【完結】ハーレムルートには重要な手掛かりが隠されています

天冨七緒

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一章 純愛…ルート

祭りだ祭りだワッショイワッショイ

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僕達は寮の入り口で待ち合わせをしていた。
今日はこの世界に来て初めて学園の外に出る。
外出する楽しみと、同級生と出歩くのと、この世界のお祭りに興奮していた。
楽しみすぎて待ち合わせ場所にはずいぶん早く来てしまっていた。
学園の外なので制服ではなく「平民の格好をするように」と念を押された。
シャルマンの服はどれも派手で何を着ていけば良いのか分からず、部屋に用意されていたゆったりした服に、制服のズボンを合わせドキドキしながら皆を待った。
三人は一緒に現れた。

本当に彼らは仲が良いんだなぁ。
羨ましい、僕に友達は…。
今は考えるのを止めて、お祭りを楽しもうっ。

「待ったか?」

「うんん。」

「すみません俺たちが…」

「フィンコック様を待たせるなんて…」

ライアン様は普通?に接してくれるけど、お二人は…。
同級生なのにどうして二人は僕に気を使うのかな?
…シャルマンの機嫌を損ねないようにかな?
僕が暴れだすって思われてたりするのかな?…あっ僕って公爵家なんだっけ?
それでかな?
よく分からないけど、貴族社会って大変かも…。

「あ、あの…」

「「はい」」

二人はどんな罰でも受けますって顔をしている。
僕より身体は二回りも大きいのに。

「僕の事はシャルマンとお呼びください。」

「「………。」」

「あの…ダメ…ですか?」

二人は遅刻した罰を受けるより、僕の名前を呼ぶ方が罰みたいに受け取っていた。

「…いやっ俺たちは伯爵家なのでそう言うわけにはいきません。」

「公爵家のフィンコック様を…。」

貴族は爵位が全て。
どんなにダメダメな僕でも公爵家なので特別扱いするのは当然で、二人は僕の提案を飲んではくれなかった。
それでも僕は…。

「…ダメ…ですか…?」

今度は首を傾げて聞いてみた。

「「………。」」

「お二人と、もっと仲良く…。」

シャルマンは怖がられているかもしれないけど、ライアン様の友達なら僕も…仲良くなりたかった。

「追々…」

「………」

エトバルド様は可能性がありそうな反応だったがフレデリック様は口を開かなかった。

「シャルマン、焦るな。」

ライアン様の言葉で僕は彼らにお願いと良いながら押し付けていた事を知る。
ライアン様の友達に少しでもよく思われたいと気が焦ってしまい…失敗した。

「…はぃ。」

少しだけ気まずくなったりしたが、四人で町へ向かった。
町はお祭りの熱気で賑わっている。
沢山の人に大きな音、美味しそうな匂い全てに興奮した。
お祭りの雰囲気に誘われ、いつの間にか小走りになっていた。

「シャルマン、はぐれるなよ。」

「あっはい。」

ライアン様の声で冷静さを取り戻すも、この世界の初めてのお祭りで舞い上がってしまう。

「ぅわぁっ」

行き交う人の多さに慣れず、ぶつかり転びそうになった。

「気を付けろ。」

ライアン様に抱き寄せられた。
浮かれてはしゃいでライアン様に注意を受けるも、結果ライアン様に迷惑をかけてしまった。

「ごめんなさい。」

落ち込む僕にライアン様はそっと手を繋いでくれた。

「俺の側を離れるな。」

「…はぃ。」

誰かと手を繋いだのは初めてだ。
その後は大人しくライアン様の隣を歩いた。
心臓がドキドキと煩くて周囲の音が先程とは違い耳には入らなかった。

「腹減ってるか?」

「ん?んー、わかんない。」

空いているような気もするけど、ライアン様と外で手を繋いで歩いている事実に胸がいっぱいだった。

「あれ、食ってみるか?」

ライアン様が指す方向には串に刺さった唐揚げ?のようなものがあった。

「はいっ」

ライアン様の進めてくれるものは何でも食べたい。
ライアン様はあれ好きなのかな?

