透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ 再々

視点の修正

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「三日後に呼んでおいた」と。

本部長に言われてから、翌る日。

私は新しい神域でぐるぐるしながらも「出なきゃ始まらない」と、勢いよく起き出して。
ある意味覚悟を決めて、モグモグと朝食を頬張っていた。


「おはよう。おや?元気そうだね?」

「いや、なんか。踏ん切りが付いたんだか、ついてないんだか分かんないんですけど。とりあえず、やってみなきゃ始まらないと思って。」

「まあ、それはそうだね。」

そう言って微笑みながら向かい側に座った薄茶の瞳
私の隣にはピョンと朝が、乗ってきた。

「どうせあんたは、いつだって出たとこ勝負なのよ。」

「まぁね。それに、会ってみれば解ると思って。  危なくないといいんだけど。」

「うん、まあ………そうね。」

私の顔を見ずに、曖昧な返事をする朝
イストリアはそれを見ながらイリスから幾つかパンを受け取っている。

「ほら、新しいパンだ。色が付いているだろう?」

「あっ、ホントだ!野菜?ですか ?」

「そうだ。あれからその、シュレジエンの言っていた件もあるが、子供達がまあ凄いんだ。今度覗きに行くといい。」

「はい♪  出るのが、そっちだけなら。いいんだけどなぁ。」

私がポツリと漏らした呟きに、優しく微笑む瞳
隣からは仕方の無さそうな溜息が 聴こえてくる。


「まあ、でもね実際。本当に何をどうするのかは、君の自由なんだ。とりあえずは金の蜜を創りに来たんだろう?外に出る出ないは、また別の話だ。」

「  そう、ですよね。」

そうはっきり言われると、なんだか「いけない気分」になってくる心
しかしイストリアはそれを見透かした様に。

きっちりと私を正面から見て話し始めた。


「なにしろ君が、罪悪感を感じる必要は無い。でも、それは考え方のパターンだろうね。」

「パターン ?」

「君がと、思い込んでいる思考の癖と、言うか。基本的には「なんでもできる」と思っている君が、そこまで躊躇するのは、何故なのか。その、立ち止まってしまう原因、それを解消すれば見えてくるなにか、なんだろうね。」

「  なる ほ ど 。」

「君は、繊細だ。だからこその、その役目、だからこそ君が、気になる事を。とことん、突き詰めていいんだよ。それが判ればみんなの為にもなるだろうし、それで君が光り進むならば。それもまた、全ての為だ。なにしろ悪い事など、無いよ。」

そう はっきりと言いながらくるくると光を映す 薄茶の瞳

その、中には「彼女から見た 私」がはっきりと映って いる。

「もうね、君は君、違う道を歩いているんだ。その自覚をもっと持つ事、なのかな?世界を渡り歩く君は私達の一段、上を歩いている。もっと言えば、周回遅れでなく逆に、早いんだよ。何周かは、分からないけどね。だからもう、この古いパターンに嵌まらずに。きちんと、世に出て見てくるといい。君には、それはきっと私達とは違うなにかなのだろうけど。見えたら、教えてくれよ?」

そう、悪戯っぽく言う 細められた瞳に胸がいっぱいになる。

けれども既に 私の中ではくるくるとカケラ達が薄茶を受けて光り、回り始めていて。

それを確認すると、無言で頷いて くるりと瞳を回した。
私の「なかみ」に齎された色を、確認する為だ。


 確か に ?

薄茶の瞳からスルリと視線を 緑に移し
皿の上に盛られた彩りの良い新しい野菜を 見る。

 「わたし」 「みんな」

 「森で解ったこと」 「違い」

    「わたしというもの」

    「その 存在」。


 「今の自分の位置」
      
      「繰り返してきたこと」

  「私の中にある 夥しい数の」。


それをはっきりと意図し、そうして別視点から見る「新しい なにか」
 「まだ 見えていないもの」

   「新しい いろ」 「隠れている もの」

   「見えていなかった なにか」。


きっとイストリアが言うのは
「私だから見える色」「違った視点」「ある意味 おかしな発想」の ことで。


私が その「決まりきった古いパターン」に、嵌っている間 見逃していた「なにか」が、あるんだ きっと。


くるくると回るカケラ達の中、自分を真ん中に据え思い切り、集中して。

もっとずっと ぐっと奥に。

 入って行く 自分の光を描きながら
  想像の「せかい」を展開させてゆく。


そう、それは これまで見てきたこと
       学んだこと 
       改めてわかったこと
       知っていたけど 気付いていなかったこと
       
自分の立ち位置、周りの景色
「せかい」の中での「世界」
その周りを回る 私。

その新しい展開図にこれまで適用されていた 古いルールを当て嵌めずに、ただ「光の私」の視点で 物事を映すんだ。


目を、閉じてはいるけれど ぐっと視点を集中させ見る 新しい展開図。


 ずっとずっと 同じだと思っていた「世界」
 それが
 人それぞれに「見えているもの」が 違うこと
 「生きている世界」は それぞれだということ
 その適用されている「世界ルール」は
 ある意味「自分ルール」だということ

