透明の「扉」を開けて

美黎

文字の大きさ
上 下
1,084 / 1,700
8の扉 デヴァイ 再々

目的地の 違い

しおりを挟む


「そもそも、君は「目的地」が違うだろう。多分、それじゃないかな?もう、「君の必要」は充分持っていて。それを引っ提げて、また新しい旅へ出掛けるのさ。」

「えっ 」

  「目的地」?


ある日の書斎
 造船所での様子を報告がてら、イストリアとお茶を楽しむ午前中
 あの眼鏡は奥に引っ込んだまま 出て来ない。

「お母さんとのお茶タイム」を邪魔するのもあれかと思ったが、朝食後に「書斎でどうだい?」と茶器を用意し始めたのはイストリアだ。

私は ただ ノコノコと ついて来ただけなのである。

 
 まあ 一応 声は掛けたし うん。

そう一人納得し、造船所での事
 子供達の事
 イストリアからは デヴァイのあれこれを聞いていた時。

途中までは 普通に聞いていたんだ
だってみんなが なんか 頑張ってる「いい話」だったし
「癒しの話」「金の蜜が役立っていること」
「励まし合う 環境」
そんなとっても「いい話」「優しい話」が 続いていた時。


 フワリと浮き上がった 私の中の「靄でもない 雲」
 それはきっと「異色」まではいかないけれど
 なんとなく「違和感」がある 色
 「細か過ぎるセンサー」には しっかりと引っ掛かった それ。

「 ふむ? 」

首を傾げ始めた私を見て、話を止めた薄茶の瞳はなんだか楽しそうである。

きっと 私が「なにか 見つけた」のが、分かるのだろう。
そのまま口を閉じて、お茶の葉を変え始めた。


 ふーむ?

   なんだ  なんだろう この 「違和感」

 「優しい色」「思いやり」 「気遣い」

   「みんなで」 「協力」


凡そ「おかしなところ」は見当たらない カケラ達がくるくると回る。


「うーーーーーーーん ?????」

とりあえず、なんとなくデヴァイが上向きになってきているのは 分かった。
でも。
なんだろうか この なんか 微妙な「これじゃない感」。


そうして何度目かの、唸りを発した時に。

イストリアが楽しそうに こう言ったんだ。

 そう「目的地が 違うのだ」と。



「えっ、てか。 それって、どういう事ですか?」

入れ替えてくれたお代わりを頂きながら、カップ越しに上目遣いで訊いてみる。

 確かに 私は扉を旅して いるけれども。

 多分 「その話」じゃ ない筈なんだ
 なんとなくだけど。


私の表情をニコニコして観察しながらも、どう言ったものか、彼女の中でもカケラが回っているのが見える。
 いや 実際「見える」訳じゃ ないけれど
 わかるのだ。

多分 私達の「思考の形態」は 似ているのだろう。


そのイストリアのくるくるを見守りながらも自分もカケラを回して考えてみる。
いや、「勝手に回っている」のが 近いけれど。


「いや、そのね。」

しかし、私のカケラが答えを弾き出す前に イストリアが口を開いた。
そうしてなんだか楽しそうに、話し始めたんだ
 その「行き先」の 話を。


「なんというか、ここの皆は。まだ、歩き始めたばかりなんだ。だから、みんな「自分の道」を探し、できる事をやって「実感する」事から始めなければならない。とりあえず「歩んで」「実になる」には、少し時間はかかる。それは解るね?」

