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8の扉 デヴァイ 再々

目的地の 違い

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「そもそも、君は「目的地」が違うだろう。多分、それじゃないかな?もう、「君の必要」は充分持っていて。それを引っ提げて、また新しい旅へ出掛けるのさ。」

「えっ 」

  「目的地」?


ある日の書斎
 造船所での様子を報告がてら、イストリアとお茶を楽しむ午前中
 あの眼鏡は奥に引っ込んだまま 出て来ない。

「お母さんとのお茶タイム」を邪魔するのもあれかと思ったが、朝食後に「書斎でどうだい?」と茶器を用意し始めたのはイストリアだ。

私は ただ ノコノコと ついて来ただけなのである。

 
 まあ 一応 声は掛けたし うん。

そう一人納得し、造船所での事
 子供達の事
 イストリアからは デヴァイのあれこれを聞いていた時。

途中までは 普通に聞いていたんだ
だってみんなが なんか 頑張ってる「いい話」だったし
「癒しの話」「金の蜜が役立っていること」
「励まし合う 環境」
そんなとっても「いい話」「優しい話」が 続いていた時。


 フワリと浮き上がった 私の中の「靄でもない 雲」
 それはきっと「異色」まではいかないけれど
 なんとなく「違和感」がある 色
 「細か過ぎるセンサー」には しっかりと引っ掛かった それ。

「 ふむ? 」

首を傾げ始めた私を見て、話を止めた薄茶の瞳はなんだか楽しそうである。

きっと 私が「なにか 見つけた」のが、分かるのだろう。
そのまま口を閉じて、お茶の葉を変え始めた。


 ふーむ?

   なんだ  なんだろう この 「違和感」

 「優しい色」「思いやり」 「気遣い」

   「みんなで」 「協力」


凡そ「おかしなところ」は見当たらない カケラ達がくるくると回る。


「うーーーーーーーん ?????」

とりあえず、なんとなくデヴァイが上向きになってきているのは 分かった。
でも。
なんだろうか この なんか 微妙な「これじゃない感」。


そうして何度目かの、唸りを発した時に。

イストリアが楽しそうに こう言ったんだ。

 そう「目的地が 違うのだ」と。



「えっ、てか。 それって、どういう事ですか?」

入れ替えてくれたお代わりを頂きながら、カップ越しに上目遣いで訊いてみる。

 確かに 私は扉を旅して いるけれども。

 多分 「その話」じゃ ない筈なんだ
 なんとなくだけど。


私の表情をニコニコして観察しながらも、どう言ったものか、彼女の中でもカケラが回っているのが見える。
 いや 実際「見える」訳じゃ ないけれど
 わかるのだ。

多分 私達の「思考の形態」は 似ているのだろう。


そのイストリアのくるくるを見守りながらも自分もカケラを回して考えてみる。
いや、「勝手に回っている」のが 近いけれど。


「いや、そのね。」

しかし、私のカケラが答えを弾き出す前に イストリアが口を開いた。
そうしてなんだか楽しそうに、話し始めたんだ
 その「行き先」の 話を。


「なんというか、ここの皆は。まだ、歩き始めたばかりなんだ。だから、みんな「自分の道」を探し、できる事をやって「実感する」事から始めなければならない。とりあえず「歩んで」「実になる」には、少し時間はかかる。それは解るね?」

「はい。」

「でも君は。もう既に道を歩き終わって、全く違う次元を歩いてるんだ。いや、飛んでるのが、近いかも知れないね?」

「  えっ」

 まあ あながち 「違う」とは 言えないそれ。

少し考えながらも、楽しそうな瞳はこうも 続ける。


「面白いよね。君は「良くなりたい」とかですらなくて、きっと「創造したい」んだろう。まあ、もなりたいんだろうけど。」

ニヤリと笑う、薄茶の瞳がなんだか可愛い。

腕組みをして凭れたソファーに、水色髪が揺れる様が キラリと光って。
それはやはり いつでも私に光を齎す 合図 なんだ。


「みんなは先ず、「自分の道」を探して、試して、歩いて、戻って、そんな事をこれからやるけれど君は。なんだろうか………もうね、「道」は終わって「くう」を歩き、「夢を形にする」事を、やっているだろう?周りに光を与える事、そして彼との…なんだ、結婚、じゃないのかも知れないけれど。ずっと共にある事を、実現しようとしている。それはこれまでに無かった事だし、今はまだ「想像上」でしか、ない。」

