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1章 棄てられたテイマー
28話:ダークエルフ族族長たちとの謁見
しおりを挟む「はぁーー……やっと村が見えてきたな……」
結界を通り過ぎてから一時間くらい経ったか……?
遠すぎだろ……いや、結界を突破されてから備える場合、このくらい距離があったほうがいいのか?
そりゃジェニスもこの距離を全力で走れば疲れもするか。
しかし従魔ですら結界を通ることができないということは、テイマーはかなり不遇された存在なんじゃないか?
魔物の入れない場所じゃあテイマーは何もできない。その入れない場所を抜けた先で敵と遭遇してしまえば、戦えないテイマーは足手まといにしかならないだろうな。
もし強力な魔物をテイムしても、結界のせいで連れていけないのなら意味がない。
城や街の外、結界外での防衛なら役に立ちそうだが、それでも自分の武器である魔物を街中に入れられないのは面倒過ぎる。
次の街に行くにしても、また入ってきた入口に戻って遠回りするしかなくなる。
やはり面倒なクラスだ。そういう面でもパーティーでは採用されにくそうだな。
「ん? どうした大将?」
「……なんでもない。このまま族長さんのところまで案内してくれるか?」
「わかった、こっちだぜ」
言われるがままついていって村の中に入ったが……視線が凄いな。
霞は物珍しさでキョロキョロしてるしな、目立つ。その目立つ霞をダークエルフたちが見ている。
崇めているウンディーネが村にやってきたら、見るなというのが無理な話だ。
だが崇めているのは霞ではなく、あっちのツインテウンディーネだろうし、それもあってなのか、話しかけてくるようなダークエルフはいない。
同じウンディーネとはいえ、違う個体を崇めてしまったら、元からいた個体の怒りを買ってしまうかもしれない、そんな恐れがあるのかもしれないな。
まぁあのツインテウンディーネは、面倒見が良さそうな感じだったし、そんなことじゃ……最初は怒るかもしれないが、すぐに許してくれるんじゃないか?
「大将、ここだぜ」
「ああ……」
村の中央に一際大きな建物が建っていると思ったが、ここがそうか。
どの家も木造建築で、セメントやモルタルが使われたような場所はない。ログハウスとは違うが、木を綺麗に加工して造られた家ばかりだな。
畑もあるし、採取だけはなく農業もしているのか。
動物の姿が見えないが、畜産はしていなさそうだ。狩りで魔物の肉を得ているなら、畜産する必要はないか? 安全を考えれば畜産という手段もアリだとは思うが、宗教的な理由があるのかもしれないな。
見渡した限り、あまり広い村ではないように見える。
木の上にも家が建てられていたりするし、ああやって住む場所を確保してるんだろうな。
それにもし結界を破壊されて侵入されても、木の上に家があれば被害も少なく済むってところか。
「大将? 入らないのか?」
「……ちょっと緊張してな」
「大丈夫だぜ大将、族長はそんな怖くねーから」
ジェニスがバンバンと背中を叩いてくるが、鼓舞してくれてるのか?
ま、いつまでもここで突っ立てる訳にもいくまいて。いざゆかん。
▽ ▽ ▽
家の中には土足で入り、部屋に案内され、敷物の上に座るようベルカに教えられた。
流石に土足で歩いた床に、そのまま座ることはないか。
部屋は……縦に細長いな。正面には三段ほど段を上がったところに、偉そうな装飾が施された特別な場所が見える。まぁ普通に考えて族長の座る場所だろう。
で、俺の座っている一番下の段には、俺の両端にズラリとダークエルフたちが座っているんだが……なんなんだこれ。
二段目にも偉そうな格好をしたダークエルフが二人いるが、族長の側近か……?
あっ、もしや結界を破壊したことによる裁判でも行われるのか?!
隣にあぐらかいて座ってる霞は笑顔で楽しそうだが……何かあったら助けてもらうしかないか。
お、最上段の端からダークエルフが出てきた。いかにも偉そうな民族風衣装を着ているが、あれが族長か。失礼のないよう、言葉には気をつけよう。
「お主が異世界からの来訪者、キョータロー・ウンガ殿か」
殿……呼び捨てではないところを見ると、俺の扱いはそれなりに考えられているようだが……ジェニスたちは何をどこまで話したんだ?
