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5の扉 再びのラピス 森へ

君が星なんだ

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 ガラスの向こうにサワサワと 揺れる枝葉

 棚に並ぶ 沢山の話石  お気に入りの茶器達。

懐かしい木々が見える窓 
しかし 私の記憶よりも格段に伸びているそれは
やはり、私に「時間の経過」を知らせてきていて。

 「実際 どのくらい経っているのか」
 
じっとフワフワの伸びた髪を見ながら、考えていた。


 10cm  くらい 伸びてる? から
  えっ 二年?
 
 そんな 経つ??

  いや でも グロッシュラーで 季節が巡って
 ん? シャットでは 半年?どうだった??
 やっぱり「季節」が無いとサイクルが
  分かんない な

 いや 季節的なものは あったけど。

 なんか。 「実感」が 無いんだよね…


「うーーーん。ティラナが今、9歳だとして………いや、10歳はないよ、ないない。」

「えっ、お姉ちゃん私今10歳だよ?」

「    えっ」

 じ   じ?  じゅ っ ? さい????

思わず細い、肩を掴む。

「えっ、てか、と、いう事は??あれから??三年???経ってるの?????」

「君がどこからどう、跳んでるのかは分からないけど、ここラピスでの時間は三年だ。」

「えっ。」

私達が先に移動した、居間に入ってきたハーシェル
落ち着いたのかその手にはティーセットと湯気の立つポットが 見える。

久しぶりの部屋を堪能していた私に、長椅子に座る様 手で示すと
彼はそれまであった大きな出来事と、私の移動に関しての彼の考えを話し始めた。


「どうぞ。ああ、その「時間」の話だけど。」

私の好きなカップを覚えていてくれて、それを出されたものだから私の視線はそれに釘付けである。

苦笑しながらも綺麗な色のハーブティーを注ぎ、勧めてくれるハーシェルは少し首を捻りながらも彼なりの時系列を説明してくれる。

「君が移動している、「扉」の時間がズレるのだと思うんだ。それぞれの扉は少しずつ、そもそもが違っていてそれは「時間」なのか「流れの速さ」なのかは判らないけれど。僕もラピスに来た当初は、意味が分からなかったけど、なにかはきっとズレているんだ。それは間違いない。」

「 えっ」 

  やっ ぱり?

「多分だけどね。だから君がシャット、グロッシュラーと。二つも移動し、その後デヴァイまで行った。この前帰ってきた時から、また一年程経っている筈だ。その 」

「えっ?!一年??!」

「そうだ。」

言葉を遮った私の勢いに、笑いながら再びカップを示す緑の瞳。

私も、自分を落ち着ける為に。
そっとお気に入りのその花柄を両手に包み込んだ。


「それが扉を渡る間の事なのか、それとも時間のスピードなのか、人によっても違うのか。検証しないと解らないけど、君の時間が遅い理由は、なんとなくだけど察しが付く。」

「えっ。」

「「遅い」というか、「早い」のかな?他の人が経験している時間より、君の時間は経っていない筈だ。きっと視野が広い、から。人より吸収する量が時間の割に多いのじゃないかな?それで学びが早いんだ。普通の14なら、もっと時間がかかる筈だ。ん?いや、ヨルも15になったかい?まさか………」

 えっ
 その 「まさか」って。

 なんです かね ???

「いや、ここでは大概、16には結婚相手が決まるからね。ほら、祭りで。見ただろう?」

私のおかしな表情を見て、そう答えるハーシェル。

 確かに。
 冬の祭り も 春の祭りも。

 「結婚相手」、そんなこと 言ってた な??


「まあ、ヨルはあまりそこら辺は関係ないだろうけど。」

チラリと隣を見るのは 止めて欲しい。

「それで話を、戻すけれど。」

「えっ、はい。はあ 」

 てか 何の話 してたっけ?


きっと まるっと顔に出ているだろう私を見ながらしかし、いつもならば笑う緑の瞳が笑っていない。
どう したのだろうか。

  なにか 問題 が?  
     あったの  かな ??

しかし、そんな事をぐるぐると考えながら膝に視線を落としていた、私に。

「鳩が豆鉄砲を食ったような」顔をさせる、話が始まったのだ。



「女神をやって欲しいんだ。」

「え  っ ?」


  「女神」 を  やる ???


「そう、君が「丁度よく」帰ってきてくれた、なんて。言ったけれど。」

「 はい。」

「今、ラピスは迷走状態だ。でも、君が「見える」事によって、きっと良い変化が、ある。そう思うんだよ、僕は。」

「お姉ちゃん………。」

ティラナの心配そうな瞳が 見えた。


ハーシェルは、そこで言葉を切り私の反応と その隣を。
じっと見ながら、「私達がどんな色を示すのか」待っている。

 えっ

 ハーシェルさん が 「女神」を ?