ライアン様は慣れたように串を二本買って、一本を僕にくれた。
近くで見るそれは結構な大きさで一人で食べたらそれだけでお腹いっぱいになりそうだった。

「んっんぉいしー」

甘辛ダレでちょっとピリッとする味の唐揚げで、少し大きめだけど串に何個も刺さったものだった。

「あー俺も…好きだなぁ。」

いつの間にかエドバルド様が真後ろにいた。

「はい、どうぞ?」

僕は躊躇いもなく一口食べた串をエドバルド様の口へ差し出した。
エドバルド様やフレデリック様、それにライアン様も驚いていた。

あっ日本では皆でシェアする事は珍しくはないが、この世界では珍しいのかもしれない。
特に貴族の公爵家のシャルマンがすることではなかったのかも…。

「あっいえ、なんでもないです。」

しまったと後悔しながら腕を引っ込めた。

「…良いのか?」

「え?…あの…エドバルド様がお嫌でなければ…」

「なら、一つ貰います。」

エドバルド様は串を掴む僕の手を掴み、大きな口でお肉を食べた。

「うまいっ」

「…ぇへ。」

僕が作った訳じゃないのに嬉しくなり、隣にいたフレデリック様にも串を差し出した。
フレデリック様は少し困惑していたが、エドバルド様のように食べてくれた。

「…ありがとうございます。」

「ぃぇ。」

皆に食べて貰えたのが嬉しかったのを誤魔化すように、最後の一個に食いついた。

「んぁっ」

食べ方が下手なのか、お肉の半分が落ちそうに串に引っ掛かってしまい慌てていると僕の目の前にライアン様がいた。
まるでキスの距離だった。

「ん」

ライアン様が落ちかけていたお肉を食べてくれた。
その刹那、唇が触れたように感じた。
エッチな意味はなく、ただの食事?お肉救出の為で色っぽい意味はないと分かっていても照れてしまった。
外で、多くの人が行き交う中で恥ずかしい。
一気に顔が熱くなるのを感じ、俯いてしまい誰もそんな風には見ていないと自分に言い聞かせるも、やっぱり恥ずかしかった。

僕は知らなかった。
僕達の食べ方を見ていた恋人たちが真似するようになり、その後はこの屋台が恋人達の大人気店になっていた事を。

その後も皆で色んなものをシェアしながら食べ歩いた。
僕が皆に食べて貰ったり皆に食べさせて貰ったりと、二人と距離が縮まったように感じて嬉しかった。

「こんな気持ち悪いもん渡されても調理できない、棄てろ棄てろ。…バカにしやがって。」

お祭りで騒がしいはずなのに男の人の怒声が響いた。
お祭りで人がごった返す中、そこだけ空間が裂けているように人が居なかった。
ハッキリ言ってしまえば人気店ではなく…その…寂れた…ぅん…な店。
突然の店主の怒声に僕は勝手に身体が縮こまった。

「大丈夫だ、気にするな。」

僕の様子に気付き、ライアン様が肩を抱いてくれた。
ライアン様の温もりを感じると安心する。

「あぁ、海の虫だろ?見た目気持ち悪いからどの料理人も避けるってやつだ。」

エドバルド様は店の店主が何で憤怒しているのか察したようだった。

「海の虫?」

海の虫ってなんだろう?
フナムシの事?
ヤダヤダあれは気持ち悪いし食べ物じゃないよ。
そんなの怒って当然だよ。

「最近よく取れるっていう、でっかい虫。見た目が気持ち悪いんだよ。」

でっかい?
フナムシって大きかった?
もしかして蝦蛄の事?
見た目は苦手だけど美味しいよね?
エビより柔らかいし、お寿司であるよね?
…あぁ、日本と違って生魚食べないのかな?
だとすると、気持ち悪くて苦手なのは仕方ないのかも。
蝦蛄なのか少し気になって振り返った。

ん?
あれって…エビ…だよね?
エビは気持ち悪いの?
生で食べなくても火を通すだけで美味しいのに…。
棄てないよね?

「ん?まっまってぇー」

お店の人がエビを棄てようとしていたのでつい大声をあげて飛び出してしまっていた。

「なんだ、お前は。」

「…あっ、あの…僕は…その…」

勢いで出てきてしまったが、お店の人が怖くて言葉か続かなかった。 

「シャルマンどうした?」

ライアン様が僕を守るように店主の間に入ってくれた。

「あ、あのね…あれ調理したらとっても美味しいと思うの。」

「…あのムシをか?」

ライアン様も僕の言葉を信じることが出来ないみたい。
今まで「ムシ」と認識していたものを急に食べようっていうのは、抵抗があるみたい。
だけどエビは生だけじゃなく焼いても揚げても美味しいの。
こちらの世界でエビ料理がなく残念に思っていたけど、今僕の目の前には大好きなエビフライが食べられるチャンスがやってきた。
これを逃したらエビフライは永遠に食べられないかもしれない。
店主のおじさんが髭が濃くて眉間に皺がよっていて、鋭い目付きの人であっても負けるわけには行かない。
負けられない戦いがここにある。

「ぼ、僕が調理しまう。」

気合い入れすぎて噛んだ。
店主もライアン様もエドバルド様もフレデリック様も皆、僕の発言の内容と噛んだ事のダブルで少し呆れたように見えた。

「出来るもんならやってみな。」

店主は僕に説得されたと言うより、やっぱり呆れていたんだと思う。
こちらの世界にはエビ料理はまだ生まれてないらしい。
日本では普通だし、中国もなんだっけ?誰かが焼き払おうとしたら香ばしい匂いがしていたエビを食べたら美味しかったって話が有ったような無かったような…忘れちゃった。
やっぱり見た目は大事だな。
エビ、美味しいのにムシだなんて。

