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一章 純愛…ルート

突然の訪問

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お風呂を済ませ、今日借りた「騎士様に奪われたい」という本を堪能した。
久しぶりの小説だった事もあり一気に読んでしまった。

あぁ、なんて素敵な世界なんだ。
僕も騎士様に奪われたい。
と、幸せな気分で余韻に浸っていた。
僕もこんな風にライアン様に…。
これは小説であって現実じゃない。
この世界に来れただけで僕は幸せだ。
これ以上を望んではいけない…。

冷静になると現実を知り、寂しさが押し寄せてきた。

もう一度読もう。

コンコンコン

ん?
誰だろう?
僕の部屋に来るとしたらライアン様ぐらいだけど、今日は約束してない。
いつもは前もって来ることを伝えてくれるから、多分ライアン様ではないはず。
僕のところに来るような同級生は居ない、先生とか緊急な用件かな?
念のため本はベットの枕の下に隠した。

「はぁい」

扉を開けるとライアン様がいた。
どうして?

「いいか?」

「ぁっはっはい、どうぞ。」

扉を開けライアン様を受け入れた。

なんだろう?
す、するのかな?

ライアン様は躊躇いなど見せることなく歩き、僕が後ろをついて行った。
今日はベッドではなくソファに腰を下ろしたので僕も隣…ではなく向かいに座った。

ま、まさか今日こそ本当にペア解消の話とか?
不意打ち過ぎる…ペア解消は期限までないと勝手に安心していたので心構えが出来ていない。
急に不安になり挙動不審になってしまう。
部屋に入れるの断れば良かったかな?
今更だけど、もう遅いよね…。
約束もなく訪ねてきたのに、無言のままのライアン様。
やっぱり真面目な話…ペア解消をするつもりなんだ。

「な、なにか飲みますか?」

沈黙が怖くて、紅茶を淹れる為立ち上がった。

「いやっいい。」

…断られてしまえば何も出来ず、再び座るしかなかった。
きっと無駄な事を省いて、すぐにでもペア解消の話がしたいんだと悟る。
完全に嫌われてしまったんだ…。
シャルマンに対して良くない感情があったのかも知れないが、それを決定的にしたのは僕だ。
全てをシャルマンの所為にしてはいけない。
姿が変わっても僕は僕のまま、誰にも好かれない人間なんだ…。
大人しくライアン様のペア解消の言葉を待った。

「なぁ俺とペア続けたいか?」

やっぱりペア解消の話し合いだった。
ライアン様はシャルマンなら解消を申し出てくると思い、自ら来てくれたんだ。
僕は解消したくないけど、伯爵家のライアン様から解消は言いにくいんだろうな…。
僕から言わないと…言いたくないけどライアン様に迷惑はかけたくない。

「…分かりました、解消について僕から先生に伝えておきます。」

声が震えてしまった。

「…解消したいのか?」

したくない。

「…ライアン様が…望むのであれば…。」

やだ。

「俺はフィンコックの考えが知りたい、どうなんだよ。」

…僕はシャルマンじゃない。

「ぼ、僕はライアン様のご迷惑にならない方で…。」

「俺の事は良い、フィンコックの考えが知りたい。」

フィンコック…シャルマン…僕が答えて良いの?

「僕…の…?」

素直に言って良いのかな?
僕の言葉はお願いじゃなくて命令になってしまう。
ライアン様に無理してほしくない。

「フィンコック、来いよ。」

答えられずにいた為ライアン様を苛つかせてしまった。
僕はこれ以上期限を悪くして欲しくなくて、素直に立ち上がりライアン様の側まで近付いた。

「フィンコックからキスしたらペアを継続、しなかったらこの場で解消でいいな?」

キスしたらペアは継続?キスしなかったら解消?
僕からキスしたらペア続けてくれるの?
良いの?
僕からキス。
キス。
キスなんてしたことがないからどうすれば良いのか分からない。
ライアン様とキスが出来て、更にペアを続けてくれるのならキスがしたい。
けど初心者の僕にはハードルが高い。
う、うまく出来るかな?
…本当にして良いのかな?

深く座り、背凭れに体を預けるライアン様。
なんだか余裕に見える。
あっそうだ、シャルマンは誰ともキスをしないことでも有名だ。
やっぱり、僕がキスをしないと思ってこの選択にしたのかな?
これで僕がキスをしちゃったら、ライアン様はペア解消出来なくなって困るのに…。
ライアン様の為にもキスしない方が良いのかな?
だけど僕は…。

キスしたいよ。

ごめんなさいライアン様。
僕はペア解消もしたくないし、ライアン様となんの条件がなくてもキスがしたいんです。
深く座るライアン様にキスをするには、何かに捕まらないと緊張や不安でバランスを崩し倒れてしまいそうなのでライアン様の肩に震える手を置いた。
ライアン様は僕の手を振り払うことなく、僕の顔をじっと見続ける。

良いの?僕は本当にキスしちゃうよ?

