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一章 純愛…ルート

馬車に揺られて

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終業式を終え、ライアン様と暫しの別れだった。
二週間も離れるなんて身体を引き裂かれるように淋しい。
どれだけライアン様に依存していたのかを実感する。
こんなにも苦しいのに僕はライアン様以外と婚約出来るのかな?
それとも、ライアン様を忘れるために今すぐにでも婚約するべき?
…悩んでも答えは出なかった。

ライアン様が誰かと婚約してしまったら…僕も誰かと婚約を…。
…エルマー様を利用するようなことはしたくないな。

馬車に揺られながら変わる風景を眺めた。
見知らぬ景色、見慣れない風景、この先どうなるんだろう…。

大きな建物が見えてきた。
図書館とか?学校?

おっきいなぁ…どんどん近付いてくる。

…止まった?

ここで何か確認とかするのかな?

コンコンコン

ノック?
僕は施錠を解いた。
扉は外から開かれ太陽の光と共に沢山の使用人が待ちわびている光景が目に入った。

…違うよね、違うよね?

ここが僕の家なんて言わないよね?

「シャルゥー。」

綺麗な人が腕を広げながら近付いてくる。
顔がシャルマンに似ている。

「あぁ、元気だったか?私は毎日毎日心配で心配でぇ。」

抱きしめてくれる腕が優しい。
僕はこれからこの人を騙さなきゃいけない。
本物のシャルマンにならないと…。

「母さん、シャルが驚いてるよ」

お兄さん?
骨格からして全然違う。
共通なところと言えば、黒髪・黒目というだけ。
シャルマンとは違う綺麗な顔だ。

「シャルどうした?疲れたか?早く中に入ろうか。」

「はっはい。」

緊張する。
促されるまま屋敷の中に、ここから始まる試練の日々。

が、がんばれぇ~自分…ダメだ声が震える。

偽物とバレて追い出されたらどうしよう…一人で生きていけない。

談話室に紅茶を準備されながら、満面の笑みの二人が代わる代わる言葉を投げ掛けてくる。
答えるのに必死で全くシャルマンにはなれなかった。

「シャル学園はどう?不便なことはない?」

お母さんはずっとシャルマンを心配してくれている。
シャルマンは周囲を心配させることはあっても、本人を心配する必要は…。
どうしてこんな素敵な人達に育てられて、噂のシャルマンが出来上がったのか僕には不思議だった。

「シャル、嫌なことは嫌って言わないとダメだからな、我慢はするなよ。」

あっ、答えが見つかったかも。

「うん、僕は平気だよ。」

「あぁ、何かあったらすぐに言え。俺が解決してやる。」

お兄さんもシャルマンが大好きなんだね。
その優しさがもしかしたらシャルマンを…。

その後もシャルマンが家族からどれだけ愛されているのかわかった。
僕の本当の家族も僕の事を思ってくれていたと思う。
僕は前世も今も嘘をついているんだ…。

「シャル大丈夫か?やっぱり疲れているのかもな、今日はもう休め。」

「そうだね、夕食にはデグランも帰ってくるから4人揃って頂こう。」

デグラン…お父さんかな?

「はい。」

…はいとは言ったものの、部屋は何処だろう?

「シャル、部屋までエスコートするよ。」

「ドミニクは変わらないね。」

ドミニクがお兄さんの名前か。
良かった、エスコートで部屋には辿り着けそう。
ありがとうお兄さん…この世界ではお兄様かな?
手を取り、部屋まで案内された。
中に入っても思うけど、とんでもなく広い屋敷だなぁ。

シャルマンはお金持ちだったんだね。

公爵家ってすごいなぁ。

「シャル…お帰りゆっくり休みなさい。」

「はい、お兄様ただいま。」

頭を撫でられお兄様は部屋を去っていった。
僕は夕食に呼ばれるまで身体を休めていたら、使用人に呼ばれるまで眠ってしまっていた。
迷子になったらどうしようと思ったが、使用人が先を歩いてくれたので食堂に着く事が出来た。

「シャルお帰り。」

大人の渋さを持ったお兄様そっくりな人が声をかけた。

「ただいま戻りました…。」

お父様と言うべきか悩んでしまった。

「いやぁ、シャルがいると一段と我が家が華やぐね。」

「そうだね。」

「あぁ。」

皆が肯定してくれる。

僕で良いのかな?

一家団欒の会話。
無条件で僕を受け入れてくれている。
僕は貴方達の家族になっても良いですか?

「シャル、もうすぐ三年だな。」

「はい。」

「婚約はどうする?」

突然の言葉に油断した。
心構えもなく来た。

なんて答えるのが正解?

「王家に話してみるか?」

「ダメっ」

三人が一斉に驚いた表情をした。
僕の大きな声に驚きつつ、拒絶したことにも驚いていた。
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