上 下
41 / 91
オマケの続き

今度は何?

しおりを挟む
「イーサン…イーサン…イーサン」

使用人の一人が慌てた様子でイーサンを呼びに来る姿は、公爵家では珍しい光景だ。

「こらっ奥様の前だ、慎みなさい」

「申し訳ありません」

「それで、どうした?」

「庭師のドルフィーが…」

「ドルフィーがどうした?」

「突然痒みを訴えたので確認したところ、首に小さな赤い皮疹ができて 時間が経つに連れて皮疹が大きくなり赤く腫れ上がってきたんです」

「それは直ぐにお医者様を呼びなさい」

「はいっ」

執事は医者の手配を指示し、ドルフィーのいる場所に向かうので私も同行した。
「奥様は部屋でお休みください」と言われても、気になってゆっくり休む気分ではないので強引に着いてきた。
公爵以外の人にはワガママを発揮できるみたい。
数人に囲まれた人物は倉庫の一角、木箱に座っている。

「奥様は近づかないでください、襲いかかるかもしれませんので」

イーサンには彼が襲いかかると思っているのだろうか?確かに忙しなく首を引っ掻いている姿は異常だが、人に襲いかかるようには見えない。
ドルフィーは長年公爵家の庭師を担当してくれているお爺ちゃんで、今は息子さんに跡を継がせる予定でいるので付きっきりで伝授していた。

「何かに取りかれたんじゃ?」
「まさか、何かに刺されたんじゃないのか?」
「あんなに数ヵ所をか?」
「俺も近くにいたが周囲に虫なんて見当たらなかったぞ…」
「やっぱり、これも「呪い」じゃねぇのか?」

公爵家で働いている者は事ある毎に「呪い」で解決しようとする。
もういい加減その呪いに直結させるのやめませんか?

「あの…まず、赤く腫れている所を水で洗った方が良いのでは?」

「呪い」と信じている使用人達は、洗うことなどせず他の人へ移らないよう距離を取り隔離することを選んでいた。

「…あっ、そうですね」

ドルフィーは自らの足で水場に歩いていくのだが、いつ暴れるのか分からないので周囲には使用人が囲みドルフィーが洗うのを皆で眺めている。まずは患部をよく水で洗い流すも、赤みは治まらない。

「氷を持ってきて、冷やした方がいいですね」

ふっふっふ。
公爵家には今年から冷蔵庫と氷が存在するのだ。立食パーティーの時にちゃっかり頂いていたのだ…言っておくが、私が強引に奪ったのではなくファイン男爵が完成品を貰ってほしいと言ったんだ。私のワガママではないからねっ。

私の言葉に使用人が氷を取りに走り出す。

「あの、何をしていてそうなったんですか?」

「えっと…庭の手入れをしていて突然痒くなり…痛みもあります」

「何かに刺されたり?」

「いえ、周囲に虫や蜂などはいませんでした」

「それは毎年なるんですか?」

彼は長年庭師として働いているので、植物に寄り付く虫や植物自体の毒や棘に関しては詳しいだろう。

「今回が初めてです。バ…奥様が散歩しやすいよう整えていたんですが、急に痒みを感じたと思ったら…一気に広がりこの状態になりました」

「…そうなんですね」

「あっあの…氷、お持ちしました」

使用人が氷を持って現れた。

「痒みが酷い箇所に氷を当てて、お医者様がくるのを待っていてください。その間、私は庭を見に行きます」

「奥様、それはダメです」

私が「呪い」の現場を確認しに行くと言うと、イーサンに強く止められた。
呪いではなくとも実際に被害が出ているので、主不在の屋敷で公爵夫人である私に被害が出るのを恐れているのだろう。
イーサンの判断は正しい。
だけど、私も自分の目で確かめたい。

「周囲を確認するだけで、どんな場所なのか確認させてください」

「いえ、ダメです」

「その場には行きませんから」

「ダメなんです」

「どうしてですか?」

「…危険だからです」

「部屋の手形や犬、廊下の時も大丈夫だったじゃないですか?」

「今回はダメです。奥様にも同じ症状が現れる危険がありますので、今回だけは許可できません。奥様の「安全第一」と旦那様より仰せつかっておりますので今回ばかりはいけません。代わりに私が確認して参ります」

今回のイーサンは頑なに首を縦に振ってはくれなかった。

「…分かりました。では私は行きませんので、もう一度確認して頂けませんか?」

「畏まりました」

はい…始まります、呪われた庭
しおりを挟む
感想 400

あなたにおすすめの小説

婚約者だと思っていた人に「俺が望んだことじゃない」と言われました。大好きだから、解放してあげようと思います

kieiku
恋愛
サリは商会の一人娘で、ジークと結婚して商会を継ぐと信じて頑張っていた。 でも近ごろのジークは非協力的で、結婚について聞いたら「俺が望んだことじゃない」と言われてしまった。 サリはたくさん泣いたあとで、ジークをずっと付き合わせてしまったことを反省し、解放してあげることにした。 ひとりで商会を継ぐことを決めたサリだったが、新たな申し出が……

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

「おまえを愛することはない。名目上の妻、使用人として仕えろ」と言われましたが、あなたは誰ですか!?

kieiku
恋愛
いったい何が起こっているのでしょうか。式の当日、現れた男にめちゃくちゃなことを言われました。わたくし、この男と結婚するのですか……?

【7話完結】婚約破棄?妹の方が優秀?あぁそうですか・・・。じゃあ、もう教えなくていいですよね?

西東友一
恋愛
昔、昔。氷河期の頃、人々が魔法を使えた時のお話。魔法教師をしていた私はファンゼル王子と婚約していたのだけれど、妹の方が優秀だからそちらと結婚したいということ。妹もそう思っているみたいだし、もう教えなくてもいいよね? 7話完結のショートストーリー。 1日1話。1週間で完結する予定です。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。