「はい。」

「でも君は。もう既に道を歩き終わって、全く違う次元を歩いてるんだ。いや、飛んでるのが、近いかも知れないね?」

「  えっ」

 まあ あながち 「違う」とは 言えないそれ。

少し考えながらも、楽しそうな瞳はこうも 続ける。


「面白いよね。君は「良くなりたい」とかですらなくて、きっと「創造したい」んだろう。まあ、もなりたいんだろうけど。」

ニヤリと笑う、薄茶の瞳がなんだか可愛い。

腕組みをして凭れたソファーに、水色髪が揺れる様が キラリと光って。
それはやはり いつでも私に光を齎す 合図 なんだ。


「みんなは先ず、「自分の道」を探して、試して、歩いて、戻って、そんな事をこれからやるけれど君は。なんだろうか………もうね、「道」は終わって「くう」を歩き、「夢を形にする」事を、やっているだろう?周りに光を与える事、そして彼との…なんだ、結婚、じゃないのかも知れないけれど。ずっと共にある事を、実現しようとしている。それはこれまでに無かった事だし、今はまだ「想像上」でしか、ない。」

 なる ほど。

無言で薄茶の瞳を見つめる私に、頷きながらも続ける 柔らかな声。

「最終的にはみんなそこを、目指すのだろうけど先ずは「自分の道」を見付けてからだ。いや、「自分というもの」なのかな。自分が解らなければ。本当の創造は出来ないだろうからね。」

「いつだったかな…?あの子が、言っていたけれど。君は「物語」を「本当」に、しようとしている、と。それは私もそう思うよ。これまでは「まるで御伽噺」と、言われていた様な、まあ長老達に言わせれば「荒唐無稽」の様な事を、実現しようとしている。それも、なんだかな、レベルで。本当に不思議だよ。君を見ていると不可能とは思えないからね。なんだか、なぁ………しかし、女性性の事も超えて。感慨深いね。まあ、無理はしない様に。」

一気に、それだけ話すと。

ニコリと笑って、ゆっくりお茶を飲み出したイストリア
私はなんだか、言葉が ない。


 えっ  だって  なんか  もう。


 「私の なかみ」。

 イストリアさん 見えて ませんか ???
  って 言う レベル だし??


