透明の「扉」を開けて

美黎

文字の大きさ
上 下
1,208 / 1,751
8の扉 デヴァイ 再々

記録と記憶

しおりを挟む

「てか、「含まれてる」って ことは。そのうち、全部なって、消えた事も「知れる」という事だろうか。」

「まあ、そうかも知れんな。」

「そうだね?」

「 ふむ?」

いきなり、朝食中 パンを頬張りながら。

私が漏らした 独り言に普通に返してくる、この二人は流石だと思う。


そっと押されたカップを受け取りながらも、隣のテーブルから聞こえてくる 本部長の話が興味深い。
 
 いつの間にか 自然と馴染んでいる 
 極彩色の狐と。
なにやら、この頃のデヴァイについて 私の知らない話をしている様なので ある。


「悪知恵の働く奴は、勘も鋭いからな。「何が」、不味いのか知っちゃいないだろうが心当たりのある事は全部消したいんだろうよ。何しろ消息不明な者が、多い。」

「ここに来て、か?前からだろう、それは。」

「ああ、だがあからさまだ。連中もなりふり構っていられないんだろう。」

「しかし、それじゃ余計に、なぁ。」
「まぁな。だがそこまで見えぬが、その生き方。だからこそ、だな。」

いつの間にか真ん中に鎮座している玉虫色からも、物騒な話が繰り出されて いる。

 その
 男三人が 真剣に顔を突き合わせているのを
 眺めながら。

「いや 一人と二匹?か?」そんな事を思いながらも、正面の薄茶の瞳に視点を戻した。

いつでもキラキラと私を迎えてくれる、その色は
この「世界の話」を払拭するには丁度いい清涼剤だからで ある。


「やはり、成長しているね?気になるだろうが、こちらは大丈夫だ。」

「 はい。なんか、うん。そうですよね。」

首を突っ込んでいかない、私を見て。

そう感じてくれた事に、有り難みを感じながらも今し方感じた疑問をそのまま 口に出す。

「でも、イストリアさんはどう思います?私達はきっと、「忘れている」って 思ってても。きっとその中に「記憶」?というか、「情報」は刻まれてて 多分、自分が物凄くクリアになれば 何をも見透せる様に なれば。それって、「何をしてきたか ぜんぶ」、バレちゃいますよね????」

「まあ、そうだろうね。」

苦い色で笑いながらも、頷いてくれるその顔を じっと見る。

 なんだか その 笑顔が。

少しだけ「気まずそう」に見えて、この人に何ら「不穏な色」を感じていない自分のハートが首を傾げていたからだ。


「なに、どんな人間でも。後悔や、失敗の記憶はあるものさ。私だって向こうにいる間、見て見ぬふりをしてきた事は五万と、ある。だからね、少しだけ思い出してしまうんだがそれ以外にもあると思うと、なぁ。」

「 ふむ。」

「私は君の様に、「今より前の生」は分からないけど。ここの歴史から見ても、人間とはそう大した事はしていないだろうし、なんなら何故ここまで変わらなかったのか。見るのが怖いよ。フフ」

「まあ。 そうかも知れないですね。 でも、それはみんな同じだしなぁ。」

「それもあるけれど。だがしかし、未だ変わらず「神の一族」を守ろうとする、長老達を見ているとね。なんだかやり切れない思いになる事も、ある。」

「 成る程。 」

 確かに。

すっかり失念していたけれど、最初はそんな話だったんだ。

確か

 「自分達以外は 人以下である」と。

そんな「神の一族デヴァイ」に憤っていた事が思い出されて、なんだか懐かしく感じる自分が少し 面白い。


「 ふむ? 「血が濃い」か 。」

ふと 思い出した「寿命」のこと
それがなんだか、自分が今 気になっている「ひかり」と「からだ」に関係がある気がして
くるくると回り始めたカケラを遊ばせながら。

再び 向かいにある薄茶の瞳をチラリと眺める。

「それもね、女達が変わってきたから。少しずつ、良くはなると思うが。しかし、逆に結婚以外の選択肢が出てくる事でやはり子供は少なくなるのだろうね。いや、しかし他の扉という選択肢が?うん、どうだろうな。」

そう言えばイストリア自身がラピスで子供を産んでいるのだ。

 確かに 選択肢として。

 私的には 「アリ寄りのアリ」だけど

  その「差別」?的なところは どうなんだろう か

  その辺男女差は ありそうだけど な ??