 「やって 欲しい」???

凡そ、彼の性格から 考えて。

私の「負担」になる様な事を 言うとは思えない。

それか、そこまで切羽詰まった 状況なのか
それとも それが「彼的な最善」なのか。

 そもそも「女神で イケるじゃん」と
 思っていたのは 私だ。

 「半分冗談」「半分本気」の。
 その 「森滞在計画」 が しかし。

「ハーシェルから 言われてやる」と 言うのは
私からしてみれば「別枠」だ。

その 意図が読めなくて。
とりあえずもう一度緑の瞳を見て、確認する。


「め、神  ですか。」

「うん。まあ、君程の適任はいないからね。それも、あるけれど。」

「?」

「きっと君がここへ戻ってきた事の、「理由」?いや、なんと言うか。「ため」に、なると思うんだ、両方にとってね。君が、「そう振る舞う」事によって。」

 
 ああ そうか。

 その緑の瞳の「意図」が はっきりとわかる。

 彼は 私を「女神」に「名実共に する」「したい」
 そういう事なのだろう。

そうしてそれが、私のステップアップの為にも、なる と。

その、真っ直ぐに向けられた緑の澄んだ色から。
それが 私に直接伝わって くる。

  「それが 僕は 一番いいと思う」

その ハーシェルの本心が。


「ヨル、君は「私なんかが」って、言うかもしれないけれど。間違いなく、ここでは君が星なんだ。だから僕は、君が帰ってきたと思っているし、また新しい風と光を運んで来てくれたんだと。思っている。いや、重荷に感じて欲しくは、ないんだ。」

揺れる 緑の中の 光
しかしその色は、しっかりと揺らがぬ色を 示していて。

彼の言いたい事が よく 解るんだ。


 ハーシェルさんは 私に「背負わす」人じゃない
 なんなら 「荷物を持ってくれる」人
 背中を押して くれる人

だから。

余計に、感じるんだ。

 それが「本当」だって。

 彼の「真ん中」 「本心」 だって。


 いつだって私の味方 ここでの父
 なんなら 「嫌なら投げ出したっていい」と
 言ってくれる この人が。

 「こう 言うんだ私が星だ と」。


「君がまだ、そう素直に思えないのも、解る。しかし、「そうでありたい」とは、思っているだろう?言われなかったかい、誰かに。」

 はい。

無言で頷く 私の瞳
 顔は動かしていないがきっと「わかった」ハーシェルはクシャリとした笑みを浮かべ こう言った。


「だから。いいんだ、君の、思う様に。光って。で。ただ、「そうある」だけ、「そうなっていい」んだよ。そうでなければ、僕らが、困る。星は、どうしたって星なのだから。」

「いくら僕らが「星だ、女神だ」と言っても、君自身が認めないと駄目なんだ。君が「そうある」から、「そうなる」んだ。それが、当たり前だから。事は、種を蒔けば芽が出る様に至極単純だ。」

「 はい。」

ハーシェルの言葉が ジワリジワリと胸に沁み込んでくる。

 この 人に このに 言われるから
 沁みる この暖かさ 温もり 温度
 ただただ私を「思う」 気持ちの心地良さ。


その中で くるくると回り始めるカケラ


 イストリアか それか白か。

 誰かにも 言われた「上を見る」

 「上で 在る」「そうである」こと。
 まず 「私がなる」から、みんなも「なる」こと。

誰も 「なっていない」「光っていない」ならば。
「先頭で光る」のは 私である ということ。


くるくるとスピードを上げ回り 光り始めた「いろ」は
 どれも「私」を示す 分かり易い、「いろ」達で。


「自分が 何者なのかを知る」「なにであるか」

それを知るのは難しくもあるけれど それと同時に
既に「知っている」ことでも あるんだ。

 どう 見るか  どこから 見るか

 それは きっと「視点」の違い
 「角度」の違い
 「応用力」「根気」と「勇気」の 問題
 その「自分のカタチ」をどこまで 鮮明に見るのか
 見ようと 「目を凝らせる」のか。


それは
 単純な様で難しく 同時展開せねば ならないから。

 やはりカケラを「無限」へ 放り投げて
 遊ばせておくのが 最適なのだと思う。

私にとっては そう。


そうして自分の「なか」にある その空間を
じっと感じながら。

 また 改めて 「増えた緑」を見つめ
 美しく煌めき回る 光達を 沁み込ませていたんだ。




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