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折ったはずのフラグを直している人間でもいるのか?

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休暇が始まり今は穏やかなティータイムを男爵夫人と共に過ごしている。
男爵家でお世話になるようになってから、初めてといえる優雅な時間だ。
養女になってすぐの頃は、この世界の知識を身に付けるのに必死で家庭教師といる時間が長く、最近は試験のため学園から帰ってきても部屋に籠り勉強ばかりしていた。なので長期休暇に入った今、夫人に呼ばれ最初は緊張していたが紅茶を味わうことが出来るくらいには落ち着いた。

「おっ…お母様」

男爵のことを「お父様」と呼ぶことに慣れたが、夫人のことを「お母様」と呼ぶのは未だに慣れていない。
呼ぶ機会が今までなかったというのもある。

「…私の事を無理してお母様と呼ばなくても良いわ。貴方を生み育ててくれた人はあなたにとって特別な人、無理に忘れる必要もない。私のことは男爵夫人、もしくはレナール夫人で構わないわ」

儚げに微笑むレナール夫人はとても優しい人に感じる。
私の心の整理が着くまでは、無理に「お母様」と呼ばなくて良い…時間は掛かっても待っていてくれる懐の大きな人だった。

「エレナは森に住んでいたのよね?」

「はい」

「家族の他に誰かいなかったの?」

「いなかったと思います」

「そう、恋人とかも?」

「いません(多分)」

「あらっそうなの?」

これは、女同士の会話って事なのかな?
今日からこんな日が続くんだと優雅に過ごしている。
だがそこに、まさかの呼び出しを食らっている。
誰からかというと、叔父様である聖女認定をしたピエール司祭様だ。
用件を尋ねれば、「長期休暇の一時、教会に祈りを捧げてほしい」と懇願された。男爵によると、「兄は伝説の聖女を崇拝しており、聖女の為に人生を捧げた人。本来であれば兄が男爵を継ぐはずだったが、継承を放棄してまで教会に身を置く程聖女を待ち焦がれた人」だそうだ。
なので、数日で構わないから教会に祈りを捧げてくれ、と頼まれてしまった。
私を保護してくれている男爵に頭を下げられると断ることが出来ず、私は教会に祈りを捧げに行くことになった。

興奮気味の司祭により日程は翌日からとなり、優雅な休日は私のもとから去っていった。
予定通り教会に向かう道中は、当然王宮の護衛騎士が周囲を固め目立つ移動となっている。これでは余計周囲の目を引き狙われるのではないのか?と疑問に思うも口にはせず、私のために働いてくれている彼らに感謝した。

聖女…
人によっては類い稀な「聖女」になった事を誇りに思うことが出来るのだろうが、私はあまりの大役に尻込みしている。

私は出来るならモブが良かった…

聖女としての自覚がないまま教会に到着した。
私が教会に訪れることは既に司祭から連絡済みのようで、多くの教会関係者が出迎えてくれている。そこには侍者だけでなく、衣服の違う見るからに階級の高い人物までいた。
それらの人達を率いている人物が、ピエール司祭なんだと判断できる。
聖女を崇拝し教会に入った人が頂点…とまでは言わないが、男爵家より階級の高い貴族はいるだろうに彼があの立場を任されるということは今まで努力してきたに違いない。今後現れるか分からない聖女に人生を捧げるなんて…私なら諦めてしまうのを彼はひたすら信じ続け、その結果認められあの立場に…
そんな彼が待ち望んだ相手は、本当に私なんだろうか?

いつまでも馬車に居続けるわけにもいかず、扉を開け降り立つ。
私が姿を現すと、侍者が一斉に頭を下げる。
どうしても前世の常識が強くあるために、年上の人が私に対して頭を下げる光景に違和感しかなかった。

「聖女様、本日はご来訪頂き感謝いたします。私がご案内させて頂きます」

「…よろしくお願いします」

誰も知らない人の中、唯一顔見知りのピエールさんが教会内を案内してくれることになった。
ピエールさんもだが、教会にいる全ての人が私を恭しく扱う姿が申し訳なく居心地が悪かった。

教会を案内されていくと廊下の至るところに様々な絵画が飾られ、その多くが聖女をモチーフにされていた。
「神々しく光輝く聖女」「聖女告知画」「聖女に祈りを捧げる」
聖女を崇拝し、待ち望んでいるのが分かる。

こんな期待されて、私…偽物じゃないよね?
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