48 / 74
2章:運送テイマー(仮)
48話:復帰
しおりを挟む……よし、そろそろ体力も回復してきたか。
憑き物と言われる、異形の存在が憑依した地竜との激戦から、はや数日が経過していた。
自分で思っていたよりも、魔力と体力を消費していたようで、ここ数日はフラフラの状態が続き、まともに歩くこともできなかったが、霞たちのおかげで生活に不便はなかった。
ただの日本人である俺が、どうしてこんな目に遭っているかというと……。
宝くじで十億円を当てたあの日、俺は異世界に召喚され、勇者じゃないってことで危険なこの森に棄てられたのが始まりだった。
テイマーというクラスらしい俺は、赤いアラクネのアトラ、水の女神の眷属である大精霊ウンディーネの霞、チャリオットヒポポタマスのベヒーモス、クイーンノーブルビーのエリザベス、鳥人のアル、天災のヴリトラと呼ばれていたアスラ、そして赤い地竜をテイムして従魔にすることができた。
そしてなんやかんやでダークエルフの村へたどり着き、そこで自分の持っていたテイマーのスキルを知り、その内の一つ、魔物を人型に進化させるという呪いのようなスキル、<エヴォリューション・オブ・オールティングス>……別名<万物進化>によって、一部従魔たちは人型へと進化してしまった。
聞けばダークエルフもエルフも、元はあのゴブリンと同じ祖を持つ存在であり、極端な話だと、ゴブリンが進化した姿がダークエルフやエルフらしいのだが……その進化の原因が、<エヴォリューション・オブ・オールティングス>という非常識過ぎるスキルらしい。
長いな……これから<万物進化>で呼んでいこう。
過去にも俺と同じスキルを持つテイマーが存在したようで、そいつはレジェンドテイマーと呼ばれていたようだが、それ以上の情報は残されていないようだ。
ただでさえ異世界に召喚されるという異常事態に、それに輪をかけるように非常識過ぎるスキルを持たされ、俺にテイムされたことで俺に強い忠誠を誓うような従魔たち。
俺はこの非常識から抜け出すため、当選した十億円を手にするためにも、なんとしても元の世界に帰ることを心に誓っているのだが、未だ帰る術は分からない。
そんなこんなでなんやかんやあって今に至る……という訳だ。
「よっ……と」
ベッドから降りて一人で立つ。久しぶりの感覚だ。異世界にきて……十五日目か。
今まではアトラたちに介護されてるような状態だったからな……本当にあのスキル……<モンスターカーニバル>は厄介過ぎる。
なんやかんやのところで憑き物の地竜六体の相手をして、決戦スキルの<モンスターカーニバル>を使うことになったしな……。
こうして生き残ったはいいが、反動がデカ過ぎるのはどうしたもんか。大きい力には相応の代償、か。
それが生きる為の対価というなら、決して高くはないな。むしろ安いと考えるべきか。
「ふぅ……」
「おや、もう起きて大丈夫なのかえ?」
玄関扉を開けてアスラが入ってきた。どうやら採取から帰ってきたみたいだな。背負い籠いっぱいに果物を持って帰ってきているが……。
お城の姫様みたいなアスラが、そんな平民がやるような採取作業していると思うと、なんだか申し訳ない気持ちになってくる。
「オレンジの実をたくさん収穫してきた。今剥くから待っておられよ」
アレはオレンジの実か。形がラフランスのような変わった見た目をしているせいで、なんだったか即座に出てこなかった。
アスラが剥いたオレンジを受け取る。
味は美味い。日本で食べてたオレンジと変わらない味のする果物だ。
甲斐甲斐しく世話をしてくれるアスラには頭が上がらない。
蛇の魔物だったアスラは進化、いや、人間の女性の姿に変化できるようになった。
身長は百七十ほどで、大学生くらいに見える顔立ちをしている。
健康的な肌色で、肩まで伸びた白い髪に、黄色い爬虫類のような瞳が特徴的だ。
端的に行って美女だろう。
そして異彩を放っているのが、その身に着けている白い着物だ。
裏地は赤色になっている紅白みたいな着物だな。似合っていると思う。
蛇から人に進化して、身に着けていたのがその着物なのだが、何故それを着ているのかは分からない。
恐らく変化する際に、俺の記憶の影響が強く出てしまった可能性がある。何故なら似たような着物を漫画で知っているからだ。
本人は気に入ってるようだからいいが、着物姿で動きづらくないのか?
ドラゴンの顔を持つ蛇の姿のほうが気に入っていた俺としては、やや複雑な気持ちだが、そうなったのは俺の持つスキルのせいだ。やっぱ呪いのスキルだな……。
「おぉ主よ、もう体は大丈夫なのか」
「キョータロー♪」
今度はウンディーネの霞と、アラクネのアトラが帰ってきたか。
霞はウンディーネという水を司る大精霊で、元から人型の姿で俺たちの前に現れた。
水の女神の眷属らしいのだが、気まぐれでテイムミートを食べて俺の従魔となった変り者だ。
ヴリトラだったアスラは変化したようだが、上位種、大精霊、水の女神の眷属という括りだからか、ウンディーネの霞は変化や進化はしないのか?
