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8の扉 デヴァイ 再

みんなの「可能性」

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 「全てを 真っ新に する」って。

 「白紙に する」って。

あれからずっと 考えて いるのだけれど。


「案の定、ノープランよ…………。」

雲間から、チラチラと下を覗きながらすべすべと艶のある毛並みを、撫でる。

下を見ているのか
白に 寝そべっているのか
半々状態の私は 凡そ「女神」などとは呼べない格好で。

フラフラと 雲間を彷徨う日々を、送っていた。


「しかし。………焦って、どうなるものでもない事は 流石にわかる、もんねぇ………?」

私が落ちない様、支えてくれているナガ
ピョンピョンと 雲間を楽しそうに駆けるウン。

返事の無いその二人に話し掛けながらも、フワリと浮いた澱を黎が燃やし易い様に 手で払い 風に流す。

この頃なんだか「澱の扱い」に慣れた私は、自分で掴める時は
掴んで。
ポイ、と黎に投げ燃してもらって いた。

なんだか丸投げよりも、やはり「自分で」という部分が大事な気が、していたからだ。


「まあ、この子ナガも私の光なんだろうけど。」

しかしなにしろ「その時」が来るまでは、「純度を上げる」仕事しか、無いと言っても過言では無い。

時折金の蜜は創るけれど、それだってチョチョイのチョイ、一瞬である。
ある意味「澱のベテラン」になってきた私は、それが「いつ 浮きやすくて」「何に反応するのか」が解っていたから。
ここ雲間にいる時以外は、あの臙脂の袋に入っている鍋に
澱をポンと入れて、纏めて創っているのである。


  まあ 流石に あの袋に直接 澱を
  入れるのは。

   躊躇するよね うん。


上ではそんな事を考えているが、白はゆっくりと雲間を進んでいる。

ここは今日も、美しい白で 時折混じる青と灰色
見上げる上は 光。

「なに色」とも、表現のし難いその光
しかしその色を見るのが好きな私は、「私もあんな光り方だと いいな?」なんて、思いながら。

ウェストファリアの言っていた
  「鏡」の様な 色って どんなだろう と。
考えていた。




「なん、か。  見たことあるな、あの色は。」

暫くダラけていたのだが、流石に「いかん」と身体を起こした私
するとすぐ、少し遠くの、雲間に。

「見知った光」が二つあるのを見つけ、白の背をポンと叩いた。
白はそうすれば、大概私の意図を察してくれるからだ。


「うーん、一つはフリジアさんじゃ、ない??」

もう 一つは。
誰だろうか。  見たこと あるんだ けどな ?

