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8の扉 デヴァイ 再

性質

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 フワフワ ふわり

  揺ら揺らとゆれる

      暗い夜道   帰り道

フワリとしている足元はしかし 覚束ない 訳ではなく

ただ なんとなくぼんやりと。

その 美しい色を眺め 歩いて、いた。


「まだまだ……抱えるものが、あるって事なんだろうけど…。」

胸に手を当てながら、ふと頭上の紺を見上げる。

まだそう遅くない時間だが、珍しく「暗色」のこのまじないの空はしかし、向こう側はいつもと同じ薄紫に溶け込んでいるのが分かる。

「えっ?私の、所為??」

どうなのかは、分からないけど。

とりあえず金色が迎えに来るまで桟橋ここで待とうと、夕方の散歩を洒落込むつもりだった。
しかし殊の外、外は暗かった様だ。

だがこの空間で危険な事は、まず無い。

「繋がった」感覚が強くなっている私は、くるりと辺りを見渡し一つ頷くと、とりあえず桟橋に腰を下ろして自分の「なか」に視点をくるりと移すことにした。

なにか。

少しだけ、引っかかっている事が、あったからだ。


「なーーーんか。うん、そりゃ「残り」が、あるのは分かるんだけど……………。」

つらつらと浚う自分の「なかみ」、所々に残る澱。

しかし、その「引っかかるもの」が少しだけ違う「色」をしている気が、するのだけど。


 うん いや?

「色」じゃ なくて?  「匂い」?
  「気配」??

「異色」と言う程でもないがしかし、気になる「違和感それ」をじっくりと探り検分していく。

違和感それ」は。

一体なんなの、だろうか。


鏡面の様な 青い水
 空より 明るい その綺麗な いろ

   風は無いけど 少しだけ
     何処からか伝わってきた 波紋が
    流れてゆくのが  わかる



「あ。」

えっ  まさか?

  いや まさか、でもない んだ

でも。

 そりゃ  か 。


「ねえ、ちょっと?」

湖面を見ていた視線を上げ、何も無い宙に向かって問い掛ける。

そう、多分。
「返事」を してくれることは 分かっていたから。


 「なん だ 」

「………やっぱり。黎、だよね………そりゃ、か。だって「私」じゃ、ないもんね??」

確かに。

「違和感」と言うには小さ過ぎる差異、それは私達が「同意の上」、一緒になっているからなのだろう。

「えっ?うん?でも??………じゃあ、この「なんとなく」は、ずっとある、って事???」


 「  いや  こと も


   出来よう  よ   しかし  」


途切れた言葉、しかし、なんとなくだけど。

言いたいことは、解る。


「うーーーん。確かに。でも。」

多分、黎はどちらかと言えば私の「なかみ」より、私の連れてきた蝶達に近いのだろう。


 連れてきた  持って来た
   積み上がって 固まった  みんなの 「想い」


溶け込むことも、出来るが「それ」は大き過ぎて。
きっと自然には「成らない」のだろうし、私の準備もきっと必要だ。

準備それが、「覚悟」なのか「決意」なのか「許し」なのか。

なんなのかは、まだ分からないけど。


「でもなぁ……………。」

 別に。

 ずっと 一緒でも  いいんだ けど?


顔を上げ、無意識に紺色の部分を目で探しながら、そう思う。


      「運び屋」 

 いつだかも そう 思った し

 なんだか 馴染んだ  この 「色」は。

 
「無いなら、無いで?寂しい、かも………?」


  「 まあ  お前 は 

         性質が  強い から  な」


「ん?」


           ??


それは、どういう事なのだろうか。



  「 見てきた ろう

   持って来た ろう ?


      それで 解ろう  よ  」


 「しかし 

   では ない


  そう      


     持って来た   もの  」


 「 お前は そう   もの 」


そう響いた 瞬間

 パッと散った黎  爆けた  ひかり

    黒い星屑が  鮮やかに

  キラキラと降る     紺色の 空


その、舞い散り落ちる、光は 星屑は。
確かに
見憶えのある あの 「闇色」


 見てきた?
 持って来た??