まぁ進化するにしても、一体何に進化するのか見当もつかないがな。
「なんだ主、そんなに私の体を見て。欲情でもしたのか?」
「むっ」
霞は冗談交じりに話しているが、横でアトラが不満そうに睨み、もの凄い勢いでアスラが振り向いてきたのが目の端に映った。気づかないフリだ。
「……いや、先に出会ったアスラは進化してるのに対して、霞が進化していないのが気になってな」
「既にこの姿が完成されたものだからな。これがエレメントならそこからの進化もあるだろうが……ん、美味いな」
「こら霞っ!、それは京太郎の物だ!」
「そう堅いことを言うな、アスラ――お?」
「勝手にキョータローの物を食べるなんておしおきよぉ!」
アトラが霞を簀巻きにして外に放り出した。
アトラは最初は拳サイズのシャドウスパイダーだったが、今ではアラクネの美少女に進化してしまった
一番最初に出会って従魔にしただけあって、思い入れは一番大きい従魔だ。
……アトラもそうなのだろうか。俺に対するあたりがヤケに強い気がする。
「勝手に人の物を食べるからそうなるのじゃ」
そう言いながらアスラは新しくオレンジを剥いてくれている。
こう言っているアスラも以前に霞同様簀巻きにされて外に放り出されていたんだがな……。
それに対して抗議も怒ることもしていない二人を見るに、多分従魔たちの中で、アトラが一番上の存在なんだろう。
格としては霞やアスラのほうが上に見えるが、先に俺にテイムされていたということで、二人はアトラに敬意を持って接している。
「はい、あーん♪」
アスラが剥いたオレンジを、アトラが木の串に刺して口元に運んでくる。
この行為はアトラの好意があるだけに断りづらい。
「……ん」
不承不承ながら口の中にオレンジを入れる。
「ふふっ」
アトラはご満悦のようだ。
アトラも格上の二人に気後れせず、霞もそれを気にせず、雰囲気は良い感じだ。
簀巻きにされて放り出された霞も、アトラやアスラが言葉を話せるようになったことで、進化前のときよりも楽しそうに話しているように見える。それだけでも人化したメリットはあったかもしれないな。
俺が元の世界に帰るためにはアトラたち仲間たちの力は必須だ。
俺はあいつらを戦わせ、あいつらも俺のために戦ってくれている。
そんな仲間たちが十二分に力を発揮できるよう、俺もあいつらに尽くしていかないとな。
しかしアトラとアスラ……馴染みのないやつが聞いても間違えそうなくらい似てるよな。
いっそのこと、アト子とアス美にするか?
……いや、とりあえず保留だな。
0
お気に入りに追加
1,061
あなたにおすすめの小説
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
異世界召喚された俺はスローライフを送りたい
キリ爺
ファンタジー
ある日、異世界召喚に巻きこれてしまった社畜サラリーマン。
これは巻き込まれチートなパターンか!?早速俺はステータスを確認してみると「何これ!?ステータスもスキルもモブキャラ以下じゃん…」
しかしある出来事によりある日突然…
これは社畜だったおっさんが段々チート化していきながらまったりしたり、仲間達とワイワイしながら楽しく異世界ライフをエンジョイする物語。
この作品は素人の処女作ですので誤字や辻褄が合わない所もあると思いますが気軽に読んでくれると嬉しいです。
誤字の指摘はどの話で間違ったかも教えて頂けると大変助かりますm(_ _)m
リアルの方が忙しくなってきたのでしばらく不定期更新になります。
幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~
月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。
「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。
そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。
『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。
その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。
スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。
※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。)
※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。
転生貴族の異世界無双生活
guju
ファンタジー
神の手違いで死んでしまったと、突如知らされる主人公。
彼は、神から貰った力で生きていくものの、そうそう幸せは続かない。
その世界でできる色々な出来事が、主人公をどう変えて行くのか!
ハーレム弱めです。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
ゆとりある生活を異世界で
コロ
ファンタジー
とある世界の皇国
公爵家の長男坊は
少しばかりの異能を持っていて、それを不思議に思いながらも健やかに成長していた…
それなりに頑張って生きていた俺は48歳
なかなか楽しい人生だと満喫していたら
交通事故でアッサリ逝ってもた…orz
そんな俺を何気に興味を持って見ていた神様の一柱が
『楽しませてくれた礼をあげるよ』
とボーナスとして異世界でもう一つの人生を歩ませてくれる事に…
それもチートまでくれて♪
ありがたやありがたや
チート?強力なのがあります→使うとは言ってない
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
身体の状態(主に目)と相談しながら書くので遅筆になると思います
宜しくお付き合い下さい
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
チート転生~チートって本当にあるものですね~
水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!!
そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。
亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる