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ちゃんと出発しただろうか。


これは所謂僕の覚書だ。

あの、森の あの、家を忘れない様にする為の。

だが道標を書こうにも記憶も「白い」くらいのものだし、かと言って描いてみようかと思ってもやはり「白い」しか思い付かない。

何しろ、「白かった」のだ。

まず、家を出てから何をしたのかを書いておく。
もしかしたらそこにヒントがあるかも知れないから。
次は、次こそは間違えずに辿り着くんだ。

僕の   の甘みを啜る為に。







まず薄手の青灰のコートを選ぶ。

滅茶苦茶寒いけど我慢だ。
あの時は死んだと思った。
その位じゃないと、きっと現れないに違い無いのだ。

せめてもの情けに飴玉を一つポケットに忍ばせる。これを見つけた時の喜び。
やはり僕は死にたくなかったのだと気が付いた時には、もう死にそうだったけどな。

でもきっとそんなものなのだろう。

やはり死ぬ間際は恐ろしいのだ。
どの位恐ろしいのか書くと二、三枚使いそうだから止めておく。

魔力はそう、保たない。

次もきちんと辿り着けるかは、運次第だ。



服装はいつも通りでいい。
白シャツにパンツ、黒がいい。雪の中で目立つ。
一応帽子と手袋、あとは手ぶらだ。

3:40に家を出る。
鍵はかける。
何となくだ。

そうして真っ直ぐ、森へ向かう。

途中、急ぐと散歩の人に会うからゆっくり行く。

足跡は判りにくく、少し足をツイストしながら歩け。






そうして森の入り口に着く頃にはすっかり冷え切っている筈だ。

少しずつ、夜が忍び寄る冬の森。

まだ、辛うじて明るいがすぐに夜になる。
しかし雪が降っているので、夜目が効く筈だ。

森の入り口には冬の精霊、道中は雪の結晶虫達が纏わりついて来るが無視して進む。
結晶虫が口の中に入らない様、気を付ける。


そうしてここが問題だが、何も考えずに進め。

どっちに行こう、とか考えてはいけない。

考えたらそっちに引っ張られるからな。


「あそこ」は何処でも無い、場所。


目的があれば、辿り着けない場所。

「何も考えない」程難しい事はないが、それが出来たならばきっと、見つかる筈だ。
見えてくる筈なんだ。


そうして「雪を感じて」待て。


きっと、死ぬ前迄には来てくれるだろう。

僕の、夢でなければ。

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