透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ 再

そこで「生きる」ということ

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「うーん。でも。多分、してみないと。分かんないんだと、思うんだよね………。」

私の呟きが静かな書斎に、小さく響く。

みんなの、心配 言っていること それは、解る。

でも。
やっぱり そこで「生きて」みないと。

 わからないことって あるし
 きっと私が 知りたいのは それ 
 そういうこと

 そこに 融け込み 流れ 沁み込み 感じて

        わかる
 そういう こと。


 多分 いやきっと なんだ。



渋い顔の眼鏡、薄茶の瞳 久しぶりの玉虫色の光。

ウロウロと歩き回る白衣を尻目に、ソファーでダラリとしている極彩色はチラリと目を開けただけで。
また、すぐに閉じこの展開を楽しんでいる様である。

 ちょっと 説得? 協力??
 してくれても いいんじゃ ない ???


しかし、みんながしているのはきっと「反対」ではなく「心配」

でも だからこそ。

 「金色」 「極彩色」

この二人がいれば。
 別に。

 万事解決 するんじゃ ない  の  かな ???


  駄目なの? ねぇ。


私の問い掛けが、きっと聴こえている筈の狐は
しれっと尻尾を振っただけで、寝たフリを決め込んでいる。

その、意図は分からないけど。
とりあえず、みんなの意向を聞こうと私は大人しく待っていた。


あれから「久しぶりの名案」を、ウキウキと携え足取りも軽く、やってきた書斎。
しかし、「聞いてくださいよ」と勢いよく開けた扉から、見えた視線はあまり芳しくない、色だった。

しかし、私の「名案」がそこで衰えるワケは、ない。

「この前、ウェストファリアさんとも話したんですけど………」

私の勢いに、予防線を張っている眼鏡の奥の瞳
それを見て「落ち着いて見える」様に、ゆっくりと話し始める。

「だからただ、少しだけ顔を出して、見て帰って来るんじゃなくて。そこで、生活して。朝、森の空気を吸って起きて、食べて、森と遊んで。緑と戯れて。そして畑なんかもやったりして、また陽が落ちて夜がきて、森の月明かりの中 眠る。そんなが、したいんです。そこで生きて、色んなことを感じたい、なぁと。」


その、白い魔法使いをダシに使う作戦から始まった「私の森生活案」。
その切符は、簡単には出そうにないけれど諦めるつもりは毛頭無い。

しかしそれはある意味「許可」ではなく「確認」なのだ。
本部長だって「止めるのは無理」だと知っているだろうし、それをしない方がいい事も解っているだろう。

きっと、ただ。
「検討」する時間が、欲しいだけなんだろうけど。


しかし「何を検討しているのか」、その表情をじっと観察していたが やはり読めない。
とりあえず白衣の観察を諦めて、自分なりにもう一つの名案を「どうするか」考え始めた。

そう 実は 
私には「もう一つの名案」が、あるのだ。


「フフフ 」

「おい、何か隠してるだろう。」
「えっ」

  いや  「隠して」は ない けど??


そう それはまだ、「話していない」だけである。

しかし私のその表情を読んだ本部長は「吐け」とひと言言うと、やっと彷徨くのを止め正面へ腰を下ろした。

「えっ。まあ、実を言えば。が、本命なんですけどね………ふふ」
「嫌な予感しかしない。」

「まあまあ。」

そう取り成してくれるのは勿論、イストリアである。

 私としては この名案が通れば
 いや 通すけど
 
 ここで この二人が暮らすのも いいと思うんだよね
 ふふふふふふふふふ


「早く言え。」

流石に、声に出ていた様だ。

半分嫌そうにそう言った本部長は、チラリと私の頭上に視線を投げ なんだか納得した様である。
私の背後にいるのは 勿論あの色金色

 何故だ。

しかし「事件ではない」事を確認したウイントフークは、少し追求を緩める事にした様で
眼鏡を外し拭きながら、私の返事を待っている。

私は その茶色の瞳が。
「似てるな」なんて、思いながら眺めていたけど。


「あ、ごめん。」

しかし流石に背後から肩を叩かれ我に返った。
そろそろ本気で名案を披露しなければいけないだろう。


「さて。それがですね??お待たせ致しました。遂に。「帰還の日」です!」

 わー  パチパチパチパチ


はい、すみません。

反射した眼鏡の奥は、見ない様にしてとりあえず
座り直した。
いかん。機嫌を損ねるのは得策ではない。


「あ、の。今回、その森へ帰るに当たって、シリーをザフラに帰そうと、思いまして………。」

「ああ、成る程な。それはいい。」
「ですよね、ベイルートさん。」

すぐにそう言ってくれたベイルート、複雑な顔の本部長は意外と「マトモ」な名案に何故だか渋い顔をして、いる。
それを見て笑っているイストリアが可笑しくて、私も釣られて笑って いたけれど。

