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8の扉 デヴァイ 再
託宣 2
しおりを挟むしかし青い壁が目に入ったと同時に、「じゃあ。」と何処かへ行ってしまった金色。
「ま、いいか?」
もしかしたら、本部長へ根回しをしに行ってくれたのだろう。
大きな青い扉へ消えて行った彼の後ろ姿を見ながら、そう気付いてホッとした。
なんだか、物凄い勢いで。
ここに、突っ込んで来られても 私が困る。
「うん。とりあえず、みんな久しぶり。」
頭上を舞うスピリット達は、戻った私の事を歓迎し徐々に数が増え始めた。
フワリと靡かせる 羽衣に 釣られているのか
それとも
何処かに隠れて いたのか。
ぐるりと一周する頃には、ホールに出てきた時の倍以上は増えている様に見える。
「 うわぁ。」
いつの間に、開く様になったのだろうか。
はめ殺しだった窓から、スピリットが入ってきている気がしてじっと見ていると、みんながガラスを通り抜けここへ舞い込んで来ているのが 判る。
「えっ」
しかし私の頭の中に疑問符は無く、「スピリットだから」という瞬時の納得から「色を愉しむ」ことに意識がシフトした。
う わぁ
て いうか もう なにこれ
「楽園」?
白い空間も いいけど やっぱり「色」は。
「美しい、な 」
そう、呟いて暫く
じっと上を見上げて、いた。
背中にナガがいるからか、首は痛くならないし
安定感も、ある。
だがしかし。
「なんか…………お腹空いた、かも?」
「あら、久しぶりじゃない。もう、いいの?」
首を傾げてお腹を摩っていると
タイミングよく聴こえた声は、いつもの あの声
くるりと振り返って。
少し離れたプランターの横に、ちょこんと座る灰色の毛並みを見つけた。
「朝、久しぶり!…………久しぶり?だよね??うーん、とりあえずみんなに会いたくなって出て来ちゃった。ここなら、大丈夫だろうって。」
「うん、まあ、そうね?………てか、それ………。」
きっとスピリット達の気配を察してここへ来たのだろう。
賑やかな頭上をぐるりと見渡した朝は、そのままピタリと白に視線を止めた。
「うん、まあ、とりあえずいいわ。お腹空いたんでしょう?食べながらにしましょうか。てか、食べれるのかしら………」
「うん?………とりあえず、行こっ。」
「まあ………大丈夫か………。」
何を心配しているのか、ブツブツと呟いている朝を横目に
ポンと白の背から降り、さっさと食堂へ歩き始める。
イストリアさん いないかな?
もう ご飯終わったかな? てか 今何時??
そうして自分の時間感覚が、かなり曖昧になっている事をお腹の具合を通して知る。
それに、私が「あの間」 全く「食事をとっていない」ことも。
「えっ。」
「なによ。」
「えっ??あれ?? え」
んん? あれ ? れれれ???
ごはん 栄養 いつから?
あの色 チカラ お腹 空かない
アレしか。 摂って ない け ど ???
無意識に、カチリと食堂の 扉を開けて。
ぐるぐると回る、頭の中
しかし目の前には私の期待していた薄茶の瞳が、見える。
思わずその、優しい色に駆け寄りながら
こう言った私の姿は、きっと 真っ赤だったに、違いない。
「えっ イストリアさん、私。「アレ」が 栄養なのかも?????」
「まあ、そうでも、あるのだろうね?」
「そんなの大分前からそうじゃない。」
そうしてすんなりと肯定する、二人の前で。
案の定、文字通り全身真っ赤になった私は
久しぶりの食事をする事に、したので ある。
「それは「託宣」だろうね。若しくは「神託」とでも。その託宣を手伝ってくれるのが、この蛇なのではないかい?」
「 成る程。「託宣」。」
「託宣」「神託」って。
私が そんな 大層なもの 持ってくる
そんな 「器」あるんだろうか 。
じっと黙って考えていると、私の頭の中を読んだ様に朝がこう言う。
「あんた、今見た目だけは「女神様」みたいだからね。言っとくけど。まあ、中身も「まあまあ」よ。」
「えっ」
それは。
朝にとっては 「最上級」の 褒め言葉で ある。
「なにしろ、「そのまま受け止める」と。決めたのだろう?それならそれで、なんの問題もないよ。そもそも今、君がやっている事と、そう変わりないと思うけどね?」
「 確 かに??」
「解って、いるとは思うけど。なにしろ「降りてきたもの」をそのまま受け止めて、君なりに生かしていけば、いいんだよ。そう難しく考える事はないさ。これまでもずっと、君の考えに沿ってやってきた祭祀や、祈りも。きっとずっと、そうだったのだろうね。成る程今なら、それがよく、解るな。」
そう言って、ニコニコと優しい瞳が私を見つめるから。
「その気に」なれば いいんだ
私の「なかみ」も そう言っている気がして。
「ふむ。それなら、そうする、ということで………。」
有り難く受け取り、「かたち」の中に仕舞っておく。