徐々に近づく雲の隙間、見えてくる「青」
そこはきっと「青の区画」、それに気が付いて。

「ああ、メディナさんじゃない?」

そう、私が「ポン」と手を鳴らした瞬間。

何故だか 「スポン」と 雲間に、落ちたのであった。




 えっ てか

    なん で 。

「降りよう」と思って 降りる事はあれど
こうして「落ちた」事はない。

ぐるぐると目を回している私を前に、キョトンとしている瞳と 納得の瞳
その二つが、なんだか 面白くなって。

案の定 私は一人、笑っていた。



「はあ、やはり。話には聞いていたけれど実際見るとなかなか、どうして。」

「凄いだろう。」

何故だか、私の姿について。

驚くメディナにフリジアが、自慢気に答え
改めて「この姿」の周りをぐるりと周り、二人はしげしげと何かを確認している。

私は落ちた原因が、小さくなった白だと思い
そのまま抱き上げ正面に据えて。
お説教ではないが、睨めっこの様な形で「困るよ」と意思を伝えていた。


「で?今日も色々見て来たのかい?蜜を配る以外は、散歩でもしてるのかいお前さんは。」

「はい。まあ、そうです、ね?」

メディナに会うのは久しぶりだ。

この姿になってからは勿論、その前からも暫く会っていない。
ラガシュや青の家、気になる事は色々あるが
私が口を出す問題でもないことも、確かだ。

しかし、そう考え始めた私を見て腕組みを始めたメディナ
ここは重厚な本棚が並ぶ、スッキリとした書斎で
「ああ あの時隣にあったメディナの書斎ね」と。

私が部屋をぐるりと見渡し納得する頃には、二人の確認もどうやら終わった様で、二人はじっと私の背後にある「光」を見ていた。



くるくる フワフワと 舞う 

 時に順序を入れ替えながら
  しかし 定位置へ戻り 輝き 

 また くるくると 廻る 光


その、視線の先にある「達」が
二人に見えているのかは、分からない。

しかし 視線はそこに、止めたまま。
メディナはゆっくりと こう話し始めた。

「お前さんが、私達の事を心配しているのは、解るよ。みんな、「なにか」と戦っている。だがそれは戦わなくてはいけないものではなく、どれも「自分自身」なんだろう。だが、それが一番厄介な「敵」であり、しかし一番心強い「味方」でもある。それぞれの内での、整理がつくまで待ってやって、欲しいんだ。」

「はい。それは、勿論。」

私の返事に、しっかりと頷きつつも念を押す様に再び口を開いたメディナ。
その青灰色の瞳が、灯りに反射して キラリと、光る。

「お前さんの「心配」も、解る。だがね、「前もって用意しておく」のと、「要らぬ心配をする」のは。ちょいと、違うんだよ。それは分かるかい?」

「?」

首を傾げた私に、優しく諭す 青灰色。

私の「なか」でくるくると回り出した、光が。
これから齎される光を、きちんと捉えようと光り始めたのが わかる。

「お前さんは。ゆく先を「限定」しないでやって、欲しいんだ。「こうなるんじゃないか」、という心配と「これだけ用意しておけば後は大丈夫」というのは、違う。は、解るかい?お前さんのやる事は、あの蜜を創る事や祈る事、それだけで、いいんだ。「心配」は要らぬのだよ。それは私達の仕事だ。きっと「変わらない」と思ってしまう事で、「変わる」が消える。お前さんの思いや祈りは。そのくらいの、効果はあるだろうからね。」

その、言葉の途中から。
メディナの言いたい事が解って 自分の何処が、ズレていたのか。

段々と はっきり解りカケラ達が散り散りに
光りながらも 「固まらずに」散ってゆく。


そうして自分の「位置」を修正しながらも、きちんと真ん中に戻り、青灰の瞳を真っ直ぐに見直す。

 揺れない ように ブレない ように
 私のやることは 「位置の修正」
 「罪悪感」じゃ ない

  これは 「私の為の 光」なんだ。

それを沁み込ませながら、ゆっくりと口を開く。


「 はい。」

 確かに。 そうなんだ。

 過剰に「心配」するのと
「用意」だけして あとは「信頼」するのとは。

 全く、違う。

私が、しているのはきっと その「過剰な心配」で
そう、「思ってしまう」ことで。

 そう なる 下地を  創るかもしれない と

   いうこと なんだ。


一言だけ、返事をした後 じっと、その 意味を。
改めて沁み込ませている私に、柔らかな声が降ってきた。

「お前さんの、「想い」は勿論、解る。しかしね、それは。お前さんの「未来」に、きちんと全て使ってやりなさい。」

「え」

 未来 ?

   それは  この前 金色にも。
 言われた言葉 「未来を 受け入れる」

メディナの言った「未来」の色は 少し違ったけれど。
でも きっと「質」は 同じ なんだ。

真剣な青灰の瞳、それをじっと見つめながら聞いていると。
それが、よく わかる。


「お前さんの「思い」は、未来を示す指針の様なものだと、私は思うんだ。金の家の事、セフィラの事。この場所の軸を示す存在のお前さん達の行き先、見ている方向はきっと私達の為にも、なるだろう。だから、自分の力を。その「ヨルの描く未来」の為に、全て使っていいんだよ。それが間違いなく、「みんなにとって一番いい事」なのは知っているからね。」


