透明の「扉」を開けて

美黎

文字の大きさ
上 下
1,177 / 1,684
8の扉 デヴァイ 再々

思ってたんと 違う

しおりを挟む

「そう、そうなのよ。だから、私の考えなんて。ちっぽけで、簡単な思い込みだったって。気付いたのよね、そこで。」

「やっぱシャルムは凄いな。」
「えっ、そんな所あった?」

「エローラ、それは酷いよ。 フフ、まあ最初は全然 気にしてなかったもんね?なんかね、穏やかだけど、解ってるよ シャルムは。なんて言っていいのか、わかんないけど。、エローラを好きになったと思うし。」

「えっ。あっ、そうね?」

珍しく照れた顔の 優しい灰色の瞳を見ながら、ついニヤニヤしてしまう自分の顔を ヒョイと戻す。


今日は とても久しぶりに。

ラピスの街へ降り、エローラの店を訪ねて いる。


この間「何をも受け入れる」「想定外など無い」、そのカケラが降って来てから。

「それもそうかも?」と 思い
自分の中で少しだけ引っ掛かりがあった「世界への訪問」をやってみようと思った次第だ。

 が しかし。

訪問する場所が エローラの店だと。
世界引っ掛かり」か どうか
それは怪しいところでも あるけれど。


「確かに自分でも「何に引っ掛かってたんだろう」「大した事なかった」って。思う事って あるよね。うん。」

これは自分に対して言っている事でもあるが、今のエローラの話題に関しても そう言える事である。

「そうなのよね。私の場合なんか、原因がそもそも分からないし。小さい頃から、あの店の素材は良くないって、なんだか思い込んでたんだけど。」

「うーん、でも その直感自体は間違いなかったと思うよ?子供ってその辺鋭いし、何か「そう思う原因」がないと そうは思わない訳じゃん。きっかけ?って言うのかな。でも、それがいつの間にか変化してて 改善されてたのかも。」

「ああ、それはあるわね。」

「まあ、だから結局。って ことだ。」

「まあね。…………ヨルは、特にそうかもね。」

「え? そう??」

「そうよ。あの時さ、シン先生と気焔の事で悩んでた時だってさ…………」

「ちょ、止めて!  なんか、懐かしいけど 。」

 おかしい のか
 恥ずかしい のか

笑いながらエローラの口を塞いで、お皿の上のクッキーを放り込む。


「ん~、ムグ、えっとね。」

「フフフ なに?」


「私達は、合わせるし、合わせられるし、変化するものだけど、決まってる人はそれはそれでいいのよ。ほら、相手好みの服に合わせる子もいるじゃない?」

「ああ、そうだね?」

「でもヨルはそうじゃ、ない。それはそれで、いいけど答えは一つしかないから。うーん、だからそれを見つけられる人はそうなってる、のかな?何言ってるのか分からなくなってきたわ。」

「いや、言ってる事は わかる。」

きっと、エローラの言いたい事は
 「私には決まっている相手が いた」という事だけれど
 「まだ 選びたい遊びたい人もいる」
 そういう事だろう。


ゆっくりと頷きながら、ティーカップを手に取り
少し冷めたお茶を流して 喉を潤して。

 なんだか まったりとした 
  この店の空気を緩りと味わいながら
   お替わりを淹れようとしているエローラの前に
 ズズイとカップを 押す。
 

「でもさ、それに。それって、人に対しても言えるけど。素材に関しても同じじゃない?その方が、分かり易いかも。」

「あー!確かにそれは。 そうだね?」

それは確かにそうだ。

 「素材」 その自分の得意になると
      分かり易い。

 
 どの 場面で どの素材を選ぶのか
 何に使う為に 何色を選んで

 どれに効くのか 映えるのか
 何に合うのか。

確かに 私達は日々「選んで」「合うものを使って」いるんだ。


「 ふむ。」

「だからその、石の話もそうだけど。なに、その「粒子」?ヨルの場合は見ている場所がそこで、なにか形とか見た目じゃ、なくて。その、「粒子のコーディネート」をしてるって事でしょう?」

「上手いこと言うね、流石 エローラさま。」

「なにそれ。止めてよ。でも、確かに思うんだけど。」

「うん、なに?」

「ほら、沢山お客様が来るじゃない?その中でも、「自分の似合うものを知っている人」と「わかってない人」が、来るわけ。だから、私としては自分が思う「その人が一番魅力的に見える服」を選ぶんだけど、それを勧めて「いい」って買ってくれる人もいれば、「私には似合わない」って。止める人も、勿論いる。どちらが良いとか、そんな話じゃないんだけど。………なんか、言いたい事解るよね?」