僕はまず背わたを取って串打ちし、真っ直ぐにして塩を振ってじっくり両面を焼いた。
もう、それだけで美味しそうだった。
串を回しながら抜いて、お皿に置いた。
凄くいい匂いなのに誰も手を伸ばさなかった。
長年の思い込み?暗示が強いみたい。
勿体ない、美味しいのに。
誰も手をつけないので、僕が一番乗りで殻をむき口にした。

「ふふ、おいしぃ」

僕が先陣をきって食べたことで、その場に居合わせた四人は半信半疑でも手を伸ばし僕と同じように殻をむき口にした。

「ぁあ゛?」

「ん?」

「んぁ?」

「………」

四人共、味の感想を言ってくれない…。
元日本人の僕とは味覚が違うのかな?
これって美味しくないのかな?

「あ゛ー」

急に恐ろしい店主が叫び声を上げた。
怒られるっ。

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさぃ」

僕は咄嗟に謝っていた。

「旨い、これはこんなに旨かったのか?」

「旨いな。」

「今まで見た目で避けてだが、旨すぎる。」

「………美味しいですね。」

旨い?美味しい?
受け入れて貰えた…んだよね?

「あんちゃん、すげぇな。こりゃうめぇわ。」

店主にバシバシと両肩を叩かれた。
凄く痛いけど喜んで貰えて良かった。
…って、これだけで終われない。
僕にはエビフライを作るという目的があったんだ。

「あ、あのもう一つ良いですか?」

「?あんちゃん、もしかしてまだなんかあるんか?」

「はぃ…ダメですか?」

「ダメなわけあるか、やれやれ。何か手伝うことあるか?」

「殻をむいて貰って良いですか?その後は背わたを取ります…こんな風に。」

手本を見せながら店主にも手伝って貰った。

「殻をむいたら小麦粉と塩でしっかり洗います。」

店主に調理法を教えている間ライアン様達三人は静かに見学していた。

「エビの尾を斜めに切り、水を絞り出して水気を取ります。んーでっ丸まってしまうので腹側に切れ込みを何ヵ所か入れ塩と胡椒をかけます。本当なら、十分?二十分くらい置いた方が美味しく出来ます。小麦粉、卵、パン粉の順番でつけます。パン粉はしっかり付けた方が美味しいので軽く握ります。油で揚げるんですが、油は箸…」

この国には箸が無い。
熱した油の温度どうやって測れば良いの?
木で出来たスプーンを使った。

「こうやってスプーンをいれた時に泡が出来たら十分に暖まってるので、静かに丁寧に入れて…キツネ色になるまで揚げれば完成…です。」

この世界に来て初めてのエビフライ。
僕の一番好きな料理…やっと食べられる。
はぁ、美味しそう。
タレは…タレは…タレが…ないっ。
タルタルソース…。
今日はこのまま頂こう。
エビフライはそのままでも美味しい。
ソースはプロの人に任せよう。

揚げるのは僕は危険と言うことで店主が変わってくれた。
僕が揚げるタイミングを教えついに完成した。

「みーんなぁ、出来たよっ」

こんがりキツネ色に焼けたエビフライはとっても美味しそう。
はぁん、早く食べたい。
五人で出来たエビフライを囲んだ。
なんの儀式だろうか?

「いただきます。」

目の前の美味しそうなエビフライに我慢できず素手で食べてしまった。

「ふふふ」

ニヤけてしまう自分を押さえられない。
だって、美味しいんだもん。
僕の反応を見て、皆素手でエビフライを食べた。

「ん゛ー」

「………」

「うんめぇー」

「………しぃ」

四人の顔を見てエビフライが受け入れられたのが嬉しかった。
ふふ、これからは沢山エビフライを食べる機会が増えそう。
うれしぃ。

「あんちゃん、これうちの店で出していいか?」

「はいっ、食べに来ますね。」

「おぅ、あんちゃんならサービスすらぁ。」

「へへ…はい、おいちぃっ…。」

今、ちゃんと美味しいって言いました。
聞き間違えですからね。

お祭りは楽しく美味しく終わった。
来て良かったぁ。
皆とも少しは仲良くなれたかな?
初めての友達と一緒に過ごしたお祭りは楽しい一日だった。

その後僕の提供したエビフライレシピはじわじわと世間に広まり、閑古鳥が鳴いていたあのお店は毎日がお祭りのように繁盛していた。
世の中にエビの美味しさが伝わり様々な料理に使われるようになるも、それでも学園のシェフに伝わるのに半年、貴族の食事に出るのに一年もかかった。

僕が作ったエビフライ達は皆の口に消えていった。
人が食事するのをじっと見るのはマナー違反かもしれないけど、ライアン様の食べる姿は気持ちいい。
人が食事する姿がこんなにも気持ちの良いものなんて始めて知った。

僕の事もあんな風に…。

…あれ?今、何を考えてた?
ただの食事する姿に欲情するなんて、はしたない。
僕はいつからこんなにエッチになってしまったんだ…。
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