透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ 再々

子供達と造船所

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「 いやぁ ~ 良かった 良かった。」

軽やかに スキップで向かう灰色の道
 思わず鼻歌が出る 造船所への 道中。


あれから結局、レナに色々聞いたけれど
二人に「特別な進展」は ないらしい。

「まあ。「特別な」、ってとこが やや気になるけどね。」

なにしろ仲良くやっているらしいので、確かにあまり首を突っ込まない方がいい。
 私、本人としてはレシフェはもう「私に気がない」とは、思っているけれど レナは「どうだか?」と言っていたし 二人にうまくいって欲しい身としては、邪魔をするのは避けたいもので ある。


「 ふむ?さて、どう するかな。」

斯くして「今日はいないと思う」というレナ情報を引っ提げ
大きな灰色の建物の前で仁王立ちをしている 羽衣姿の怪しい私

頭の中を回るのは「可能性の扉」である。

 この 大きな扉の 前で。

「うーーん。 開ける。 開ける のか。まあ、開いたしな?その後って、こと だよね??」

仁王立ちのまま、腕組みをして考え始めた けれど。

しかし今日、私がここへ来た理由は別に「教える為」ではない。

ただ 単に 子供達が元気か 見たかったのと
船の様子が気になったのと
みんなのまじないがシュレジエンの言っていた 様に。

 拡大して いるのか

それが気になったからだ。

帰りに畑も見ればいいし、どれだけグロッシュラーが変わったのか
世界の色が進化したのか。
それを確かめたかったのだ。


「  ♪   さて。」

 どう しようか。

 とりあえず  覗く?

なんだか突然私が現れたら、子供達はわちゃわちゃが始まって 暫く治らないだろう。

「ふむ?それならば。」

とりあえずは、こっそりと大きな扉に手を当て「お願い」と隙間を開けてもらう。

そうして、スルリと狭い間を通り抜けると。

 ふむふむ 聴こえる。
 元気な 声が 。

 フフフ

みんなは大概向こう側、入り口からは大きな船で見えない側で作業をしている。

チラリと人影は見えるが、こっそり進めばバレないだろう。

そうして。
とりあえずは普段の様子を確認すべく、こっそりと進んで行ったので ある。





「おや?お嬢じゃないか。」
「しーーーっ!」

 駄目ですよ シュレジエン さん !

そう、目で訴えながらもとりあえず 物見台を目指して進んでいた私は、速攻船長に発見されていた。

しかし、ミッションを中断する訳にはいかない。
 私は ありのままの子供達を見る
 
それをしに来たのだから。


そうしてそのまま、口の前に指を当て こっそり物見台への入り口へ滑り込むと一息吐いた。

 多分 「見えない様に」って 思って来たから。
 バレない筈 だけど。

しかし「子供」というものは鋭いのだ。

時折デヴァイで散策している時も、子供には「見られてる感」が ある女神姿
 きっと「夢」か 「オバケ」「スピリット」か何かだと
 思ってくれてれば いいけど。


「 こっちにオバケって いるんだっけ ??」

「なんだ、覗きに来たのか?」

「あ、はい。そうなんですよ。この間シュレジエンさんが言ってた事が、気になって 。」

ブツブツと呟きながらくるくると階段を登り、そのままちょこんと大きな体の隣に収まる。

 てか ここ 多分一人用だから
 「挟まる」のが 近いな?

そんな事を考えながらもヒソヒソと近況を訊く。
だが、あれから概ね変わりは無い様だ。


そうしてあちこちで作業をしている様子と、指示を出しているデービスを眺めながら
「私も久しぶりに混ざろうかな」と。

つらつらと考えている間 ふと彼方此方に。

 なにか 「気になるもの」が 見える事に気が付いた。

 
 ん?

     いや ?

  ああ  また だ。

   あれ?   あそこも だな ??


なんだか作業の合間に、所々でフワリと浮く「澱」があるのだ。

「子供達に澱?」そうも思ったけれど。
子供だからと言って、澱が浮かぬ訳でもないし
まだまだ全ての事が解決した訳でも ない。

 ふむ?

そうしてとりあえず、各所に薄く気を張って
全体を観察して 見ると。

 
  ああ もしかして あれ か?


そう思う「色」が あったんだ。


「ほら、できたよ!」

「いいなぁ」 「ほんとだ。」
「こっちも!」

そう、口々に叫び出した子供達とは対照的に、じっと黙っている子供達が いる。

喜んでいる子達をじっと見ながら、自分の手のひらと みんなのまじないを見比べていて。

「なんで。」

そう 小さくポツリと呟く 声にならない声が聴こえてくる。

どうやら、同じ作業をしていても上手くまじないが拡大している子と そうでない子がいるのだ。
しかし、それは「できない」訳ではなく「拡大していない」、それに近くて普通に小さなまじないは 使えている。

見覚えのある顔が多いのは、きっと以前 私が「適当なやつ」を教えた子がいるからだろう。

 だから 多分。

 そう「頭の柔らかい子」は 適当ができるけれど
 「考えてやろうとする」子は。

 きっと 難しいんだ。

でも。

それは 改善できる。
今 直ぐは思い付かないけど、「できない」なんて 無いから。


しかし、どんどん曇る表情
 そしてその後の様子からしても、それが日常なのが わかる。


 ああ そんな事ないのに
 きっと できるのに。

日々、これが重なるのは心理的にキツイ。

 その 子供達の表情を見ながら くるくると
 高速で回転し始めたカケラ

その間も 黙って作業を続ける みんなを見る。


その表情からして「やっぱり」「できない」「自分にはない」「チカラがない」、そう思っているのが手に取るように わかる。

その 沈んだ色を 見て。
声を掛けそうになるのを、ぐっと抑えてシュレジエンの隣へ意識を戻した。


そう
 「枠の ある なし」
 「できない」と 

それが こうも、飲み込みに影響しようとは。


とりあえずその日はじっと「枠のあるチーム」を観察する事に止めた。

シュレジエンに話そうかと思ったが
「どう話すのか」「そして どうするのか」
「私はどうした方がいいと思うのか」
その、話す内容と
「そもそも何があの子達の「枠」なのか」、私自身が。

 しっかりと掴み切れて いないのだ。


「どこが」「なにが」「どう 紐解いていけば子供達に分かり易いのか」。

そう 理屈なんて どうでもいいんだ。
あの子達に分からなければ、意味が無いのだから。

なにしろとりあえず「最適な方法」を見つけるべく
兎に角観察する事にした私は、その日一日中 ずっと。

羽衣をフワリと強化し、造船所のあちこちを彷徨きながら子供達の全ての動きを 観察していたので ある。






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