きっとまた、その時が来れば「最適なかたち」になって 弾き出されてくるのだろう。
うむ。
そうして運ばれてきたスープをちびちびと啜りながら、シリーにニッコリと頷いて視線で「美味しい」と伝えておく。
なんだか隣では、既に白とナガの検分が始まっていて
気を逸らすと本部長に攫われはしないか、私が心配だったからである。
「ふむ。これについては、「ヨルだから」という以外、無いだろうな。」
「まあな。」
「しかし面白いよね?きちんと守り易い様に、虎と蛇、そして光の珠。細かい部分は見えないが、やはり背後が光っていると思わないかい?」
「…………見えると言えば、見える、が。」
「まあ、あまり気にするな。人間に影響は無いし、あっても良い影響だ。」
「まあ、そうだろうけど。単純に気になるんだよ、なあ?」
「まぁな。」
親子のやり取りに狐がチャチャを入れているのが、中々面白い。
私の心配はやはり杞憂だった様で、流石の本部長も「虎を連れ去る」気には、ならないらしかった。
しかもどうやら、触れられない らしい。
実体を伴ってはいるのだけれど
透けている
そんな感覚に 近いのかも、知れない。
何度も試している白衣の健闘を横目で見ながら、
私達はお茶にする事にした。
あの人は放っておけば いいし。
マシロが運んできてくれたお茶を受け取り、興味深そうに向こうを見ているその青い瞳を、じっと見る。
やっぱり、思ったけど。
白と マシロは なんか 似てる な ??
しかし、その私の「なか」を読んだ様に
マシロは静かにこう答えた。
「あれは。私達より、「より高い光」で、もっと依るに近しいものです。」
「えっ?」
「でも、依るも少し「私達寄り」に。変化した様ですね?」
そう、ニッコリと笑って。
皿を片付け、厨房へ戻った後ろ姿、変わらずきっちりと纏められた 薄灰色の髪。
思わず無言でくるりと向き直ったけれど、私を迎えた薄茶の瞳は既に 答えを用意している様だった。
「スピリットとは。うちの畑にいる、花達の様なものなのだろう。あれが特定の「形」を持たず、活動出来る形と言うと分かり易いかな?だからきっと「自然」に、近い。君は「緑」になったと、言っただろう?だからじゃないかな?」
「 えっ、たしかに? はい。」そう ですね ?
返事をしながら思わずくるりと、白衣を探したけれど。
多分、聞いちゃいない本部長は白の周りをぐるぐる回っていたし
でも やっぱり紫の瞳は。
ニヤニヤしながら、こっちを 見ていたけれど。
とりあえず「コホン」と一つ、咳払いをして
薄茶の瞳へ向き直った。
「とりあえず、「外」に出ればこの子がどんな子なのか、解ると思ったんですけど。なんか、まだ普通の蛇、ですね………?」
「………「普通の」?」
「蛇………。」
向こうから意味ありげなツッコミと、向かいのイストリアの声が、重なる。
視線を飛ばすと本部長はナガに逃げられていて、何故だか千里に絡み付きシュルシュルと白衣の手を躱している 白い線
得意気な紫の瞳は、ナガと本部長を交互に見ながら楽しそうである。
「その「神託」が降りない時はただの蛇…、いや既に普通の蛇じゃないが、とりあえずただの蛇の形をとっているのだろう。追々分かるよ、きっと。」
「そうですね………。なら、部屋の様子でも確認しに行こうかな?」
「そうだね。時折マシロが掃除に入っていたけれど、そのままになっている筈だ。入り用な物は無いかも知れないが、何かあれば持って行くといい。」
「はい。」
「まだ 戻らないのか」と、訊かれるかとも思ったけれど。
やはりイストリアはその辺り、解っているのだろう。
私の事を思って、訊かずにいてくれるのが 解る。
ゆっくりと顔を見合わせ頷いた私達に、下から朝の誘いが 来た。
「じゃあ、付き合うわよ。魔女部屋も行くでしょう?なんだか、心配だし?心配はないんだけど、違う意味で。」
「えっ?どういう事??」
「だってあんた一人で行かせたら、あっちもこっちもってなって終わらないじゃない。」
「あ、それは、ある。」
「まあ、私達は君がどっちに居ても。いいのだ、けどね?」
「 ありがとうございます。じゃあ、行ってきますね?」
その、優しい言葉に思わず「こっちでもいいな」と
思うけれど。
なにしろとりあえず、一度帰る必要はあるだろう。
こっちも 見て あっちに 帰って
それでまた どっちが いいか きっと解るし?
焦る必要は、ない。
どっちだって いつでも。
「私の場所」は あって いつでも自由に
動けるんだから。
「はーい、行くわよ?」
「あっ、待ってよ、朝!じゃあイストリアさん、また!」
「はいはい。ゆっくりね。」
「はぁい。」
そうして、開いた扉から灰色の尻尾を追いかけて。
「白、こっちだよ。」
そう言って、青縞の廊下を 駆けて行ったんだ。
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