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三章 設定を知る者

大会

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休暇があけ学園が始まれば、大会の話で持ちきりだった。

三大会はかなり重要なイベントである。
大会の結果で相手からの好感度が分かる。
まず始めにバーナード ニルアドミラリ様の剣術の大会。
彼もきっと僕に恋をしているんだろうが、なかなか態度で見せてくれない。きっとドルドリッチ様やテアドール様に遠慮しているんだと思うが、今回の大会で彼の気持ちの本気度が分かる。
彼が試合に望む前に激励の言葉を送ろうと鍛練場へ向かった。

「げっ…」

主人公はペアへの好感度で激励するのは正解みたいだった。
なぜなら、僕より先に鍛練場にいるもう一人の主人公を見つけた。
最低なのが、自分の攻略対象者ではなく僕の攻略対象者にちょっかいをかけている…。

もしかして、王子は諦めて僕の攻略対象者も手に入れようって狙ってんの?

どんだけ強欲なの?そんなことされても彼らの僕への愛は揺るがないけどね。
はぁ…相手するのも面倒だから、僕からは近付かないよ。
それより、早く僕がバーナード様を癒してあげないと…きっとあの主人公を相手にして疲れてしまっただろう。

「バーナード様?」

「…ハーヴィル…誰に用だ?」

「ん?バーナード様ですよ?」

どうしてそんな聞き方?
もしかして僕の気持ちを確認したかった?

「…俺に…なんだ?」

「剣術大会応援にいきます、バーナード様の優勝を願ってますから。」

本当なら僕のために優勝してねって言いたかったが…プレッシャーになったらあれかなって思って留めた。

これで優勝間違いなしだよねっ。んふふ。

結果は…二位だった。
優勝こそ逃したが、試合は鬼気迫るもので圧倒された…。
素人からするとどちらが勝ってもおかしくなかったが最後は紙一重で負けたように見えた…。
バーナード様からの気持ちは見えないが結果が二位はかなりの好感度だと感じた。

…但し素直に喜べないのが、優勝したのがあれの婚約者だからだ。

なんで?
不仲なんじゃないの?
脅迫されて婚約したんでしょ?…
もしかして、優勝しないとって更に脅されたとか?

…だからこの前鍛練場に行ってたの?

もう可哀想すぎる、あんな奴の攻略対象者って決められてしまった所為で…。
僕が側妃になったら助けてあげないと…。
今は耐えてね…。

僕は心で彼を思いながらバーナード様に会いに行った…が試合後の彼には近付けない雰囲気だった。
翌日彼に会いに行ったが素っ気ない態度で困惑するも彼の気持ちに気付いている僕は嫌な気分にはならなかった。

そして、魔術大会が始まる。
魔術大会には僕の事が大好きなドルドリッチ様が参加する。
過去の試合記録を見たが、彼は…まあまあの成績で優勝候補ではなかった。
更に今回の対戦相手は前回の優勝争いをした者で、初戦敗退が決まっていると囁かれていた。

そんなの僕を大好きな気持ちがあれば覆して欲しい。

そして、僕を再び苛つかせているのが、あっちの主人公の攻略対象者は優勝候補だとか…。
どうして向こうばかり贔屓されているのか不満を覚える。
初戦敗退なんて僕のプライドが許さず、絶対に勝って欲しくて試合前に会いに行った。
そして絶対に勝って欲しくてゲームの中でヒロイン達がよくやるように彼の両手を包み込みおでこの前で真剣に祈った。

僕の為に絶対に勝って。

そして大会の流れは誰も想像していない方向へ進んだ。
優勝候補とされた人に勝ったのだ。

やっぱり彼の僕への好感度は本物だったんだ。

順調に勝ち進みまさかの優勝争いをしている。
彼の思いに胸が締め付けられた…だって、そんなに僕の事を愛してくれているなんて。

…神様、彼を…

僕が祈り終わる前に審判に止められ試合は引き分けで終わってしまった。
もう少しで勝てるはずだったのに…。
止めたのは共通の攻略対象者であり、あいつの婚約者になってしまった先生だ。
多分だが、自分の婚約者が負けるのが嫌で先生を脅して強制終了させたに違いない。

本当、彼らの真剣勝負の邪魔をしないで欲しい。

ふと会場内を見渡すと数名の教師が後方で見学していた。
一人の教師と目が合い鋭い視線を向けられた…。

えっ?

もしかして、あの先生僕の事…。
確か魔法の先生だよね?
僕のクラスの担当じゃないのに僕に一目惚れ?
気付かないところで沢山の人な好かれるなんて、さすが主人公だよねっ。

その後は背中に神経を集中させた。

総合大会…が始まる前に教師に呼ばれ衝撃的な事実を聞かされた。

魔術大会で僕はテアドール様に不正を働いてしまったと…。
魔術大会での禁止事項である他人の魔力の補充をしてしまったとか…。

何を言われているのか初めは理解できず潔白を証明するつもりが、僕には加護の力があり無意識にテアドール様にしてしまったことが判明した。
初めは先生の言葉を信じられなかった。

なぜなら、この人は僕ではなくあっちを選んだから…。

だけど、次第に僕の特別な力が開花してしまい発動してしまったと説明され信用した。
無意識とは言え禁止事項を違反してしまった彼を優勝させることは出来ないし、違反行為を説明するには僕の加護を公表するとになると言われた。
だがそうなると僕の特別すぎる力は僕がこれから危険にさらされると言うことで公表出来ないと判断された。
僕としては公表して皆に特別扱いされたがったが僕の予想以上に特別で王宮で保護してもらうのが得策で王族もそれを望んでいると説明され、後は僕の返事次第と聞いた。

そんなもの…

行くっ。

って返事したかったが、可愛らしく。

「僕どうしたら…」

と泣き真似をし、さらに…。

「僕の所為でドルドリッチ様が…」

と言って先生に抱き止めてもらうように胸の中に進んだ。

「安心してください。今回の事は教師も確認しましたので彼へのお咎めはありません。」

「…良かった…っく…っく…」

たっぷり演技した後、僕は冷静になるために一人になった。

特別な力の開花で王宮入り決定した…んふふ、顔がニヤけちゃう。
冷静に冷静に…ヤバッ顔が勝手に…変な顔になっちゃう。

授業が終わると迎えに来ていた騎士に馬車まで案内された。

男爵家の馬車とは比べ物にならない程の豪華で座り心地の良い馬車。
高揚する気持ちを押さえながら王宮へ足を踏み入れた。
王様に逢うため謁見室へ案内され、しばらく待てば王様が現れた途端に震える程緊張してきた。

「加護を他人に掛けたというのは事実か?」

「…はぃ。」

「今回が始めてか?」

「はぃ、僕も加護を掛けたのは分かりませんでした…。」

「…そうか。今回の事は公にするつもりはないが、今後は王宮から学園に通ってもらうが異論はないな。」

「はい」

今日から僕の王宮生活が始まる。

もしかしたら、これからは王子と一緒に登校とかになるのかな?
王子は婚約したばかりなのに皆勘違いしちゃうよね?
王子と僕が一緒の馬車で登校し始めたら…っんふふ。

…僕は一人で登校している。

食事も王族の人と一緒に取ることはなく部屋に準備され、たまに王子とすれ違っても忙しそうにしていた。
王宮のお世話になった直後は王子と散歩など出来たが次第に完全に逢う事はなくなった。

思っていた生活と違い、勝手に日々が過ぎていく。

総合大会が始まろうとしていたが、加護を与えた場合僕も不正となり謹慎すると念を押されていたのでテアドール様には「頑張ってね」としか言えなかった。

そして、祈りは禁止なので僕の能力は簡易診療所で怪我をした人の手当てをすることを言い渡された。
そこまで大きな怪我をする人はいないが、人数が多いので罰としては妥当だと思う。

僕は魔力が少ないので一回一回かなり集中しなければならないが、来る人へのアピールにはなった。

総合大会では怪我人の対応をして過ごしたので一日が過ぎるのが早く、一人になると王子に逢いたくなった。

こんなに頑張ってるんだから少し我が儘に振る舞っても許されると思う。
あっちみたいに我が儘放題ではなく、頑張ったご褒美として…。

「王子はどこー?」

大会が始まってから王子に逢えていないので、つい言葉にしていた。
願ったからか、王子っぽい人が人気のない所に歩いていくのが見えて追いかけた。
途中で見失い探しまくるとあっちの主人公と出くわした。

最近至るところでイチャついていて目障り極まりないんだよね…。

人がいてもいなくても気にせずイチャつけるのって凄いわ…。
膝枕しているように見えて緊張している所を見るとエッチな事でもしているんだろうとわかった。
そんな現場僕も見たくないから情報だけもらおうと思ったけど、この人が王子の情報を持っているわけがなかったので早々に離れた。
王子を探しても探しても見つからなかったので、診療所に戻り大人しく働き続けた。

「誰かっ助けてください、溺れた人がいます。」

慌てて飛び込んで来た生徒の言葉で診療所内は静まり返り、一拍置いてからか保険医の指示により僕が溺れた人を助けに行くことになった。
本来なら保険医が行くべきだが、こんな時に限って重傷者が立て続けに運ばれてきていたので僕が行くことに。
僕は呼びに来た生徒の後ろを走りながら、能力を見せびらかすチャンスと思いつつも助けられなかったらどうしようと不安だった。
湖の近くに人だかりが見え、倒れている生徒に僕の光魔法を送った。

お願い助かって…。

この祈りは僕の為じゃない。
本当に助かって欲しいと思っている。

純粋に助けたかった。

「…ごほっごほっ」

彼の意識が戻ったのがわかり腰が抜け、周囲にいた人達の歓声が聞こえた…。

初めて人の命を救った…。

その後ちゃんと出来たのが分からないが診療所で怪我人に光魔法を与え続けた。

全ての大会が終わり表彰式となり、表彰台に上がったのはあいつの婚約者達だった。
これでハッキリした、彼らは脅迫されていることが…でないとあんな奴の為に頑張るわけがない。
僕がこのゲームの主人公、僕だけが人を助け…幸せにすることが出来る。

皆は僕が助けてあげないとっ。


ーーーーーーーーーー
どうでしょうか…。
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