「……はい。この度は滞在を許して頂き、大変感謝しています」
「うむ。何かあればベルカたちを頼ってくれ。儂はジェレア=イル=ライラ。この村の長である」
「はい。しかし既にお気づきかと思われますが、私は従魔によって一度この結界を破壊してしまいました。まずは先にそちらを謝罪させていただきます。申し訳ありませんでした」
言われるよりも先に先手必勝で謝る。下手に突っ込まれると面倒だしな、悪いのは俺だ。素直に謝る。
初手に相手が触れていないのが気になるが、俺を試しているのかもしれない。ここは頭を下げて謝っておくという判断は間違っていないはずだ。
もし結界の件に触れなければ、重要な物を破壊してもなんとも思わない人間として見られてしまうかもしれない。
「……そうか。だが既にウンディーネ様が再度結界を張り直しておられると聞く。聞けば上位種すら寄せ付けない結界だと言うではないか。これは怪我の功名だな。どうか気にせず頭を上げてもらいたい」
「……はい」
怪我の功名って言い回しがあるのか。いや、そう聞こえるように翻訳されているのか?
この世界の言語がどうなっているのかも興味深いが、今はそんなことを考えている場合ではない。
結界の件はなんとか許しを得られた。これで気にすることはなくなったか? であれば次だ。
「それ故にですが、、村の中に従魔を連れ込めないので、結界の外で滞在させて頂きたく思います。必要な物ができた際、村の中を利用させていただければ助かります」
「うむ、構わぬ。そしてキョータロー殿、この度は我が娘シーリアと他二名の同族を助けて頂いたことを、感謝申し上げる」
アッサリ許可されたと思いきや、族長が頭を下げたか……てかシーリアは族長の娘だったんだな。あまり会話もしていなかったし、印象の薄い女だったが。
「いえ、当然のことをしたまでです」
ここでたまたまとか偶然と言うのは避けておくべきか。
変に謙遜するよりかは、嘘じゃなければプラス方向に話を持っていく。
「そうか……礼については後程決めさせてもらうとして……してキョータロー殿は、その隣にいらっしゃるとウンディーネ様や、あの天災のヴリトラを従魔にしたと聞いているが、それは事実だろうか?」
「はい。この隣にいるウンディーネには霞という名を与え、ヴリトラは霞が戦い、従魔とすることができました」
「「「おぉ」」」
それまで静かだった両端にいるダークエルフたちが、一斉に驚きの声をあげているが……やっぱりこの村の戦力として、使わざるを得ないか……?
霞はあぐらかいて腕組んでドヤってるし――あっ。
個体は違えど、崇めている眷属を従魔にしてしまった俺は、ダークエルフたちからどう見えてるんだ……?
不敬者とか愚か者とか――っていう感じではなさそうだな……。
憧れや畏怖、そういったような視線を感じる気がする。
「……事実であったか。ウンディーネ様、何もない村ではありますが、ごゆるりとお過ごしください」
「ああ、ここは良い村だな。楽しませてもらうぞ」
――と言った感じで、族長との謁見は終わった。
一応異世界に戻る帰還の方法を聞きはしたが、それについて知る者は誰もいなかった。
終始好意的な態度で対応されたようだが、それを素直にそのまま受け取れるほどお人よしではない。
明らかに俺に対して敵意をむき出しているダークエルフも数名いた。
理由は分からないが、タダごとじゃないだろうな。俺はあまり村に入らないほうがいいかもしれない。
それじゃあ何のために滞在の許可を貰ったのか分からないが、近くに誰かいるとわかっているだけでも、十分気は楽になるもんだ。
あとは二段目のあの二人。何も喋らずじっと俺のことを見ていたが、俺を見定めようとしていたのか?
片方は難しそうな顔を、もう片方はニヤけた顔が不気味だったが……何も悪いことが起こらないよう祈っておこう。
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