 なる ほど。

無言で薄茶の瞳を見つめる私に、頷きながらも続ける 柔らかな声。

「最終的にはみんなそこを、目指すのだろうけど先ずは「自分の道」を見付けてからだ。いや、「自分というもの」なのかな。自分が解らなければ。本当の創造は出来ないだろうからね。」

「いつだったかな…?あの子が、言っていたけれど。君は「物語」を「本当」に、しようとしている、と。それは私もそう思うよ。これまでは「まるで御伽噺」と、言われていた様な、まあ長老達に言わせれば「荒唐無稽」の様な事を、実現しようとしている。それも、なんだかな、レベルで。本当に不思議だよ。君を見ていると不可能とは思えないからね。なんだか、なぁ………しかし、女性性の事も超えて。感慨深いね。まあ、無理はしない様に。」

一気に、それだけ話すと。

ニコリと笑って、ゆっくりお茶を飲み出したイストリア
私はなんだか、言葉が ない。


 えっ  だって  なんか  もう。


 「私の なかみ」。

 イストリアさん 見えて ませんか ???
  って 言う レベル だし??


自分が言語化出来ていなかったカケラが くるくると宙を舞い始め「イストリアのカケラ」と反応したのが わかる。


 えーーー 。  てか。 もう。

  なるほど でしか。 ないな 。


「なにかが違う」けれど「なに」かは 分からない違和感
なんだか「フワフワしてていい感じ」だけど
それ。

 それは 「始まり」「手前」の 色
 もう 通り過ぎた色
 私には もう 不要な色だからだったのだ。


「いい感じ」「見たい」「味わいたい」「試してみようか」
そんな匂いのする それ
しかし「なんか違う」をくるくると回す「細か過ぎるセンサー」。


「成る程確かに。また、戻っても仕方が無いし それをどの位味わうか、心配になっちゃうけど それもまた自由で あるしな?」

そう つい気になってしまう
「甘い色に溺れる」罠
しかしそれに嵌るか 嵌まらないかは それぞれの「自由」なのである。

 きっと 私が首を突っ込んだならば。
 気になって 止めたり しちゃいそうだし
 なんなら「なんで早く気付かないのか」余計な
 お節介など しそうで怖い。

 今はもう 自分で気付いているから いいけれど。
きっと潜在意識的に刷り込まれているそれは、うっかりすると ふとした瞬間忍び込んで来るので ある。


「危ない 危ない 。」

「ハハ、大丈夫だろう、そこはきっと。なにしろこちらの事は任せて、子供達の事だって後はシュレジエンに投げていいのだし。大分纏まったと、言っていたろう?」

「そうですね ?」

確かに。

私が首を突っ込み過ぎでも いけないし
シュレジエンもそこは気にしていた部分だ。

「はい、とりあえずサラッと纏めたら。また、お任せするとは思います。でも 中途半端は 」

 いかんので ある。

「ふふ、それは大丈夫だ。なにしろ気の済むまでやっていいけれど、自分の事を第一にね。」

「ありがとうございます。」

皆まで言わぬ私の顔を読みながら、そう言ってくれる優しい瞳が 嬉しい。


イストリアの優しく大きな気配、少し堅いがずっと共にいてくれる 本部長の真面目な空気。

私にとって居心地の良いこの書斎は、すっかり「二人」の空気になっていて 普段から二人が気持ち良く過ごせているのが わかる。

 うん
    よかった やっぱり 
 二人が一緒で。

 本当に 良かった。


懐かしの中庭のガラス廊下、そこで初めて話を聞いた時の カケラ達がくるくると回る。

 そうして 初めて魔女店を見た時の ピンクのカケラが
 そこへ加わり始め 水色とピンクが暖かくまわる
  私の なか

 目の前の薄茶の瞳がチラリと小部屋に視線を飛ばすのが 見えた。


「ん? そろそろ、お茶の時間ですかね?」

少し大きな声で言ったから、聴こえているだろう。
なんだかそんな 気配がする。

 いつも 興味の無い話は全く耳に入っていないけれど
 なんだか私と「お母さん」の話は 聞いてそう。


私の予想は当たっているのだろう
そうしてとりあえず、奥の小部屋から 怪しげな音が聴こえてきて。

私達二人のお茶タイムは、終わりを告げたのである。

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