   「望んで」?  「持って 来た」

確かに。


「それ」は。 なんだ


「置いていけない 想い」「暗色」
「過去の私」 「海底にあった 闇」

それは 今 既に。

「どれも私」くらいには 私に馴染んだ 存在で。


 「誰が」「なにが」  「どの」「いつの」

そんな事は、全く 関係無くて。


だって 全部  「私」だし ?

 
 そう 

  あれも   それも どれも これも。

 思えば。 

  やはり 「いつかの 私」で。




……………結局。

「全部 私」、ってこと だよね?


未だ全てを知った訳ではないだろうけど。

しかし。
既にきっと、大部分の「大きな私の側面」が併合されたのは分かる。

きっと私の中には「主軸」と「脇」の様な、ものがあって。

それぞれの細々とした「やりたいこと」をやり、「満足した色」が。
今こうしてある程度、集まってきているのは解る。


その「主軸」はきっと、「祈る私」の様なもので。

   「受ける私」 「調える私」

  調整   受け止める

     溜める   吸い取る  飲み込む

  「繋ぐ私」  「濾過する私」


その周りを囲む主要な私、そのまた裏側を補強する様に経験してきた「沢山の色」。


 「それ」を 沢山 持って

   私 は。


   どこ へ     行く  ?



  
  「  名は   それを 示す  もの 」


「名………?名前、ってこと?」

フワリと絶妙なタイミングで齎される低音。

黎の、名を付けたのは確かに私だ。
黎明の、黎、それは時代の変わり目、暗い夜明けの色。


      「  依る  」


再び囁くその音は、私の名を。

 ポンと、その場に放り出して 消えた。



「えっ、私??ちょ、まだ………黎?」

目の前から消えた美しい黒を探すが、辺りは更に暗色が濃くなり星が瞬き始めている。


 えっ  私

    私の  「名前」???


  「よる」 「依る」   「夜」いや 違くて


   「 依る 」


 は  その 「意味」するところは。


「…………えーーー。なんだろう………漢字?辞書が無いから、分かんないけど??朝に訊けば、分かるかなぁ?」

そういえば、あの時。

なんだか意味深な事を言って魔女部屋へ消えて行った尻尾を思い出す。


「…………とりあえず………なんか、もう…………………いっか。」

「どうした?待ったか?」
「あ、ううん、ありがとう。」

タイミング良く、金色に光る彼が向こうに見えていた。

考えながらもくるくると回っていた私を怪しんだのか、開口一番そう言った金色。

しかし、私の様子がおかしな事はある意味通常運転でも、ある。


「とりあえず。星が、綺麗ですね。」

「………まあ。あれから、増えた様だな。」

確認する様な瞳を受け流して、空を見上げる。
隣の声はやや疑いが含まれているが、私に話す気が無いのは解ったのだろう。

パッと取られた手の温もりに、安心してそのまま空を見上げて、歩く。


いつかも、いつでも、見ていたこの空。

「美しいな。」

無言の背中、自分の発した言葉であの人の事を思い出した私。

この頃は、大人しいけれど。
あの時。

 いや? まさか??
 勝手に戻ってる とか  無いよね??

 いや 流石に    


  無い無い 無いよ  多分  うん。



そうして自分で自分の疑いに、「パチン」と蓋をして。

胸に手を当て、一応奥を確認する。

 うん 大丈夫  あるある

 これ 大丈夫かな  
 また 離れる時  あの時みたいに
 寂しく なっちゃう?

 いや なるよね? なるよ そりゃ なるわ………



「いかん。」

自分の妄想に再び蓋をして、見上げた空は思いの外、美しくて。

それで上手に鍵を掛けた私は、目の前の金髪をダメ押しで見つめて。

とりあえず「まだ」と言われたその事は、そっと再び胸に収めておいたのだ。


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