57 / 91
オマケの続き
到着したが、やはりというか…
しおりを挟む 馬車が止まり、東部のランクーベ公爵家の屋敷に到着したのかを窓の外を覗いて確認した。外には使用人が数名待機していたが、そこにオルフレッドの姿を見つけることは出来なかった。
馬車の扉の施錠を解くと外から開けられ陽の光が足元へ射し込む。一歩踏み出し外気を感じ、執事の手を借り馬車を降りる。
「お待ちしておりました」
出迎えた使用人が一斉に頭を下げた。
「ありがとうございます、皆さんも頭を上げて」
全員が頭をあげ、彼らの表情から私をどう思っているのか探ってしまう。
私には良い噂はないだろうし、王妃選定に落ちた令嬢というのは国に関わることなので貴族の屋敷で働く者として知らないでいるのは難しいだろう。オルフレッドが私を出迎えないことで、使用人達の彼らが私は公爵夫人として受け入れていないと判断してもおかしくはない。
雇用主の決定に従うのは当然、喩え言葉での指示はなくとも察するのが賢い使用人。
私は執事に案内される中、緊張していた。
流石は公爵家の使用人、当然のように優雅なおもてなしで私に紅茶を運ぶ。一口紅茶を含み堪能する。
紅茶は苦味もなく温度も適温、嫌がらせ等は一切感じない。それに案内された部屋も空気も爽やかで私の為なのか常にこの状態なのか、花を飾られ華やかだった。
「旦那様は朝から視察に行っており、奥様の事は窺っております。私は執事長のマークです。何かあれば私にお申し付けください」
「ありがとう…それで、復興の方はどのくらい進んでいますか?」
表向きとして私が東部に足を運んだ理由は、領地復興支援の為の視察。なんの情報も得ることなく「今、私の旦那様は何処ですか?」なんて聞いたら絶対に教えてもらえなくなりそう…まずは領地の状況を私の目で確認してからお父様…いえ、ルルーシアン公爵にどの程度の支援を求めるのか決めたいと言ってあるので、確認せずに求めるわけにいかなかった。
「この地域は長雨対策が出来ているとはいえ、農作物にはかなりの被害が出ております。旦那様は他貴族や他領地に支援を求めることを嫌いますので「問題ない」と奥様にもお伝えしているかもしれませんが、やはり食糧は今後も必要になるかと…ですが、私が心配なのは寝る間も惜しんで働き詰めの旦那様です」
オルフレッドの働き方に対して、誰よりも傍で見ているマークは心配な様子。
もしかしたら私が「旦那様と一緒の時間を過ごしたい」というワガママを期待し、少しでも仕事から離れ休んでほしいと願っているのかもしれない。
「…そうなんですね…それと…」
私は事前に聞いていた「疫病」について聞いても良いのか躊躇ってしまった。
「…あぁ、あれの事ですか?」
私の気まずそうにする雰囲気からマークは察してくれた。
「…はぃ」
「去年流行したあの病は今のところ確認できておりませんが、原因も未だ未解決です」
「そう…なんですね」
「その為、あの時期に近づくにつれ旦那様も張り詰めていて…」
それで私が呼ばれたのか…
「オルフレッド様は、食事は取っていますか?」
「…軽食…程度ですね」
「食べてはいるんですね」
「はい」
「良かったです」
領地復興の前に旦那様が倒れてしまうと不安だったが、最低限の食事と睡眠は取っているようだった。
だが、最低限だ。
早く彼に会ってどのくらい最低限なのか確認したい。
不安になりながらオルフレッドを待っていると、使用人からあることを伝えられた。
「旦那様は奥様を守るために、今回出迎えはしませんでした」
「私を…守るため?」
「はい、旦那様にはその…噂があるため、ヴァレリア様が奥様だと周囲に認識されてしまうと「奇異の目に晒される」と言って、朝から屋敷を出ていかれました」
噂についてすっかり忘れていたが、災いが起きた領地はそうもいかないらしい。
王都の屋敷を出る際も見たことの無い真っ黒い馬車を利用してきた。普段なら家紋入り馬車を使うのに、どこの貴族が分からないような馬車を用意され多少の疑問を感じたが深くは考えなかった。
だが、ここで疑問が溶けた。
「…領民の方達もオルフレッド様の事を…」
私はどうしても彼が「呪われている」と口にしたくなかった。彼は呪われてなんていないもの…
「…はい。何かある度に、旦那様の「呪い」のせいだと…」
濁して聞いた私の質問に正確な返答がくる。
やはり、ここても「公爵の呪い」で解決なのか…
「…楽ですもんね。自分のせいではなく誰かのせいにするのって…それが貴族であれば尚更…」
「…そう…かもしれません」
しまった…つい彼に八つ当たりしてしまった。
彼はオルフレッドの事を「呪われた公爵」なんて言っていないのに…
「ごめんなさい…オルフレッド様は、そのように言われることに今まで耐えていたんですね…」
「…慣れ…ですかね」
「慣れ…ですか…」
そんなもん、慣れてほしくない。
「…ですので、その…落ち込まないでください」
「へっ?」
「旦那様が奥様を蔑ろにしているのではなく、大切にされているからこその判断です」
使用人の言葉は嬉しいが私は王妃選定に落ちたワガママ令嬢と伝わっているはず、それなのに対応が優しすぎる…
馬車の扉の施錠を解くと外から開けられ陽の光が足元へ射し込む。一歩踏み出し外気を感じ、執事の手を借り馬車を降りる。
「お待ちしておりました」
出迎えた使用人が一斉に頭を下げた。
「ありがとうございます、皆さんも頭を上げて」
全員が頭をあげ、彼らの表情から私をどう思っているのか探ってしまう。
私には良い噂はないだろうし、王妃選定に落ちた令嬢というのは国に関わることなので貴族の屋敷で働く者として知らないでいるのは難しいだろう。オルフレッドが私を出迎えないことで、使用人達の彼らが私は公爵夫人として受け入れていないと判断してもおかしくはない。
