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四章 物語は終盤へ

魔法省

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公爵家に数日泊まり、その間レノックのお義母様も一緒に双子の面倒を見てくれている。
レノックのお義母様は離縁が成立したとはいえ男爵家に帰るのは危険と言うことで、公爵家の使用人と共に財産分与など済ませ夫人の荷物もその日のうちに公爵家へ移された。
僕達がサンチェスター領地に帰る日に一緒にと僕が我が儘を発揮したので今は客間に泊まってもらっている。

赤ちゃんは凄いもので、お義母様から失いかけていた様々な感情を思い出させていた。

王都にいると学園で働くアレックスのが近い為、何度も会いに来てくれた。

一つの理由としては魔法省に勤めるアレックスのお義父様とお義兄様のアレクサンダー様が長年未解決だった魔法の本のお礼に魔法省に招きたいという約束を王都にいる間に果たしたいとの事だった。

公爵家が居心地が良すぎて外出していないことに気付いたので、魔法省に行くことに了承した。
以前から魔法省という所は気になっていたので当日が楽しみでしかたがない。

残念ながらアレックスは学園を抜け出せないため、当日はアレクサンダー様が迎えに来てくれた。
アレクサンダー様と二人きりの馬車は緊張したが、漫画の世界のようで魔法省への妄想は膨らんでいきニヤついた顔を晒していた。

馬車が止まりアレクサンダー様に案内されながら魔法省の中を歩いていく。
ステンドグラスのようにキラキラしていて綺麗と言えば、あれが結界魔法だと教えてくれた。

「結界魔法が見えていると侵入者も警戒しやすいのでは?」

「見える魔法と見えない魔法、両方を使いこなして結界を行っている。」

見えるものだけが全てではない。
なんか…格好いい。

その後もいろんな部署をアレクサンダー様に案内された。
外見は世界遺産のように美しくあるが、中はゲームのようで最先端を走っていた。
僕が魔法が好きだというのを覚えていてくれたのか魔法の実験をしている所など分かりやすい場所をまず先に案内してくれた。
その後は過去の文献から新たな発見をするべく調査している人達の所を順に見て回った。
その間すれ違う人がとても優しく挨拶をしてくれたりと、各部署でお茶を進められ僕は子供じゃないのにお菓子を沢山頂いてしまった。

ここで働いている人たちと比べると背が小さいからかな?

日本人の時より背は高いんだけど、この世界の人って本当に大きい人が沢山なんだよね。
体質かもしれないけど、僕みたいに産む側の人は小さいんだよ…だけど、その中では僕は背が高い方なんだけど、抱く側は基本的に百九十センチ前後だから比べちゃうとね…。
抱く側のレノックはその中でも大きく、僕としては未知の世界を歩いていると思う。

そんなことを考えながら沢山の人とすれ違い…ん?

今すれ違った金髪の人は…

「王子…様?」

過ぎ去った人物が振り返るとやはり王子だった…けど…。

「大丈夫ですか?えっうそっ…だってバングル…」

王子はバングルをしているのに顔色がかなり悪く、顔も痩せたというより窶れていた。

「フィン…コック…。」

「…また眠れていないんですか?」

「………。」

王子が僕を無視しているようには思えない…反応が鈍いのは、それほど体調が悪いのを示していた。

「あの…空いている部屋はありますか?」

「あぁ、この先にある。」

アレクサンダー様に案内されながら僕達は空いている部屋へ向かい、ソファに座り王子の隣で手を握った。

触るのは良くないかな?とは思ったけど…人形のような王子が怖くて手を握ったら握り返してくれるかと期待した…けど、王子の手が冷た過ぎて僕の方が反応してしまった。

アレクサンダー様は王子の体質を知らなかったが、魔法省の人達の中にも魔力酔いをする人はいるのですぐに症状をりかい表情に出すことはなかった。

「バングル…どうして…」

「バングルの効果が切れてきたか、バングルの許容量を越えたかですね。」

なにも知らない僕はアレクサンダー様から説明を受けるまでバングルをしていれば永遠に大丈夫と漠然と思っていた。
モノがいつかは壊れるように、魔法のバングルも使いすぎれば壊れてしまう。
右手のバングルを見ると宝石の色は濁りバングル自体も色が変わったように見えた。

「バングル…頑張ったんだね…。」

王子を守るために頑張ってくれたバングルを撫でた。

「変わりになるようなものを調べてくる。二人はここで休憩していてくれ。」

「はい」

アレクサンダー様が部屋を出て、僕達二人きりになった。

「…どのくらい寝てないんですか?」

「…二ヶ月程…。ローレンドに子が出来なくて…側室としてあれが選ばれた…光属性を王族に取り込むために…。」

取り込む…少し引っ掛かる言い方に聞こえた。
ハーヴィル様ではなく…能力のみで判断したような…。
例えば僕が獣人だから選ばれたみたいなことだよね?
本人じゃなくて体質で…。
ハーヴィル様はそれで良かったのかな?
一年で子供が出来ないと側室を決められる…王族なら仕方がない事だとしても…。

王子はハーヴィル様の事をどう思っているんだろうか?

だけど、それは僕が聞くことじゃないね。

「…あの…食事は?」

「…あぁ。」

反応からして食べてないと分かった。

「…あの…飲みますか?」

「…良いのか?」

「…はい。」

僕は服を捲り紐を解いていく。

「…そんな服を着ているのか?」

「あっこれは…胸が…大きくなって抑えるために…」

僕はあのエッチな服を着ていた。

人混みや誰かに会う時には胸が気になっちゃって…その…女の人がつけるヤツも詳しく知らないからあのエッチなヤツを身に付けてきてしまった。

僕が紐を解くのを王子は茫然と見つめていた。

多分だけど、王子は僕の行動を頭が理解できてないんだと思う。
睡眠と食事を奪われ王子は正常な判断が出来にくくなっているように見える。

本来であれば他人の…母乳を飲むなんて行動はしない。

だけどそれを拒絶することが出来ない程、今の王子は辛い状態だった。
胸を見せると僕が何かを言う前に引き寄せられるように王子は吸い付いた。
お腹が空いていたのか空になるまで飲まれ見つめられた。
多分もう片方も良いか?という催促だった。

「ぅん、いいよ。」

母乳が大人にも栄養があるのかは分からないけど、食べられていない人にとってはないよりはいいよね。
双子ちゃんのための母乳だけど、今は王子の命に関わると思い彼を優先した。

元気になって欲しくて王子の頭を優しく撫でて落ち着かせた。

飲みきり満足したのか力無く僕の膝に頭を乗せたかと思えば眠っていった。
ソファの上に小さな子供のように丸くなり僕の膝で眠っている姿は、それだけ追い詰められていたことを知る。

頭を撫でていた手はいつの間にか王子に手を握られていた。

王子の姿に驚くも受け入れたアレクサンダー様の手にはバングルが準備されていた。
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