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8の扉 デヴァイ 再々
思ってたんと 違う
しおりを挟む「そう、そうなのよ。だから、私の考えなんて。ちっぽけで、簡単な思い込みだったって。気付いたのよね、そこで。」
「やっぱシャルムは凄いな。」
「えっ、そんな所あった?」
「エローラ、それは酷いよ。 フフ、まあ最初は全然 気にしてなかったもんね?なんかね、穏やかだけど、解ってるよ シャルムは。なんて言っていいのか、わかんないけど。だから、エローラを好きになったと思うし。」
「えっ。あっ、そうね?」
珍しく照れた顔の 優しい灰色の瞳を見ながら、ついニヤニヤしてしまう自分の顔を ヒョイと戻す。
今日は とても久しぶりに。
ラピスの街へ降り、エローラの店を訪ねて いる。
この間「何をも受け入れる」「想定外など無い」、そのカケラが降って来てから。
「それもそうかも?」と 思い
自分の中で少しだけ引っ掛かりがあった「世界への訪問」をやってみようと思った次第だ。
が しかし。
訪問する場所が エローラの店だと。
「世界」か どうか
それは怪しいところでも あるけれど。
「確かに自分でも「何に引っ掛かってたんだろう」「大した事なかった」って。思う事って あるよね。うん。」
これは自分に対して言っている事でもあるが、今のエローラの話題に関しても そう言える事である。
「そうなのよね。私の場合なんか、原因がそもそも分からないし。小さい頃から、あの店の素材は良くないって、なんだか思い込んでたんだけど。」
「うーん、でも その直感自体は間違いなかったと思うよ?子供ってその辺鋭いし、何か「そう思う原因」がないと そうは思わない訳じゃん。きっかけ?って言うのかな。でも、それがいつの間にか変化してて 改善されてたのかも。」
「ああ、それはあるわね。」
「まあ、だから結局。やってみなきゃわからないって ことだ。」
「まあね。…………ヨルは、特にそうかもね。」
「え? そう??」
「そうよ。あの時さ、シン先生と気焔の事で悩んでた時だってさ…………」
「ちょ、止めて! なんか、懐かしいけど 。」
おかしい のか
恥ずかしい のか
笑いながらエローラの口を塞いで、お皿の上のクッキーを放り込む。
「ん~、ムグ、えっとね。」
「フフフ なに?」
「私達は、合わせるし、合わせられるし、変化するものだけど、決まってる人はそれはそれでいいのよ。ほら、相手好みの服に合わせる子もいるじゃない?」
「ああ、そうだね?」
「でもヨルはそうじゃ、ない。それはそれで、いいけど答えは一つしかないから。うーん、だからそれを見つけられる人はそうなってる、のかな?何言ってるのか分からなくなってきたわ。」
「いや、言ってる事は わかる。」
きっと、エローラの言いたい事は
「私には決まっている相手が いた」という事だけれど
「まだ 選びたい人もいる」
そういう事だろう。
ゆっくりと頷きながら、ティーカップを手に取り
少し冷めたお茶を流して 喉を潤して。
なんだか まったりとした
この店の空気を緩りと味わいながら
お替わりを淹れようとしているエローラの前に
ズズイとカップを 押す。
「でもさ、それに。それって、人に対しても言えるけど。素材に関しても同じじゃない?その方が、分かり易いかも。」
「あー!確かにそれは。 そうだね?」
それは確かにそうだ。
「素材」 その自分の得意になると
分かり易い。
どの 場面で どの素材を選ぶのか
何に使う為に 何色を選んで
どれに効くのか 映えるのか
何に合うのか。
確かに 私達は日々「選んで」「合うものを使って」いるんだ。
「 ふむ。」
「だからその、石の話もそうだけど。なに、その「粒子」?ヨルの場合は見ている場所がそこで、なにか形とか見た目じゃ、なくて。その、「粒子のコーディネート」をしてるって事でしょう?」
「上手いこと言うね、流石 エローラさま。」
「なにそれ。止めてよ。でも、確かに思うんだけど。」
「うん、なに?」
「ほら、沢山お客様が来るじゃない?その中でも、「自分の似合うものを知っている人」と「わかってない人」が、来るわけ。だから、私としては自分が思う「その人が一番魅力的に見える服」を選ぶんだけど、それを勧めて「いい」って買ってくれる人もいれば、「私には似合わない」って。止める人も、勿論いる。どちらが良いとか、そんな話じゃないんだけど。………なんか、言いたい事解るよね?」
「 あ~。うん。 わかる。」
確かに。
エローラによると、以前比べて格段とラピスも変わってきているらしい。
だが しかし。
「変わっている人」「変わっていない人」「変わりたくない人」、それはやはり様々で
色んな場所でそれは 起こって いて。
「 ふぅむ。だがしかし。なにしろ、エローラがいてくれてラピスは良かったって事だよ。」