でもこの部屋に入ってきた時から、彼女はなんだかずっと楽しそうだ。
どうしてなのだろうと視線を止めていたら、こう返事が返ってきた。

「いや。久しぶりに年相応な君が見れて、私も楽しいのだよ。そのはしゃぎっぷりを見ると、止めるのは流石に忍びない、なあ?」

その「お母さん」からの優しい瞳を受けて、目を逸らし眼鏡を直す 本部長
そのやり取りがまた、可笑しくていけない。


「で、どうするんだ?お前が連れて行く訳にはいかないだろう?」

「あ。」 

 あれ?? そんな 感じ???

 パッと 現れ パッと 消える、的な??
 駄目かな…………


チラリと背後を振り返るが、思案している様な色である。
とりあえず、私も具体的な方法は考えていなかったので共に腕組みをして考える事にした。




「でも、きっとその方がいいと思います。」

「確かにそうだな。その方が、私も安心だ。君が居てくれるのなら、その方がいいし。」

「父が、ヨルに対してどういう反応なのかは分からないですけど。きっと仲介にはなると思います。」

「えっ」

「カチリ」と目の前にカップが置かれた事で、状況の変化に気が付いた。
いつの間にか、正面には白衣ではなくシリーが座りその隣には朝
本部長はいつもの様に彷徨いていて みんなはお茶の時間になっている。

いや、しかしお茶が用意されているのはイストリアと私の分、だけだけど。


「あんた、そんなんで森とか大丈夫なの?やっぱり私も、行くしかないかぁ。シリーも心配だしね?」
「心強いです。」

「えっ」

二度目の私の反応に、朝の視線が痛い。

しかし。
いつの間にか進んでいた話
朝も「一緒に行く」、そこまで考えが至っていなかった私にとって その提案は。
とてつもなく有り難く、安心できるものだったのだ。


 てか なんで そこに「こたえ」が
 至らなかった かな?

私が一人、ぐるぐるしている間に頭脳チームが「円滑な森生活」の計画を練ってくれている。


「必要な「物」は、特には無いだろう?」

「そうだろうな。少し石と、ガラスがまだあったか………。」
「向こうには知らせた方がいいかな?いや、そのままでもいいか。」
「どうだろうな?俺も一緒に行こうか?」

「それはいいな。ヨルが会いたい者は限られてるだろうし、………多分やめた方がいい者はいないだろう。」

「場所は 」
「それは向こうで」
「森へは」 「シリーは 」


みんなの具体的な話
私の生活は石から始まり、なんとかなりそうなこと
その他 会いたい人はきっと「そう 思ったら」会えるということ。

そんな話を横から聞きながら、自分の中で「何が必要なのか」を考える。


 いや でも  別に?

 ない のか   いや あるの? か??

「おい、とりあえずこっちでシリーの支度はするからお前は自分の必要を考えておけ。すぐには、行かないのだろう?まあ、少しは待て。そう長いことじゃない。」

「はい。ありがとうございます。」

「私も。ありがとうございます。なんか、緊張しますね。いざ、帰るとなると。」
「いや、心配は全く無いと思うけど。でも私も「女神」としてザフラと約束したし………」

そう あの時。

出来るかどうか、分からないからはっきりした事は言えなかった彼への返事
でも、私の中では。
「探し」「できれば連れ帰る」事は決定事項だった。

それが、一つ叶ったのだ。


 いずれ 他の 子も?

 世界が 繋がれば ??

それはきっと可能だ。
私が「そう 思っていれば」。


「よし、じゃあとりあえず考えを纏めておきますね。シリーも準備があると思うし。なんか私が緊張するな…。」

「ま、君がいれば。万事上手くは行くだろう。とりあえずそれは考えておくよ。なにしろ君は、自分の変化と周りの変化、それをきちんとその目で。見て来ると、いい。」

「  はい、ありがとうございます。」

その、イストリアの言葉で。

どこかのスイッチが「カチリ」と入った私は、そのまま立ち上がりみんなに手を振って書斎を後にした。

なんだか一人で、「森のこと」を。
じっくりと、考えたくなったからだ。


「うーん どう しよう か。」

右 左
青縞の廊下をキョロキョロと見渡し、右側の白い扉に目星を付ける。

 あそこ なら。 うん。


そうしてとりあえず。

くるくるキラキラと回り光り始めたカケラ、その自分の中を纏める為に。

白い扉へ向かい、歩いて行ったのだ。



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