「 あ~。うん。 わかる。」

確かに。

エローラによると、以前比べて格段とラピスも変わってきているらしい。

 だが しかし。

「変わっている人」「変わっていない人」「変わりたくない人」、それはやはり様々で
色んな場所でそれは 起こって いて。


「 ふぅむ。だがしかし。なにしろ、エローラがいてくれてラピスは良かったって事だよ。」

「えっ。なぁに、それは。」

少し照れた様子で そう聞き返す灰色の瞳は
いつでも私を受け入れてくれる、「相手をわかろうとする いろ」だ。

「いや。なんか。初めから、エローラはけど。 ちゃんと、その人のありのままを、見れるんだよ。ほら、年が幾つだからとか、髪の色がどうだとか、なんか 見た目とか関係なしに、多分きっと 「エローラ探知機」みたいなので、見てるの。多分エローラの場合は服に偏ってるんだと思うんだけど、あ、因みに私は満遍なく偏ってるから。 ああ、それはいいとして。 うむ。」

「なんかね、それで ちゃんとその人の本質に合ったものを、勧めてるんだよ。でも、その人の思い込みが強かったり、自分のことを客観的に見れてないと。 それは、分からないから無難に なる。そういう事だわね?」

「そうかも知れないわね?」

二人で、首を傾げながら。

相槌を打って クスリと笑う。


「なんか、ヨルにそう解説してもらうと。「そうだな」、って感じがするわ。確かに私も「絶対こっちのが似合うのに」とは、思うけど、それはそれで「今は着れないだけ」なのよね。いつ、変わるのかはその人の自由だし。」

「そうそう。こっちから開けようとしても。開かないしね。」

「あー、そう言えばグロッシュラーでヨルが開けた?扉の話?聞いたわ。それと同じよね。「可能性の扉」だっけ?」

「え あ うん、そうだね?  なんか、懐かしいな  。」

「早いわよね………。そう思えば。」

「うん。 」

 あ そうか 。
 こっちとは。

   時間の流れが 少し 違ったんだ
   そう 言えば。


くるくると変わる、大人びた表情を眺めながら
初めの頃のエローラを思い
しかし変わっていない瞳の色に クスリと微笑むと
矢印の矛先が私の方に 来た。

「まあ。ヨルも。、なったわよね。フッ。」

  えっ

    なに  その「フッ」って 。


は、完璧な女の子なんだけどねぇ。これでラピス生まれだったら………でも、つまらないわね、それじゃ。やっぱりヨルは、ヨルじゃなきゃ。」

「うん ??」

「まあ、ほら。「女の子だから」って、あるじゃない、どうしても。うちはおばあちゃんがだから、私も好き勝手にやらせて貰ってるけど、やっぱりそうじゃないもの。まだ、大抵の家はね。もう少し、時間はかかるわ。」

「  うん。そうだね。」

その エローラの瞳に。

 なんとも言えない、色を見て しかし
 それが「暗くない」ことも同時に見て取った私の中身は
 くるくると「久しぶりのカケラ」を回し始めて いる。



 「女としての 私」

   「光の成分」

 「肉体のかたち」「持っている パーツ」

 「その時持って生まれた もの」。



「私、そう 言われてみれば。あんまり、自分が「女の子」だって。 ちゃんと、認識してなかったかも 知れない。」

「ああ、なんかそれは解るわ。」

「 う、うん。」

速攻同意されてしまったが、それもどうだろうか。

「でもね、ある程度大きくなってきてから。「女って損じゃん」って、思った事はあって。でも、ここラピスとかよりは全然、自由? いや、どうだろう なんかとりあえず種類が違うアレだけど、マシではあるかな?? えっと、何が言いたかったのかって 言うと。」

 して 本当に なにが ?

 言いたかったので あろうか 。


「「女は損だ」って、思ってたけど、そうじゃなかった? いや、今でもそう状況は変わってないっちゃ ないんだけど。「今」、「そうで良かった」とは。思うんだ、なんだか。」

「うん。でもそれは、彼と会えたからじゃない?」

「  ぇ」

思わぬ返答が来た。

 え   いま

   そんな話 だった ?

  いや  そんな話 だった か ???


「きっとそうね………ヨルは、彼に会う為に旅に来たのかも知れないわね。会う?って言うと、ずっと一緒だからおかしな感じだけど。旅してきたのよ。そう、「恋はいつも突然やってくる」ものだから。」

「 あ  うん。」

 そうだった エローラには。

 「そんな話」とか「どんな話」とか

 関係ないんだった 。


「あ~、そう考えるといいわ。腕が鳴るわね。フフ、ヨルの結婚式のドレスは  」

「あ、うん。」

とりあえず、ピンクの世界に旅立ったエローラの事は そっとしておこう。


 なにしろ 私は 久しぶりに回った
 「女というもの」、そのカケラに感じた色が
 気になっていて。

  「今の視点」で それを 見てみること

それが必要なのではないかと心に留めて おいたんだ。


「そう。それは後で ゆっくり? いや、とりあえずこれは 面白い いや、楽しい?嬉しい色だし ??」

そう カケラを精査するのも 大切だけれど
目の前の色を 楽しみ味わうのも、私の大切な仕事である。

そうして 勿論。

 エローラの楽しそうな様子を放置しつつ
 そのまま堪能したのは
 言うまでもないので あった。

うむ。




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

処理中です...