【完結】ハーレムルートには重要な手掛かりが隠されています

天冨七緒

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二章 ハーレムルート

アレッサンドロ ギノフォード

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「ん゛ん゛ん……う゛うん」

魘されている時とは違う声が聞こえた。
フィンコックが目覚めたのか?

私は急いで駆け寄る。

「にゃにゃにゃーん」

私の呼び掛けには反応があるものの返事がおかしかった。
声をかけるも「にゃ」しか言えないことに驚いたが、久々のフィンコックの笑顔や驚いた顔を見ることが出来て安心した。

良かった、目覚めた。

目覚めた事に安心する。
驚いたりすると耳がピクピクとなり、「にゃにゃ」と発言するフィンコックが不謹慎にも可愛くて堪らない。
一旦冷静になるべく、軽食を理由に部屋を出た。

グググー。

戻ると何処からかお腹の音が鳴った。
俯いて顔を隠すも、耳がピクピクと動いている。

「ふっ、どうぞ」

食事をしようにも、スプーンを持つ手が震えているように見えた。
獣人化してしまった事や、眠り続けていた事で体が思うように動かないだろう。スプーンを手にしフィンコックに食べさせた。

「にゃ゛ーん」

口元を押さえ大きく鳴く声に驚いた。
熱いものが苦手なようだった。
確認したが、そこまで熱いようには感じなかったが、猫が猫舌というのは本当らしい。

「そんなにですか…フゥフゥ…これでどうです?」

恐る恐る舌を出しペロッと舐める姿は本物の猫のようだった。
食べる姿はいつまでも眺めていられる。
食事を終え片付けているとフィンコックが私にじゃれていた。

「んにゃ?」

幼い子猫が親に構って欲しくてするような行為。
獣人化したことで、行動が動物的本能に引っ張られているのだろう。
思わず抱きしめていた。

このまま…。

私は今、なにを考えていた?

「…今日はもう休みましょう。」

邪な考えに支配されそうになる…。

このままフィンコックを隔離する事で私だけのものに…。

一緒にいてはフィンコックになにするのか自分でも制御出来る自信がなかった
ので、今は一刻も早く離れることにした。

突然手を掴まれた。

「…大丈夫です、眠るまで居ますよ。」

何故そんなことを言ってしまったのか。
私を信じきっているフィンコックを裏切るかもしれないと言うのに。
私が今フィンコックにキスしたらフィンコックはどんな反応をするんだろうか?

頭を優しく撫でれば気持ち良さそうにし、手を求めてくる。
彼の手を握ると、手を鼻に擦り付けていた。
このような行動も獣人の本能に引っ張られてだろう。
普段の彼ならしない行動だ。
何度か繰り返した後、規則正しく寝息をたて始めた。
手を離そうとすると、ギュッと力が入った。

そんなことをしてはダメだよ…。

フィンコックは私の思いを受け入れることは出来ないだろう?
頭を撫でると手が緩み、その隙に手を離した。
ニギニギし私の手を探している姿をみると、手を差し出したくなるが私は離れ部屋を後にした。

翌日も私は気持ちを見透かされないよう平常心で食事を運べば、嬉しそうに駆け寄ってくる。
だがまだ、話せずにいた。
私は食事をするフィンコックに説明をするも、彼は話す事が出来ないので筆談で進めた。

僕は本当に獣人なんですか?

目覚めてから、話せなくなり現実を受け入れるのが怖いのだろう。
近くにある鏡で確認するのが一番だが、大丈夫だろうか?
鏡を勧めフィンコックは恐る恐る鏡の前に移動し、全身を確認し後自信の耳の違和感に気付いた。

真っ黒い毛で覆われた耳。

震える手が耳へと移動する。

「ふ…ふにゃぁん」

悲しげな鳴き声が部屋を支配した。
瞳は潤み、鏡に写った私に救いを求めるように見えた。

「…ふっにゃっ…にゃっ…にゃっ…」

彼を無意識のうちに抱きしめ慰めた。
ソファに座るも、落ち着きなくソワソワしだした。
トイレなのか尋ねても食いぎみに違うと反論されるも、それでもお尻を気にしている。

お尻お尻お尻お尻お尻?お尻?
まさかっ。
獣耳があるのだから、尻には…。

「恥ずかしいかもしれませんが、少しズボンをズラしますよ。」

向かい合わせに立ちながら生徒のズボンを下ろす。
フィンコックは驚きつつも私に従っていた。
これが毎回抗議しに来たあのフィンコックなのかと疑問には思ったが、今は私の仮説を実証させるのを優先した。
不安なのか、この生徒は私の服を掴んでいた。

フィンコックの頭の中は今どんなことになっているのかな?

興味が湧いてしまう。

やはり、あった。
耳と同じ真っ黒で艶々している尻尾が。
窮屈そうにモゾモゾとしている。
狭さから解放するべく、尻尾を掴み外へ出した。

「にゃぁぁぁああん」

私が掴んだからなのか、始めての外気の所為かはわからないがフィンコックは艶やかな鳴き声を上げた。
真実を告げれると、右に左にと身体を捻り尻尾を確認していた。
自身の尻尾に恐怖を感じたのか私に近付き助けを求める手にも力が入っていた。
話しかけ視線が会うも、動揺しているのが伝わる。

「尻尾をしまうと窮屈なんでしょう、今はズボンをズラして尻尾を外にだしましょう。」

とてもだらしない格好で、ズボンが落ちないよう内股になっている姿も可愛らしかった。
会話をしながらもズラしたズボンが気になるのか落ち着きがないのに、サンチェスターの名前を出せばすぐに反応する。
私の許可があれば会えると伝えると、蕩けた表情をした。

許可を出すものか…なんて浅はかなことはしない。

「…分かりました、近いうちに呼びます。」

私に見せない表情を見る度、胸が痛む。

「…サンチェスターもフィンコックに会いたがっていたよ、彼を信じなさい。」

「…にゃん」

彼を喜ばせるために、私に出来る事はサンチェスターに会わせること。
…これでいいんだ。
これで。
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