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1章 棄てられたテイマー
34話:終わらぬ弱者の葛藤、ジェニスの決意
しおりを挟むダークエルフたちと仲間たちが仲良くやっている景色が見られて、俺は満足だ。
アトラやアルは手触りが好評で女性に人気で、エリザベスは見たことがない魔物ということで興味を引き、ベヒーモスもその体の大きさから一部の力自慢と押し比べをしていたり、とぐろを巻いているアスラは、背中にダークエルフの子供たちを乗せて人気アトラクションみたいだな。
霞は相変わらず崇められて、次から次へと食べ物が運ばれてくる。
俺の分はジェニスが作った料理が運ばれ、満足のいく味だ。
……だからこそ、今の俺の胸中は穏やかじゃない。
ただ運よく強い魔物を仲間にできただけの、本来そんな実力を持たない俺がここまでもてはやされるのは、やっぱりキツイ。
みんなを騙しているような、そんな罪悪感で押し潰されそうだ。
……そうか、今までなんとなく思っていたが、こう考えてしまう明確な理由は、得た力と心のバランスが釣り合っていないんだな。
小さな心の上にデカすぎる力が乗れば押しつぶされる。
逆なら心が強すぎて慢心して傲慢になってしまうだろうな。
やはり心と力のバランスは大事だ。
「ふぅ……」
何故自分がここまで思い悩んでしまうのか、その理由が具現化したおかげで、少しだけ肩の荷が降りた気がした
「キョータロー殿、どうかされたか?」
「いえ、こんな宴を俺たちのために開いてもらって、幸せすぎると思いましてね」
「そうか、満足してくれているようでなによりだ」
族長のその優しい表情が更に俺を締め付ける。俺の心が弱いからだ。
デカすぎる力と小さな心の天秤を均等にしなければいけない。
その為にも、本当の俺の実力だと誇れるよう、早急に相応の実力と自信を身につけないと、この苦しみからはいつまで経っても逃れられなさそうだ。
▽ ▽ ▽
そろそろ宴も終わりかと思ったら、ジェニスが大荷物を抱えて戻ってきた……。
「大将! 今日からオレも大将と一緒に住むぜ!」
「…………は?」
ジェニスはいきなり何を言い出してるんだ? 周囲が一瞬にして静まり返ったぞ……。
「ちょっとジェニス……本気なの?」
困惑しているベルカがジェニスに真意を確認した。族長含め全員が困惑顔だ。
「ああ! 異世界の料理とか気になるしな! それに助けてもらったお礼もまだしてないだろ?」
「お礼って……何するつもりよ?」
ベルカが顔を真っ赤にしているが……いや、想像していることじゃないと思うが。
「何って、飯を作るんだよ。それ以外に何があるんだ?」
「そ、そうよね……」
ジェニスの答えにその場にいる全員がほっとしていた。誰かが「いや、アリか……?」と言っていた気がしたが気のせいだろう。
「料理を作って礼をして、異世界の料理を教えてもらう。一石二鳥だろ?」
「ジェニスがそういうなら私はもう止めないけど……」
そう言いながらベルカは族長の顔色を窺っている。どこかに住むのに族長の許可がいるのか? 両親ならともかく、ダークエルフにはそういう風習でもあるんだろうか。
「……何故儂の顔を見る。礼を返しながら技術を学ぶ、良いではないか」
族長は好意的な感じだが、その表情から別の狙いがあるようにも思える。
あわよくば既成事実を作って、俺とダークエルフたちとの深い繋がりを作ろうと考えてるのか?
もしかしたらさっきの聞こえた気がした言葉も、そういう意味だったのかもしれないな。
残念だがそれは叶わない願いだな。俺は元の世界に戻る。だからこの世界にそういったモノを残すつもりはない。
アトラたちですら俺を悩ませる要因なのに、子供なんかできたら帰れなくなりそうだぜ。
「ジェ、ジェニス……これっ、そこの家に運べばいいんだよね……?」
「ああ頼むぜ」
ダークエルフ二人がかりで木製のベッドを運んできたが、それをあの家に入れるのか。
スペースはなくもないが、少し狭くなりそうだな。二段ベッドとかできれば空間の節約ができそうだが、技術的に難しいか?
にしても、運んできた片方のダークエルフ、なんだか弱々しい雰囲気だったな。
恰好から男だとは分かるんだが、気が弱いというか、ダークエルフのイメージとはかけ離れているようなやつだったな。また一つ、価値観の更新だな。
「てことで大将! 今日からよろしく頼むぜ!」
「はぁ……わかった。こちらこそよろしく頼むぞ」
ここまできてダメだとも言いづらい。万が一の事態は起こらないだろうが、女と同棲するというのは初めてだ。
何か想定外のハプニングやアクシデントは起こるかもしれない。ジェニスは女だが、男勝りな部分はあるがれっきとした女性だ。そういう部分はしっかり配慮してやらないとだな。
「……族長、魔物の肉を食料として納める代わりに、こういう物を作ってもらいんですが、可能ですか?」
族長に生活で必要になるであろうアレを、地面に描いて説明して製作依頼を出す。
族長自身が作れるとは思っていないので、ダークエルフの家を作った面々に依頼してもらう形だ。報酬として、魔物の肉を収める物々交換でギブアンドテイクを図る。
「どれ……ほぉう……なるほど。分かった。後日職人を向かわせよう」
「感謝します」
「報酬の量はキョータロー殿に任せるので、好きなときに持ってくるといい」
「……分かりました」
報酬のすり合わせがあると思ったが、俺のお気持ち次第にされてしまったか。
少なすぎては勿論論外、なるべく多く持っていくのが無難だろうな。
早めに用意もしておこう。遅すぎるといい加減な奴だと思われてしまうかもしれないしな。
魔物の肉の調達はアルやエリザベスたちに任せれば問題ない。
あとはアトラに解体させて、軽く下処理すればいい。
その間、俺は俺自身を鍛えねばなるまい。
ま、どうするかは明日のスキルチェック次第になるかもしれないがな。
▽ ▽ ▽
宴も終わり族長たちも帰って静まり返った夜。
族長に教えてもらった方法で灯りをつけてみたが、少し感動してしまった。
その方法とは、陶器の小皿に植物油を入れて、捻じった綿紐をその植物油に浸し、小皿から露出させている部分を燃やして灯りを得るという方法だ。
時代劇とかでよく見かけた方法だったが、こうして自分で実際にやってみると、ちょっとした感動を覚える。
灯りに感動するのもいいが、火事には十分気をつけて取り扱おう。
あ、学校の理科の実験で使ったアルコールランプとかこんな感じだったか?
などと現実逃避している場合ではない。
「……まぁ、そうだよなぁ」
俺のベッドの隣にジェニスのベッドがあった。
「すぅー……すぅー……」
そしてそのベッドでジェニスが寝ている。だいぶ気持ちよさそうに寝てるな……。
ベッドを隣接させられると俺のベッドに行きにくいんだが、今夜はこのまま寝かせておくか……。
「手を出さないのか?」
霞が耳元で囁いてきやがった。
「だしてたまるか……もう寝るぞ」
俺が自分のベッドに登ると、霞が親指と人差し指で火を摘まみ、何事もないように消火した。
「ああ、おやすみだ、主」
こうして俺はまともな寝床を手に入れて、この世界で初めて文明的な睡眠を手に入れた。
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