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二章 ハーレムルート

兄さんは騙されている、俺は騙されない エイダン グレモンド

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兄さんの婚約者が今日挨拶に来る。

本来は喜ばしいことだが、俺は喜べなかった。
何故なら相手が気に入らない。
爵位は俺達なんかより上で凄い人だけど、人間性が余りにも酷かった。
俺よりも年上なのに悪評は学園の下級生にも伝わる程だった。

そんな人と何故兄さんが婚約するんだ?

しかも兄さんは婚約者らしい。
高位貴族と繋がりを持ちたいという野心家の両親ではなかったのに急にどうして?
婚約者としての挨拶って、あんな人が本当に来るわけないだろ?
来ても屋敷を引っ掻き回すほどのワガママ放題するじゃないのか?
兄さんもなんであんな人と…。
きっと利用されているんだ。
王子に振り向いてもらう為に色んな貴族と婚約しているに違いない。
王族から打診があればすぐに乗り換えるはず。
そうなる前に婚約は解消するべきだ。
父さん達も何か隠しているようだから、証拠集めなのだろう。

…やっと来た。

馬車がついても降りてくる気配がない。
窓から中を覗くと二人が重なっていた。

…いちゃついているのか?

まさか…。
漸く出てきた時には兄さんは満足気で、あの人は頬を染めているようだ。

まさか…あの人はキス嫌いで有名だ…そんなのあるわけない…俺の見間違いだ。

噂と違い小動物のように振る舞い兄さんに寄り添う姿は俺の理想の人だが、あの人がそんなはずがない。

俺達を騙す演技だ。

この人はそんなことまでする人なんだな。

「仲が良くて心配は要らないみたいだね。」

父さん何言ってんだ、心配しかないじゃないか。
良く見ろよ、こんなの演技に決まってんだろ?確りしてくれ。

「あっあっあっ僕…」

「俺達は問題ないよな。」

え?
キス…してるの?

兄さんから強引にしているように見える…。
抵抗しているようで、その手には全く力入ってないよな?

あの人が兄さんと…キス…。

キス嫌いのあの人が王子でもない伯爵家の令息とキス…。
…嘘だ。
この人は…誰だ?
恍惚とした表情で兄さんを見つめている。

「エドバルド、続きは部屋でしなさい。」

父さんが止めに入らなかったら二人はキスを続けていただろう。
キス嫌いの噂は嘘だったのか?
た…喩えキス嫌いが嘘でも、王子を追いかけ回していたのは事実だ。
俺は簡単にあんたを受け入れたりはしない。
兄さんに撓垂れ掛る姿を睨み付けるように監視すれば、俺の視線に気付いたのか探るような視線が返ってきて、それは弟に対してもだった。
屋敷へ案内される姿を後ろから注視していると、兄さんに身を預けか弱さを演じるように服を摘まんでいた。

「エッチは後でな?」

兄さんの言葉に、エロ目的なのかと理解した。

あの人はエッチが下手だと相手を断ったりと好みがうるさいと聞いた。
兄さんとペアになった時、兄さんの良さに虜になったのだろう。

身体だけが目的の婚約…どこまでも卑しい人間だ。

談話室では兄さんの隣に座るも、俺を挑発するように視線を寄越した。
俺が敵意むき出しなのを感じ優越感に浸っているに違いない。
兄さんにどんな事したのか知らないが、俺は簡単には騙されないからな。

「エドバルドからフィンコック様に婚約の申し出をしてほしいと手紙があった時は驚いたよ。」

父さんの言葉に驚いた。
えっ…兄さんからなの?

「どうなるかと心配だったけど、婚約承諾の返事が来た時も信じられないくらい驚いたよね。」

あっちからじゃないのか?
まさか、兄さんから仕向けるように誘導したとか?

「だけど二人を見て安心した。」

父さんまで騙されないでくれ。

「エドバルド一人の思い込みじゃなくて。」

母さんも人を良く見ろよ。

「思い込み?」

なんだよっその「僕はなんにも分かりません」って態度。
やっぱり全てが計算で、兄さんは完全に洗脳されてるんだ。

「フィンコック様の意思が見えなかったもので、つい…」

それだけ本音を隠すのが上手いってことだろ?

「僕は…エドを…」

「王子の変わりにしてる?」

しまった…つい話しに割って入ってしまった。

「えっ」

俺に見破られて驚いているようだな。
あんたの考えは見え透いてんだよ。
俺が全部暴いてやるよ。

「フィンコック様がずっと王子だけを追いかけてたのは有名な話だ。父さんや母さんが心配するのも当然だろ?」

さらに真実を告げれば表情が分かりやすく曇っていく。

「おいっ」

兄さんの洗脳はまだ溶けないらしい。
そんな簡単には無理だよな。

「事実だろ?学園にいる者で知らないヤツはいないよ。ペアの授業だって何度も直談判してるのを目撃したヤツも一人や二人じゃないだろっ。」

誰が見ても苦悶の表情だ。
事実なんだから、言い返せないよな?
それとも往生際悪く、苦し紛れな言い訳でもするのか?

「ルマン悪ぃこいつのことは気にするな」

はぁ、兄さん…。

「でも…」

分かりやすく傷ついた振りなんてしたって俺達はあんたになんか騙されねぇんだよ。

「エイダン、ルマンは俺の婚約者だ。俺が望んだ婚約だ口出しするなっ。」

目を覚ましてくれよ兄さん。

「兄さんだけの問題じゃないだろ?兄さんは時期当主になるんだ、何かあれば家門で責任を取らされる可能性だって有る。フィンコック様は今まで公爵家が守って大事にはならなかっただろうが、俺達は伯爵家だ。守りきれない。それに始業式でも注目を浴びるように倒れて、そんなに特別扱いされたいですか?獣人の真似事までしてっ…くっ…」

「いい加減にしろよっ」

言い終わる前に兄さんに胸ぐらを掴まれた。

こんな兄さんは初めて見る。

やはり、この人に出会って兄さんは悪い方向に変わってしまった。
返せ、以前の兄さんを。

「エドっ彼は間違ってないから。全部本当の事だから…でも、今はエドの婚約者です。王子の婚約者になりたいなんて思ってませんし、エドを誰かの変わりなんて考えてないです。」

あぁ、俺はあんたと違って嘘なんか言わない。

「口ではなんとでも言える。フィンコック様が婚約したのだって王子への当て付けなんだろうっ」

「お前っ勝手なこと言ってんじゃねっ」

こんなに怒りを露にする兄さんに驚いた。
洗脳されると人はここまで変わってしまうんだな…。

…兄さん。

「エドォ」

「二人とも止めなさいっ。」

父さんの声で兄さんも少しは冷静さを取り戻してくれた。

「エドバルド、フィンコック様と部屋に。」

「…はい」

だめだっ。
二人きりにしたら兄さんに何を吹き込むか分からないじゃないか。

「フィンコック様、申し訳ないがエドバルトと居てもらっていいか?」

「はぃ」

勝った気でいるなよ。

「エイダンが悪かったね。」

なに言ってんだ?
父さんまで洗脳されちまったのか?

「いえ、エイダン様は家族の事を真剣に思ってのことなので…。僕の方こそすみません。」

最もな事言って、父さんを取り込もうって気か?
見くびっていたが、この人かなり優秀な人物なのかもしれないな。

「そう言って頂きありがとうございます。フィンコック様について話しておかなかったこちらの責任です。」

「…行くぞっ」

あの人が返事をするよりも前に、兄さんは不機嫌な態度で彼を連れて談話室を出ていった。
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