透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ 再

通過儀礼

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「「儀式」と「祭祀」って、違うよね………。」

「なに、言ってんの?相変わらずね?」


今日はレナの所に遊びに来ている。

その「空気」を変えたい件でのリラックスについて、それに関連するレナの店を見てみたかったのと。
実際まだ来たことがなかったし、手伝える事はないのか、久しぶりに会いたいしと、なんだかんだと理由を付け、許可を取ってやって来たのだ。

実際問題、私が「誰に会えるのか」はっきりとは把握していない。
でも多分、「望めば」誰にでも会うことは「できる」のだけど、やるかどうかは別問題なのである。


「確かにじゃあ、レシフェは可哀想ね………。」

会うなりそう呟いて私を観察し始めたレナは、以前と変わらぬ様子でぐるぐると周りを回転中だ。
別段驚く様子も見せなかったが、どうやらレナにとっては私が「着替え」をした感覚なのだろう。

「色が」とか、「ああ、、ここがこうだから雰囲気がね」なんて呟きながら回っている。


「でも、色だけ…じゃない??」

「………。」

無言の呆れた茶の瞳が、今日も綺麗だ。

その視線を躱しつつ、小さな可愛いらしいレナの店を隅々まで観察する。

貴石の側にある小さな店は、二階建ての可愛らしい外観。
白に淡い水色が、雲に溶け込む目立たぬ造りだけれどここグロッシュラーにはそもそもあまり建物が無い。
だからどうしたって目立ちはするのだけれど、貴石の外観がそもそも派手だ。
だから、どちらかと言えば。
まあ、目立たないのだとは、思う。

「ねえねえ、二階はどうなってるの?」

「二階は施術室よ。やっぱり二人きりじゃないとリラックスしてできないじゃない?結構秘密を話しながらやる事も多いし、まあ大概姉さんの愚痴になっちゃうけど。やっぱり、あそこ貴石じゃ、言えない事もあるしね。」

「成る程。それはいいね………。」

なんだかんだで準備は大変だった様だが、レシフェの根回しとこの頃の変化のお陰で店に対する風当たりは思ったより強くないらしい。
それよりもきっと、畑も出来て少しずつ解放され、この店もあり「場所が増える」。
それは単純に気持ちが開放的になり「選択肢が増える」事に他ならないと、思う。

「だから、か………。」

この頃感じていた変化と解放感は、畑の所為だけじゃなかったのだ。

レナの夢が、叶った。
まだ、走り始めたばかりだけれど。

 でも。
 ここで。

 あの 「なんにもなかった」場所で。

「希望」を持ち諦めず 積み重ね 掴み取ったこと
それがみんなの為に なることなこと

それを「見せる」事でまた みんなの「光」に なること


「なにしろどう、考えても。素晴らしいよね………。」

呟きと共にウットリと内装を見渡しながら、両手を組み祈りの姿勢でくるりと回る。

白を基調にした内装、所々にあるピンク、イストリアの店のハーブ。
落ち着いたドライがリラックスの香りを放ち、要所要所に置かれた緑がこの島の変化を物語っている。

「ねえ、これは?」

「ああ、それはこれから植える苗よ。ここで育てて、ある程度になったら畑に植え替えるの。丁度いいでしょう、緑があるとやっぱり人はリラックスするものね。この頃それが、よく解るわ。」

「うん…………なんか。良かった、うん。」

そんな私をじっと見つめていたレナは座り心地の良さそうな椅子を私に勧め、自分も向かい側に座る。
小さなテーブルにお茶の支度が調い、少しだけ甘い香りが部屋に漂い始めた。


「で?何が、「儀式」なワケ?また何か始めるつもりなの?」

注がれるのは紅と言うよりピンク寄りの、やはり可愛いらしいお茶である。

「うーーん?なんか、分かんないんだけど「空気」を変えようと思ってたら「儀式」っていう言葉が降って来たんだよね…。なに、するのかは分かんないけど。」

「ふぅん?まあ、あんたの事だから何かしらの意味はあるんだろうけど。………何だろうね。」

「うん………あ、ありがとう。」

差し出されたカップを受け取り、両手で挟んで匂いを、嗅ぐ。

 甘い 香り
しかしハーブの甘さだからだろう、すっきりとしたその優しさに鼻からフワリとピンクが流れ込んで。
なんだか胸が、温かくなる。


 「儀式」 って なんだか 固い イメージ だけど。


 「癒し」「変化」「身体」「心」「なかみ」

 「魂」「開く」「解放」「新しい なにか」


フワリとしたお茶の香りと優しい甘さ、正面の私を見つめる温かい瞳、フワフワの青い髪。

ゆっくりと開き解放された私の「真ん中」は、次々と新しいカケラをコロコロと転がし「新しいなにか」を創り出そうとし始めている。

そんな、中。
くるくると変わる レナの表情
その茶の瞳が、キラリと光を含んだところで。

ピタリと、私の顔にその視線が止まった。

酷く納得した様な、けれども少し複雑な、色で。


「それなら、まあ。「あれ」でしょうね。」

「ん?「あれ」??」

「そうよ、多分「なか」が整ってきたからなんじゃないかなぁ…とは、まあ。んだけど、ね?」

ん?

意味深に強調しながらそう話す、レナはフワフワの髪を纏めるように弄りながら、私の事を見つめている。

なんだろう?

 笑い出しそうな 心配そうな
 だけど 興味が ある  ワクワク?
 でも 話したくてウズウズする みたいな

いや? 多分 半分面白がってる?? な? これ。

「えっ、ねえ、なぁに?それ??」

「うん、まあ、必要だとは、思うのよね…多分それは自然な事だし、その先に進むための「通過儀礼」とでも、言うか。でもヨルだからなぁ………私的には単純に興味があると言うかいや、無いと言えば嘘になるわね………。エローラがいるといいんだけど。あ、でも余計それだと恥ずかしがっちゃって無理か………。でも、なぁ………。」

一気にそこまで喋ると言葉を切り、じっと私を見つめる茶の瞳。

「やってみないと、解らないわよね。でもなんか、世界がひっくり返りそうで怖いわね………。」

 えっ 

どういうこと だろうか ??

「………なにを、「やってみる」の???」

しかし 同時に
 私の「なか」にも舞い始めた カケラ

 「エローラ」  「恥ずかしい」

  「必要」「自然」「なか が 整ってきた」

 「その先」   「通過儀礼」


うん?

 なか が 整って きた ら ???

それ 即ち?

「えっ、「外」も 整え   」るって こと ???

「まあ、でしょうね。だってヨルは何か新しい風を入れたいんでしょう?…………フフ、「新しい風」ね、上手い事言うわ。駄目だ、可笑しい………」

えっ  そんな 笑う  とこ ??!??


目の前で爆笑し始めたレナを尻目に、頬を押さえて自分を保つ。

その「意味」が勢いよくぐるぐると「なか」を飛び回り、渦巻き始めたのを感じながら。

ただ、なす術もなく、傍観していたのであった。

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