
寧ろお互いがお互い以外の異性に興味がない。
人目のあるところで愛を語らう事に抵抗のある二人は、周囲に人がいる場は距離を取るも二人きりの時はとても親密である。
「そうか、ナターシャル嬢と良好ならば良かった」
「あの程度で壊れる関係ではない」
「あはっ、そうだな。フィリップス子爵、令嬢には大変世話になったな」
「いえ、娘も楽しんでいましたので」
高位貴族の晩餐に子爵が呼ばれるのは稀だが、フィリップスは臆することなく参加していた。娘と同様に好奇心旺盛で面白いものを好む性格。今回晩餐に同席が許されたのは娘の手柄といっても過言ではない。
「ふっ、そうか。…どうしたトーマス?」
「私はやはり迷信なのでは?と今でも半信半疑です」
トーマスはクリストフの側近と言うよりも、集団に溶け込みやすい身なりと肩書きのため噂話などの情報収集を得意として王子の駒として動いている。
「だが、この場にいる」
「…まぁ…その…本当であれば、こんな機会なかなか訪れませんから…」
迷信は信じていないが、本当であればあやかりたいという性格だ。
「あぁ、迷信だったとしても我々に被害がないのだから良いじゃないか」
クリストフはリスクがないのであれば何でも挑戦すべきと思っている。
「…兄さん、僕まで頂いて良いのかな?」
晩餐にはクリストフの弟、ジョルジオの姿もあった。
彼は今回の件にほぼ関与していない。
「当たり前だ」
晩餐に参加していた二人の男性は互いに合図をした。
「…クリストフ殿下、我々も同席させて頂ける事に光栄に思います」
「私も、感謝いたします」
「あぁ。エスメラルダ嬢とエレンターナ嬢には、こちらも色々助けられた。令嬢達の兄である二人をこの場に参加させるのは当然だ」
二人はナターシャル伯爵家とタロンヴィス伯爵家の次期当主となる人物。
妹達の功績でこの場にいるのを許可された。
タイミングを見計らったように料理が運ばれ、皆の前に置かれる。
メインディッシュに相応しい、皿の上に一口サイズの肉。
その場にいる全員が今宵の豪華なディナーに見惚れている。
「さてメイン料理の時間ですね」
貴族であれば肉料理などは珍しくもないだろうに、この場にいる人間は隠しきれないほど昂っている。
「おぉ、これが…」
「こちらを頂けば我々の魔力が増大すると…」
王子を筆頭に肉をフォークで刺し、礼儀作法など今は忘れ掲げた。
「では頂こう、我々の輝かしい聖女に」
「「「「「「「聖女に」」」」」」」
その場に居るものは興奮を隠しきれない震える手で、メインの肉を口にし魅惑の味を堪能した。
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