自分が言語化出来ていなかったカケラが くるくると宙を舞い始め「イストリアのカケラ」と反応したのが わかる。


 えーーー 。  てか。 もう。

  なるほど でしか。 ないな 。


「なにかが違う」けれど「なに」かは 分からない違和感
なんだか「フワフワしてていい感じ」だけど
それ。

 それは 「始まり」「手前」の 色
 もう 通り過ぎた色
 私には もう 不要な色だからだったのだ。


「いい感じ」「見たい」「味わいたい」「試してみようか」
そんな匂いのする それ
しかし「なんか違う」をくるくると回す「細か過ぎるセンサー」。


「成る程確かに。また、戻っても仕方が無いし それをどの位味わうか、心配になっちゃうけど それもまた自由で あるしな?」

そう つい気になってしまう
「甘い色に溺れる」罠
しかしそれに嵌るか 嵌まらないかは それぞれの「自由」なのである。

 きっと 私が首を突っ込んだならば。
 気になって 止めたり しちゃいそうだし
 なんなら「なんで早く気付かないのか」余計な
 お節介など しそうで怖い。

 今はもう 自分で気付いているから いいけれど。
きっと潜在意識的に刷り込まれているそれは、うっかりすると ふとした瞬間忍び込んで来るので ある。


「危ない 危ない 。」

「ハハ、大丈夫だろう、そこはきっと。なにしろこちらの事は任せて、子供達の事だって後はシュレジエンに投げていいのだし。大分纏まったと、言っていたろう?」

「そうですね ?」

確かに。

私が首を突っ込み過ぎでも いけないし
シュレジエンもそこは気にしていた部分だ。

「はい、とりあえずサラッと纏めたら。また、お任せするとは思います。でも 中途半端は 」

 いかんので ある。

「ふふ、それは大丈夫だ。なにしろ気の済むまでやっていいけれど、自分の事を第一にね。」

「ありがとうございます。」

皆まで言わぬ私の顔を読みながら、そう言ってくれる優しい瞳が 嬉しい。


イストリアの優しく大きな気配、少し堅いがずっと共にいてくれる 本部長の真面目な空気。

私にとって居心地の良いこの書斎は、すっかり「二人」の空気になっていて 普段から二人が気持ち良く過ごせているのが わかる。

 うん
    よかった やっぱり 
 二人が一緒で。

 本当に 良かった。


懐かしの中庭のガラス廊下、そこで初めて話を聞いた時の カケラ達がくるくると回る。

 そうして 初めて魔女店を見た時の ピンクのカケラが
 そこへ加わり始め 水色とピンクが暖かくまわる
  私の なか

 目の前の薄茶の瞳がチラリと小部屋に視線を飛ばすのが 見えた。


「ん? そろそろ、お茶の時間ですかね?」

少し大きな声で言ったから、聴こえているだろう。
なんだかそんな 気配がする。

 いつも 興味の無い話は全く耳に入っていないけれど
 なんだか私と「お母さん」の話は 聞いてそう。


私の予想は当たっているのだろう
そうしてとりあえず、奥の小部屋から 怪しげな音が聴こえてきて。

私達二人のお茶タイムは、終わりを告げたのである。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

皇帝はダメホストだった?!物の怪を巡る世界救済劇

ならる
ライト文芸
〇帝都最大の歓楽街に出没する、新皇帝そっくりの男――問い詰めると、その正体はかつて売上最低のダメホストだった。  山奥の里で育った羽漣。彼女の里は女しかおらず、羽漣が13歳になったある日、物の怪が湧き出る鬼門、そして世界の真実を聞かされることになる。一方、雷を操る異能の一族、雷光神社に生まれながらも、ある事件から家を飛び出した昴也。だが、新皇帝の背後に潜む陰謀と、それを追う少年との出会いが、彼を国家を揺るがす戦いへと引き込む――。  中世までは歴史が同じだったけれど、それ以降は武士と異能使いが共存する世界となって歴史がずれてしまい、物の怪がはびこるようになった日本、倭国での冒険譚。 ◯本小説は、部分的にOpen AI社によるツールであるChat GPTを使用して作成されています。 本小説は、OpenAI社による利用規約に遵守して作成されており、当該規約への違反行為はありません。 https://openai.com/ja-JP/policies/terms-of-use/ ◯本小説はカクヨムにも掲載予定ですが、主戦場はアルファポリスです。皆さんの応援が励みになります!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

THE LAST WOLF

凪子
ライト文芸
勝者は賞金五億円、敗者には死。このゲームを勝ち抜くことはできるのか?! バニシングナイトとは、年に一度、治外法権(ちがいほうけん)の無人島で開催される、命を賭けた人狼ゲームの名称である。 勝者には五億円の賞金が与えられ、敗者には問答無用の死が待っている。 このゲームに抽選で選ばれたプレーヤーは十二人。 彼らは村人・人狼・狂人・占い師・霊媒師・騎士という役職を与えられ、村人側あるいは人狼側となってゲームに参加する。 人狼三名を全て処刑すれば村人の勝利、村人と人狼の数が同数になれば人狼の勝利である。 高校三年生の小鳥遊歩(たかなし・あゆむ)は、バニシングナイトに当選する。 こうして、平和な日常は突然終わりを告げ、命を賭けた人狼ゲームの幕が上がる!

罰ゲームから始まる恋

アマチュア作家
ライト文芸
ある日俺は放課後の教室に呼び出された。そこで瑠璃に告白されカップルになる。 しかしその告白には秘密があって罰ゲームだったのだ。 それ知った俺は別れようとするも今までの思い出が頭を駆け巡るように浮かび、俺は瑠璃を好きになってしまたことに気づく そして俺は罰ゲームの期間内に惚れさせると決意する 罰ゲームで告られた男が罰ゲームで告白した女子を惚れさせるまでのラブコメディである。 ドリーム大賞12位になりました。 皆さんのおかげですありがとうございます

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...