ゆっくり近づき瞼を閉じ、チュッと触れるだけのキスをして素早く離れた。
恥ずかしくてライアン様の顔を見ることは出来ないが、キスしたのになんの反応もないことに不安で恐る恐るライアン様を見た。
しっかり目が合うも、ライアン様の考えが全く分からなかった。
…やっぱりキスしちゃいけなかったんだ。
どうしよう、今のキス取り消してもらう?
僕はもうライアン様とキスが出来ただけで十分満足です。
キスしたこと謝罪しないと。

「今のはなんだ?」

僕が謝るより先にライアン様が不満を口にした。
やっぱり怒ってるんだ…。
僕がキスしちゃって。

「ご、ごめんなさい。」

「今のはキスか?」

僕がキスしたの認めたくないんだ。
そんなに嫌われてたんだ…。
気付かずにキスしてしまった自分に後悔する。
僕は好きな人に嫌われてたんだ…。
困らせてばかりだから嫌われて当然なのに、僕は何を勘違いしてんだか。
こんな自分大嫌いだ。

「フィンコック。」

名前を呼ばれ後頭部に手を回され、ライアン様との距離が近くなる。
次の瞬間にはライアン様の唇に触れ合っていた。
唇がピッタリとくっ付き、先程より長く触れあう。
驚きつつライアン様から離れようと厚い胸板を押すも離れることはなく、唇を舐められライアン様の舌が口の中に入ってきた。
ライアン様の舌を噛んではいけないと思い、徐々に口が開き舌同士が絡まる。
先程はライアン様の胸を押していたのに、今は確りと掴まっていた。
でないと、ライアン様の上に倒れてしまいそうだった。
僕がしたキスとは全く違うキスに戸惑う。
  
これが本物のキス。

凄すぎる。
息もうまく出来ない。
小説でもそんな風に書かれていたけど、本当に上手に呼吸出来ない。
翻弄されるままライアン様のキスを受け入れた。

「はぁはぁはぁはぁ」

頭を解放され唇が離れると同時に、荒い呼吸を繰り返す。
立っているのもやっとだった。

「これがキスだ、さっきのはキスじゃない。やり直し。」

ぼーっとする頭でライアン様の言葉を理解しようとするも、良くわからない。

やり直し?
何を?
キスのこと?
キスはちゃんとした…よね?

戸惑う僕の腰に腕を回し、膝立ちでライアン様を跨ぐ体勢に。

「ペア解消したいのかよ?」

ライアン様の問いかけに頭を振った。
ヤダ、それだけは絶対にイヤ。

「なら、フィンコックからちゃんとしたキスをしろ。」

僕からのちゃんとしたキス…。
先程のはライアン様からだからダメって事…?
僕から…あのキスをするって事?
ライアン様の口の中に…。
で、出来る気がしない。
戸惑いつつライアン様を伺えば、至近距離過ぎてさらに緊張した。
や、やらないとペア解消…。
キス…。
ライアン様の唇から視線が離れない。
鼻がぶつからないように少し頭を傾け唇を押し当てる。

この後どうしたら良いんだろう?

恐る恐る舌で唇を撫でればライアン様の口が開いた。
僕はライアン様の舌を探すように侵入した。
ライアン様の舌はすぐに見つかり僕の舌と絡まり始めた。
僕がしているのか、ライアン様にされているのか分からなくなる頃には僕はライアン様の上に座り抱きしめられていた。

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」

唇が離れ何も考えられず、ひたすら呼吸を繰り返した。

「フィンコックの気持ちはわかった、これが俺の答えだ。」

「ぇ?」

再び唇を塞がれた。
逃げることを許されないくらい強く抱き締められ、息さえ奪うほどの激しいキスをされた。
気持ちいいのか酸欠なのか僕の意識は遠退いていった。

目覚めると僕はちゃんとベットに居た。
きっとライアン様がベットまで運んで…。

僕、ライアン様とキスしてしまったんだ。

は、は、は、は、始めてのキス。
嬉しい…恥ずかしいっ…けど、それ以上に苦しかった。
小説とかで「ちゃんと鼻で呼吸しろ。」というセリフをよく目にしていたが、身をもって経験した。
うまく呼吸出来なかった…ちゃんとキス出来てたかな?
…ライアン様と次に会った時どんな顔をすればいいのかな?
ぺ、ぺ、ペアはどうなったんだろう…。
継続で良いのかな?
僕は部屋の中をグルグルと歩き回っていた。
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