「えっ。なぁに、それは。」
少し照れた様子で そう聞き返す灰色の瞳は
いつでも私を受け入れてくれる、「相手をわかろうとする いろ」だ。
「いや。なんか。初めから、エローラはそうだったけど。 ちゃんと、その人のありのままを、見れるんだよ。ほら、年が幾つだからとか、髪の色がどうだとか、なんか 見た目とか関係なしに、多分きっと 「エローラ探知機」みたいなので、見てるの。多分エローラの場合は服に偏ってるんだと思うんだけど、あ、因みに私は満遍なく偏ってるから。 ああ、それはいいとして。 うむ。」
「なんかね、それで ちゃんとその人の本質に合ったものを、勧めてるんだよ。でも、その人の思い込みが強かったり、自分のことを客観的に見れてないと。 それは、分からないから無難に なる。そういう事だわね?」
「そうかも知れないわね?」
二人で、首を傾げながら。
相槌を打って クスリと笑う。
「なんか、ヨルにそう解説してもらうと。「そうだな」、って感じがするわ。確かに私も「絶対こっちのが似合うのに」とは、思うけど、それはそれで「今は着れないだけ」なのよね。いつ、変わるのかはその人の自由だし。」
「そうそう。こっちから開けようとしても。開かないしね。」
「あー、そう言えばグロッシュラーでヨルが開けた?扉の話?聞いたわ。それと同じよね。「可能性の扉」だっけ?」
「え あ うん、そうだね? なんか、懐かしいな 。」
「早いわよね………。そう思えば。」
「うん。 」
あ そうか 。
こっちとは。
時間の流れが 少し 違ったんだ
そう 言えば。
くるくると変わる、大人びた表情を眺めながら
初めの頃のエローラを思い
しかし変わっていない瞳の色に クスリと微笑むと
矢印の矛先が私の方に 来た。
「まあ。ヨルも。大人に、なったわよね。フッ。」
えっ
なに その「フッ」って 。
「見た目だけは、完璧な女の子なんだけどねぇ。これでラピス生まれだったら………でも、つまらないわね、それじゃ。やっぱりヨルは、ヨルじゃなきゃ。」
「うん ??」
「まあ、ほら。「女の子だから」って、あるじゃない、どうしても。うちはおばあちゃんがああだから、私も好き勝手にやらせて貰ってるけど、やっぱりそうじゃないもの。まだ、大抵の家はね。もう少し、時間はかかるわ。」
「 うん。そうだね。」
その エローラの瞳に。
なんとも言えない、色を見て しかし
それが「暗くない」ことも同時に見て取った私の中身は
くるくると「久しぶりのカケラ」を回し始めて いる。
「女としての 私」
「光の成分」
「肉体のかたち」「持っている パーツ」
「その時持って生まれた もの」。
「私、そう 言われてみれば。あんまり、自分が「女の子」だって。 ちゃんと、認識してなかったかも 知れない。」
「ああ、なんかそれは解るわ。」
「 う、うん。」
速攻同意されてしまったが、それもどうだろうか。
「でもね、ある程度大きくなってきてから。「女って損じゃん」って、思った事はあって。でも、こことかよりは全然、自由? いや、どうだろう なんかとりあえず種類が違うアレだけど、マシではあるかな?? えっと、何が言いたかったのかって 言うと。」
して 本当に なにが ?
言いたかったので あろうか 。
「「女は損だ」って、思ってたけど、そうじゃなかった? いや、今でもそう状況は変わってないっちゃ ないんだけど。「今」、「そうで良かった」とは。思うんだ、なんだか。」
「うん。でもそれは、彼と会えたからじゃない?」
「 ぇ」
思わぬ返答が来た。
え いま
そんな話 だった ?
いや そんな話 だった か ???
「きっとそうね………ヨルは、彼に会う為に旅に来たのかも知れないわね。会う?って言うと、ずっと一緒だからおかしな感じだけど。気付く為に旅してきたのよ。そう、「恋はいつも突然やってくる」ものだから。」
「 あ うん。」
そうだった エローラには。
「そんな話」とか「どんな話」とか
関係ないんだった 。
「あ~、そう考えるといいわ。腕が鳴るわね。フフ、ヨルの結婚式のドレスは 」
「あ、うん。」
とりあえず、ピンクの世界に旅立ったエローラの事は そっとしておこう。
なにしろ 私は 久しぶりに回った
「女というもの」、そのカケラに感じた色が
気になっていて。
「今の視点」で それを 見てみること
それが必要なのではないかと心に留めて おいたんだ。
「そう。それは後で ゆっくり? いや、とりあえずこれは 面白い いや、楽しい?嬉しい色だし ??」
そう カケラを精査するのも 大切だけれど
目の前の色を 楽しみ味わうのも、私の大切な仕事である。
そうして 勿論。
エローラの楽しそうな様子を放置しつつ
そのまま堪能したのは
言うまでもないので あった。
うむ。
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