クスクスと、笑い声が聞こえてきて。

テーブルの木目を見て唸っていた顔を上げると、私の欲しい答えが降ってくる。

「そう、確かに女達の方が外に対して積極的では、あるんだ。「デヴァイの男は見飽きた」なんて言っている子もいるとか。フフ、それでだけど。」

「えっ」

 なんだか、俄かに いい色な予感が する。


「何れ耳に入るだろうから、言っておくけれど。リュディアはシェランと結婚するよ。アリスが許可を出した様だから、本決まりだろう。どちらに、いや、何処に?住むのかは決まっていないらしいが、今はまだ準備中だろうね。」

「 グッ ゴホッ  」

「大丈夫かい?いや、口に物が入っていない時なら大丈夫かと 」

「いやいやいや、大丈夫ですよ、全然。てか 全く気付かなかった というか?最近 黒の廊下パトロールしてなかったから???あぁ~
ラピスとグロッシュラー寄りになってたからなぁ~   ぁ~ 」

「まあ、落ち着いて。なにしろしかし、君は「公には」結婚式に出られないだろう?何処か別の場所で御披露目でもしようかって、ベオグラードが言ってたとか、なんとか。」

「えっ  あっ 、はい、ベオ様が?ふむ?それなら私が直接行っても差し支えないか?? いや、どうだろうか。」

「ハハッ、まあ、焦らなくていいよ。なにしろ久しぶりの明るい話題だ。長老達にとっては、どうか知らないが若い子達は浮き足立ってる。………しかし式は向こうグロッシュラーにはなるかな…だがみんな、移動の申請が忙しそうだ。」

「 ぇ え~  」

 なにそれ

 楽しそうな予感しか しない。


「兎に角。君は、あまり勝手にウロウロしないこと。見られない様にするのは、得意だと思うけれど。君がまたこちらを闊歩すると、空気が変化する可能性が高い。なにしろは、禁物だからね。」

「言っても無駄かも知れんが。」
「そうだろうな。」

間髪入れずに 飛んできた相槌の所為で。

 極彩色が こちらにいる理由が
 わかってしまった。


「 ぇぇぇ~~~」

「なんだ。気に入らないのか。」

 いや
   そうじゃない けど

   わかって るんでしょ

  その 目は。


チラリと確認した 紫色の瞳は。

相変わらず極上に美しいけれど、その美しさが得意気に見えて
なんだか自分の行動範囲が狭められた様な。

そんな気がして プイとそっぽを向いた。


 でも。 あの子が いる所為で。

 「私の範囲が狭まる」それは あり得ないことも
 知っているけれど 。



「解ってるなら、いいんだ。解っているなら、な。」

「 フン、だ。」

しかし、きっと「見られる」事に変わりはない。

「ぇえ~。でも。結婚式かぁ。久しぶり!なんか、エローラの結婚式 思い出しちゃうなぁ  。」

「程々に………いや、言っても無駄か。」

「あの時は結局、どうしようもなかったからな。」

「しかしラピスより、こっちだとジジイどもが五月蝿いだろう。」
「まあ今はアリスやブラッドフォードもいるが 」
「そんなもので止められるか??」
「どうだかな。」


なんだか 向こう側で
不穏な会話が繰り広げられて いるけれど。

「ま、私には 関係ないっちゃ、ないな。うん。」

「彼にも、言っておくからね?まあ、もう知っているかも知れないが。」

「   ? あ。 確かにそれは ありますね?」

いきなり、「ポン」と湧き出てきた金色に
頬をピタピタとしながらも頷いておく。

 この頃 居たり 居なかったりが
 曖昧な金色は
  「夢の中で会ってるのか」「現実なのか」
 私の中でも 区別するのが 怪しいのだ。

しかし 
自分の「中に残る 金色」から。

 彼が 色々な世界を見て回っているのは
 わかるのだけど 。


「  うむ。 ゴホッ、えぇと。」

「フフ。仲が良さそうで何より。」

「 うっ はい。 」

そうして 細まる薄茶の瞳に見守られながらも。

 私はひたすら 両頬をピタピタ
 していたので ある。










しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜

まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。 ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。 父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。 それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。 両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。 そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。 そんなお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。 ☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。 ☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。 楽しんでいただけると幸いです。

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

病弱な愛人の世話をしろと夫が言ってきたので逃げます

音爽(ネソウ)
恋愛
子が成せないまま結婚して5年後が過ぎた。 二人だけの人生でも良いと思い始めていた頃、夫が愛人を連れて帰ってきた……

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

処理中です...