  「私の 成る もの」「行き先」
  「みんなの 方向」「全ての 光へ」。

 私が 私の思う方向へ 「全力で 進む」ことで。

 みんなが 上を 向ける 
 きっと 明るい方向への 風が吹く。

 「流れ」を うえへ 巻き上げる 風が。


それはきっと そういうこと

だからまずは 自分が一番に。

 真っ先に 空で全力で 輝いて。

  「こっちだよ」って 「光って」「見せる」んだ。



 再び自分の「真ん中」に 灯るひかり
  「真ん中の 星」それはきっと ずっと私の「なか」「真ん中」に
 あるのだけど。

 自分でも 時折見失って しまうんだ。
 きっと 「下」を見て いるから。



「 成る、程。そう………ですよね。」

思えば私は ずっとずっと。

立ち止まっては 走り出し、歩いて、また走って
飛んだり立ち止まったりして。

しかし時々戻って、やり直したり
繰り返して 反省したり。


「そう、お前さんはね。充分、んだよ。もう、他人ひとの事は、いいんだ。言われなかったかい?イストリアに。「自分の事だけ、考えていろ」と。」

そう、私に駄目押しをしたのはフリジアだ。

「うん、………はい、言われた様な気もするんですけど、なんかみんなに言われてるからな………。だから、結局。そういうことですよね。」

「そう気落ちする事は、ないんだよ。それがお前さんの良いところでも、あるんだからね。でも、は、そうは行かないという事さ。あまりにも手を差し伸べ過ぎる事は「甘やかす事」にも、繋がる。それはお前さんにとっては足踏みになるだろうし、ある意味前進するお前さんの甘やかしにも、なるだろう。く、進むのだよ。これまでと違う事は、自分が一番よく。解って、いるのだろう?」


二人の 真剣な眼差し
それはしっかりと 「この世界デヴァイ」に根差した光
そこから伝わる 場の暖かい、空気。

深い青の中、光る灰色が銀のように美しいメディナの瞳
いつもは抹茶に近いフリジアの目もここで見ると、なんとも言えない深さで。


 その二人の 「いろ」を受け
  私の中にシュルリと展開する 「私の場」

深い、緑を受け いつかどこかで見た「色」「景色」が、浮かぶ。

 静寂が満ちる 空間  雨上がりの露
    少し冷えた 空気    黒塀と 石垣 
 そこにしっとりと這う 苔が。

私に言葉を沁み込ませる「場」を ふわりと創り出し
更に時折吹く 青銀の風が。
何度も「言葉の色」を繰り返して くれる。


 「みんなは 救わなくてはいけない」存在では なく
 「救われなければ いけない」程 弱くも ない

 「私は 私の 道を」「最善を」「最高を」


   「   目指すことに よって」。

 また 「全て」が 底上げされて

   「みんな」に 光が降る こと

 「より強く輝く星が 見える」こと。



 きっと他者ひとには「見えない」想像の場の展開

しかし二人は無言の暖かな視線で私を包み
私がその言葉を「沁み込ませ」「飲み込み反芻する」のを。

じっと待って くれている。


 こうして 温かい言葉をくれる人が いること
 この場が安心できること
 私を信じて 背を押してくれる人が いること。

そのどれもが物凄く有り難い事で、自分が「幸せ」なのだと。

「真ん中」が ぐっと深く教えてくれている。

少しだけギュッとなる胸はしかし、涙腺君を呼び起こす事はなく
ただ 深く深く、私の「なか」へ 沁み込んで。


 ああ が  きっと。

   あの 「根」に なるんだ。


 なんだか そう  思ったんだ。


そう、「あの根」とは 神域にある「魂の木」の根
拡大 拡張するあの場と共に、深く根を下ろしている
私の「源」「要」のことだ。


 成る程 あれは。 
 私の みんなの 「愛」で。 できてるんだ
  
  拡大 成長 して  ゆくんだ。



「成る程、成る程…………。」

しみじみと頷く私を寧ろ微笑ましく眺めるこの二人は、なんだか楽しんでいる様だけど。

 まあ それなら それで。  
 うん。



結局 どのくらいそうしていたのかは、分からないけれど。

カチカチと 鳴る茶器の音に、顔を上げる。

「あ。」

 すみま せん………。

そんな私を待っていてくれた二人と目が合い、苦笑いをする。

そうして全く 予定はしていなかったけど。
和やかなお茶会は始まったので、あった。
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