透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ 再

依る という存在

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ゆっくりと、時間が流れる午後。

あの子がいないと、ゆっくりできるんだけどなんだか物足りないのは確か。
同じ様な思案顔の、イストリアの顔を見ながらそう思う。

この人も、きっとあの子の事について考えているんだろう。
そう思って、話しかけてみた。


「結局あの子はまだ沢山の「罪悪感」と、戦ってるみたいだけど。」

「まあ、あの子の持つものからしたら。仕方が無いのだろうね。私達は、見守る事しかできないけれど。」

「まあね。それも、あの時からの定め、かしら。」

「なに?そうだね、君は子供の頃から一緒なのだものね。」

「そうなのよ。あの時はさぁ、あの子が光ってて………」


そうして私達が依るの話をしているのは、フェアバンクスの区画の客室だ。

依るが神域に篭って暫くしてから、イストリアがこっちへ来てくれた。
もし、あの子が出て来たら確かにあの白衣の眼鏡よりは、イストリアの方が断然いい。

珍しく気の利くあの男に感心しながら、最近の日課、お茶会は開かれていた。



 「長い長い間 「女性」に染み付いている「罪悪感」」

 「恐怖心」「道徳心」「無価値感」

 「重さ」「怨み」「最早 重過ぎる なにか」。

そんなものと、あの子は今 戦ってるんだろう。

それが解るイストリアは何とも言えない表情で、毎日あの廊下へ散歩に行っている。
多分、依るが出てきたならば一番に迎えるつもりなのだろう。

その後ろ姿が、とても有り難かった。



「それにしても、あの男気焔も凄いわよね。よく、まあ、そう…」

イストリアはどんな話題でも、イケるから私としてはとても話し易い。
基本的に「女性」は、そっち系の話に「壁」がある。

まあ、依るが今戦っているのがそれなんだろうけど、この人はいい意味で「少しおかしい」から。

でも、こういうひとが増えた方が、世界には優しいと思うけどね。


「まぁね。彼も「普通」ではないのだろう?正確に「なに」かは知らないけれど、きっと彼も「世界と繋がっている」のだろうね。だからある意味、「そこ」は心配無いのかも知れない。「世界は広く、無限」だ。本当は、きっとね。君なら解るだろう。」

「まぁね。」

伊達に100年以上、生きてないわよ?

だからこそ、「私」という存在が可能なのだろうし人間ひとが不思議や怪異を認めていた時期も、あった。
でも、いつの間にか「仕組み」がきっと、何かどこかのラインを越えて。

きっと、みんなが迷子になっている、ここ現代とは。
全くもって、なんでどの世界もなのかしらね?
いやいや、猫が悩む事じゃないわ、これ。


そうして私が欠伸をすると、「クスクス」と笑うイストリア。
でもこの人はまだ、真面目に考えてたみたいだけどね。

「あの子が直面しているのは、私達「生命」の、存在の根本でもある力。その「性的エネルギー」に関わる事だ。しかし、「そこ根本」を否定していては、この先へは進めないからね。苦しいだろうが踏ん張り時だよ。」

「なん、か。「複雑」よね、人間って。私は人の間で暮らして長いから、気持ち解らなくもないけどさ。なんでそう、自分達で複雑にするかな…。」

「ハハッ、間違いない。私達は自分で迷路に迷い込んでいる様なものだからね。私は一人、勝手に抜け出してしまったけれど、あの子は。「一人で」は、行けないのだろう。それこそが「あの子の存在意義」なのだろうけど。まあ、そこまで言うと負担になるかな…。」

でも。
実際、そうなんだろうと 私も、思うから。

「うん、否定できないわ。」

なんでなんだろう、とは思うけど。

でも、人間一人一人の存在理由なんて、それこそ「神のみぞ知る」ってやつよね。


自分でお茶を注ぎながら、私にオヤツを勧めるイストリア。
厨房にも出入りして、何やらハーブを使って作っていたやつだ。
美味しそうね………。

匂いを嗅いでいると、再び話し始めたけど。


「誰をも、「納得させる」必要は無いのだけど「自分」が納得しないと進めないからね。「知っている」のと「わかっている」のと。「実際やる、なる」のは違う。あの子は、繊細だ。だからこその、あの「道」なのだろうし、だから少し時間は掛かるだろうね。なにしろ「女性全体」にかかる、問題の様なものだ。いや、「人間全体」、かな。これはね…。」

「まぁね………。」

「しかし、本当の意味で自分を「甘やかす」のも、「癒す」のも「赦す」のも。自分にしか、できない事だ。それこそ、壮大なる「旅」。」

なんだかあの子がイストリアに出会った頃のことを、思い出すわね。
あの時は確か、なんだか「女神」だとか、言ってくれたって。
喜んでたっけな、あの子は。


「こうなるともう、「奉仕の道」なのだよ。最早人間の道を超え、「人類全体」への、奉仕。女達だけならず、男達へも祝福となるあの「仕事在り方」。
「捻じ曲げられた「性」の解放と修正」、あの子が「そうする」「なる」事で、齎される祝福と恩恵、降り注ぐ光。皆に届くには時間は掛かるだろうが、それもまた、流れかな………だが、「こと」が事だけに、あの子にとっては高い山なのだろうな。」

「そうね………」

「まあ、だからこその、「彼」なのかも知れないね。人には無理だろう、色んな意味で。」

「フフッ、そうね。それはあるわ。あの子が恋しなかった理由、それよきっと。」

そう思えば。
「運命の人」、なんて言っていた頃が懐かしいわ。
まさか私もそれが「石」だとは、思ってなかったけど。


「成る程ね。やはり、「そうなるように できている」のだなぁ…。」

「ね。不思議よね。」

しみじみと頷く私達。
どこか遠くを見る様に、呟く優しい声が心地良い。

「雨の様に、風の様に、光の様に。ずっとあの子に降り注いで、あの子が、受け取り満たされていたならば。きっと世界は輝くだろうからね。………さて、私達も仕事をしようかな。まだまだこちらはやる事が、ある。新しい石も現れたし、やはりあの子は「なにかを運んでくるもの」なのだろうね。いつだか、「運び屋」だって、自分でも言っていたけど。」

「そうねぇ………実際あの子が「なんなのか」、それは謎よね。まあ、放っときゃ自分で見つけてくるんだろうけど。五月蝿そうだわ。」

クスクスと笑いながら頷くイストリアも、ある意味依るが運んで来た「出会い」だろう。

あの子がいなかったら。
ウイントフークはきっとこの母親に会うことは無かったかも知れないしね。


「なーんか。早く出て来ないかな。いたらいたで、五月蝿いんだけどいないと静か過ぎるわね。」

「まあ、私達は気長に待とう。時間は掛かるのだろうけど、きっと「向こう」は流れが違うかも知れないし。どうする、いきなり「大人」になってたら?」

「いやだわ、それも…。」


結局私達のお茶会は、最後ふざけて、終わる。

やっぱりあの子がいないと静かだし、ここは綺麗だけれどスピリットも大人しい。
なにしろ早く、「いっぱい」になるといいんだけど。

イストリアの部屋を出て、青のホールを通り過ぎながら
窓の外を眺めてそう思う。

そうして今日もこの空間だけは、平和に緩りと過ぎて行くんだけどね。


なんだか最近外は、大変みたいだけど。
あの眼鏡がバタバタしていたけど、とりあえず猫の出る幕じゃ無いのは、確かよ。
うん。

だからある意味、あの子はまだ寝てても正解かもね?

そう思って、とりあえず私も昼寝をする事にしたわ。




☆8

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