 だから「主人公は自分」で
 「私の世界の神」は「私」で
 結局
 「みんなの世界の神」は「それぞれ」だということ

即ち「私が神であるという 視点」から 見れば。

 「見えてくるもの」が 違うであろうこと。


出ている様で 出ていなかった「狭間」
きっと中途半端だった 私の立ち位置。

それが、森に行く事によって 変化して。

ずっとここに居たら 分からなかったであろう事実
「それぞれの世界」と「それぞれのルール」
しかしきっと「世界という 盤」は 同じで。

ある程度の共通ルールはある 
 例えばそれが「視点の高さ」で 同じ高さなら
 同じものが見える とか そんな事で。

イストリアが言っているのは、なにしろ私は視点が一周 高くてそれを見たら、きっと違う景色が見えるということ

私はこれまで きっと。
一生懸命「違う場所」から 見ていたということ。


 私は きっと 立ち位置を勘違いしていたんだ。

 ズレてる とか ある意味そうなんだろうけど
 そうではなくて
 「場所」というか「高さ」が 違ったんだ。


森で外を眺め、ぐるぐる悶々としていた時も。中学生が 小学校に通い「何故わからないのか」、そんな事を考えているに近かったのだろう。

そう、思えば。

「えっ、なんか 私。恥ずかしくない?」

「えっ、今更?」

 ん?

私の脳内独り言が 聴こえていた訳ではないだろうけど。

間髪入れずに答えが返ってくるあたり、流石赤ん坊の頃から一緒なだけは ある。

「だから、結局。まだまだ、自覚が足りないって ことなんだ。」

「………足りてる事なんて今まであったかしら………。」

 えっ。

くるりと視線を向けた私の顔を読んで、的確な返事が返って くる。

「まあ、見た目は女の子だしね。昔から女性は外見だけが良ければいいって風潮はあるし。だからこの外見にその中身が入ってるのが、そもそも間違いなのよ。それは結局、あんたの重視してる「中身」の問題だからね。」

「 うん? なる ほど ???」

 わかった 様な わかってない 様な ?


 え

 てか さっき なんか。

 「」って 強調してませんで した?


「朝、失礼だよ。私だって成長してるし、うん。」

なんだか不満気な青い瞳から そっと目を逸らし、冷めたお茶を一口飲む。


でも
きっと そうなんだ。

 「私達女性」に 自覚が足りない

 それはきっと 私だけじゃ ない 筈。


一人、言い訳の様に頷いてカチリとカップを戻す。

そう それに
 子供達のまじない 新しい野菜  増える緑
 未知の植物 これまで無かった もの。

 できなかった事が できる様になること
 見えなかったものが 見えること。

 それも、同じ様に。

 全部がきっと 底上げされてきてる 筈なんだ。


「 ふむ 。」

「ほら、さっさと食べちゃいなさい。」

「ん? あれ?」

そう、実はいつの間にか とっくにみんな食べ終わっていて。

本部長も不在
イストリアはカウンターでみんなとお茶を飲んでいるし。

「うん?あれ、ベイルートさんは?」

「さあ?また何処か、調べに行ってるんじゃない?」

「 そっか。」

それは きっとまた私の為に奔走してくれているという事だろう。

久しぶりに会った玉虫色と、ゆっくり話もしたいと思っていたのだけれど。

 折角 デヴァイに戻って来たのに?
 働き過ぎじゃないだろうか あの人は。


森にいると、見つけるのが余計に難しいのだ。
キラリと玉虫色に光るとは言え、やはり虫を隠すなら森の中なのか。
 うーむ。

「ほら、また。」

「あっ」いけない。

考え事をすると、すぐ手が止まる。
それに、美味しく作られた食事がすっかり冷めてしまっているのだ。


「いかん。」

そうして、呆れた目の猫を監視役に。

とりあえずは食事を終える方に、専念する事にしたのである。






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