雇用主の決定に従うのは当然、喩え言葉での指示はなくとも察するのが賢い使用人。
私は執事に案内される中、緊張していた。
流石は公爵家の使用人、当然のように優雅なおもてなしで私に紅茶を運ぶ。一口紅茶を含み堪能する。
紅茶は苦味もなく温度も適温、嫌がらせ等は一切感じない。それに案内された部屋も空気も爽やかで私の為なのか常にこの状態なのか、花を飾られ華やかだった。
「旦那様は朝から視察に行っており、奥様の事は窺っております。私は執事長のマークです。何かあれば私にお申し付けください」
「ありがとう…それで、復興の方はどのくらい進んでいますか?」
表向きとして私が東部に足を運んだ理由は、領地復興支援の為の視察。なんの情報も得ることなく「今、私の旦那様は何処ですか?」なんて聞いたら絶対に教えてもらえなくなりそう…まずは領地の状況を私の目で確認してからお父様…いえ、ルルーシアン公爵にどの程度の支援を求めるのか決めたいと言ってあるので、確認せずに求めるわけにいかなかった。
「この地域は長雨対策が出来ているとはいえ、農作物にはかなりの被害が出ております。旦那様は他貴族や他領地に支援を求めることを嫌いますので「問題ない」と奥様にもお伝えしているかもしれませんが、やはり食糧は今後も必要になるかと…ですが、私が心配なのは寝る間も惜しんで働き詰めの旦那様です」
オルフレッドの働き方に対して、誰よりも傍で見ているマークは心配な様子。
もしかしたら私が「旦那様と一緒の時間を過ごしたい」というワガママを期待し、少しでも仕事から離れ休んでほしいと願っているのかもしれない。
「…そうなんですね…それと…」
私は事前に聞いていた「疫病」について聞いても良いのか躊躇ってしまった。
「…あぁ、あれの事ですか?」
私の気まずそうにする雰囲気からマークは察してくれた。
「…はぃ」
「去年流行したあの病は今のところ確認できておりませんが、原因も未だ未解決です」
「そう…なんですね」
「その為、あの時期に近づくにつれ旦那様も張り詰めていて…」
それで私が呼ばれたのか…
「オルフレッド様は、食事は取っていますか?」
「…軽食…程度ですね」
「食べてはいるんですね」
「はい」
「良かったです」
領地復興の前に旦那様が倒れてしまうと不安だったが、最低限の食事と睡眠は取っているようだった。
だが、最低限だ。
早く彼に会ってどのくらい最低限なのか確認したい。
不安になりながらオルフレッドを待っていると、使用人からあることを伝えられた。
「旦那様は奥様を守るために、今回出迎えはしませんでした」
「私を…守るため?」
「はい、旦那様にはその…噂があるため、ヴァレリア様が奥様だと周囲に認識されてしまうと「奇異の目に晒される」と言って、朝から屋敷を出ていかれました」
噂についてすっかり忘れていたが、災いが起きた領地はそうもいかないらしい。
王都の屋敷を出る際も見たことの無い真っ黒い馬車を利用してきた。普段なら家紋入り馬車を使うのに、どこの貴族が分からないような馬車を用意され多少の疑問を感じたが深くは考えなかった。
だが、ここで疑問が溶けた。
「…領民の方達もオルフレッド様の事を…」
私はどうしても彼が「呪われている」と口にしたくなかった。彼は呪われてなんていないもの…
「…はい。何かある度に、旦那様の「呪い」のせいだと…」
濁して聞いた私の質問に正確な返答がくる。
やはり、ここても「公爵の呪い」で解決なのか…
「…楽ですもんね。自分のせいではなく誰かのせいにするのって…それが貴族であれば尚更…」
「…そう…かもしれません」
しまった…つい彼に八つ当たりしてしまった。
彼はオルフレッドの事を「呪われた公爵」なんて言っていないのに…
「ごめんなさい…オルフレッド様は、そのように言われることに今まで耐えていたんですね…」
「…慣れ…ですかね」
「慣れ…ですか…」
そんなもん、慣れてほしくない。
「…ですので、その…落ち込まないでください」
「へっ?」
「旦那様が奥様を蔑ろにしているのではなく、大切にされているからこその判断です」
使用人の言葉は嬉しいが私は王妃選定に落ちたワガママ令嬢と伝わっているはず、それなのに対応が優しすぎる…
294
お気に入りに追加
6,663
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
婚約者だと思っていた人に「俺が望んだことじゃない」と言われました。大好きだから、解放してあげようと思います
kieiku
恋愛
サリは商会の一人娘で、ジークと結婚して商会を継ぐと信じて頑張っていた。
でも近ごろのジークは非協力的で、結婚について聞いたら「俺が望んだことじゃない」と言われてしまった。
サリはたくさん泣いたあとで、ジークをずっと付き合わせてしまったことを反省し、解放してあげることにした。
ひとりで商会を継ぐことを決めたサリだったが、新たな申し出が……
【7話完結】婚約破棄?妹の方が優秀?あぁそうですか・・・。じゃあ、もう教えなくていいですよね?
西東友一
恋愛
昔、昔。氷河期の頃、人々が魔法を使えた時のお話。魔法教師をしていた私はファンゼル王子と婚約していたのだけれど、妹の方が優秀だからそちらと結婚したいということ。妹もそう思っているみたいだし、もう教えなくてもいいよね?
7話完結のショートストーリー。
1日1話。1週間で完結する予定です。
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。