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8の扉 デヴァイ 再
生命 とは
しおりを挟む「「命」か………。それまた、難しい問題だね?」
そう言って優しく微笑んだ、薄茶の瞳。
背後の青空に水色の髪が美しく透けて映え、今日も畑のハーブで染められたワンピースが素敵だ。
本部長が呟いていたイストリア訪問の件は、あの後すぐに実現されることとなった。
彼女が魔女部屋へ直接、訪ねて来てくれたのだ。
そう、ラガシュの訪問も取り止めて私に「プチ外出禁止令」が出た、次の日。
「これから来るぞ。」
朝食後に、それだけ言い残して出て行った白衣。
ある意味いつもの行動に慣れっこな私は、くるりと振り返り隣に座る朝に尋ねた。
そう、きっと本部長の予定は、私よりも朝の方が把握しているからである。
「えっ、ムグ…………、うん。誰が?来るの??」
いつもの様に、呆れた目を向けている朝は少し考えているけれど、これは知っている顔だ。
くるくると変わる瞳の色を眺めながら、返事を待っていると「ピッ」と止まった瞳が、その答えを知らせる。
「イストリアじゃない?多分だけど、それ以外はいないと思うけどね?」
「やった!…………でも、まあ。そうか。」
確かに今、私の所在を知る者は、そう多くない。
「ラガシュも、そのうち会えるよね?…………でもレシフェとかなら、イケるんじゃ………??」
「………そっちのが止めといた方がいいと思うけどね。」
「なんで??」
首を傾げながら、食後のお茶をフーフーしていた私に、構わず椅子を降りた軽い足音が聞こえる。
そうして「仕方の無い目」を向けながら、「ご馳走様」とシリーに挨拶をし、スタスタと食堂を出て行ってしまった。
「なんか…………。いつも思うけど、猫で「あの目」を出来るのは凄いと思うんだよね………。」
ブツブツと呟く独り言に、お代わりを淹れてくれるシリーが笑っている。
この頃ずっと、一緒だからか。
きっとシリーも「あの目」を知っているのだろう。
「ね?そう思うよね???」
「はい。いえ、仲が良くて羨ましいです。」
「え?シリーも仲良いよね?」
「ええ。でも、やはり違いますよ。ずっと、一緒なんですよね?私達はあまり動物に慣れてはいなかったので…。」
確かに。
この言葉を聞いて、また少し反省、と言うか考え始めた私の頭。
くるくると回転して
「今度 グロッシュラーにスピリットを挑戦」
そんな課題を「ポン」と、頭の中に弾き出すと。
「うん、オッケー。幻の魚の次は、鳥かな?何かな??………まあ、楽しみにしてて。」
「はい。…………あまり無理しないで下さいね?」
再びクスクスと笑いながら、私の様子を見ていたシリーは厨房からの声に急いでスカートを翻す。
「さて。じゃあ…………どこで?待つんだろ??」
後ろ姿を見送りながら、カウンターのイリスに手を振り私も立ち上がった。
お客様が来るならば、お迎えの準備が必要だろうな?
でも、どこに来るんだろう??
つらつらと考えながらも魔女部屋にアタリを付けて、扉を閉め青のホールへ向かう。
多分、応接室じゃ、ないだろうし?
「ふむ。それなら…。」
そうしてとりあえず。
足取りも軽く、魔女部屋へ支度に向かうことにした。
「後からフリジアも来るよ。」
そんな素敵なセリフを言い私を喜ばせたイストリアは、そう言いつつも暫く立ち止まって。
魔女部屋の扉の前に立ったまま、驚きの瞳で私をじっと観察している。
この前、フェアバンクスを案内したから?
多分、見知った場所だと、思うんだけど………?
私を見ているのか、部屋を見ているのか。
共に動く視線を見つめながらも、ゆっくりとミニキッチンへ歩きながら疑問がポンと湧いて出る。
「うん?後から?」
「ああ。あのホールで捕まっているよ。暫くしたら来るだろう。」
「ああ、成る程…………ここ、分かりますかね?」
「まあ、あの子よりフリジアの方が、まだ上手だ。大丈夫だと思うよ。」
流石です、フリジアさん………。
あの廊下は、本部長に手直ししてもらったけれど。
きっと「部外者」は、入れないと思うのだ。
しかし、フリジアは「お客様」だしきっとこの感じならば。
やはり、まじないの腕は本部長より上なのか、どうなのか。
うむむ…………?
首を傾げつつ視線を戻すと、薄茶の視線と「パチン」とぶつかる。
イストリアは、この前よりはマシな瞳をしていたが中々の様子で私を観察しているのが、分かる。
「なんか…………やっぱり、違いますかね?」
「いや。…………まあ、そうだね?確かにこれはあの子がそう言うのも解るな…。」
あの子? そう 言う???
本部長が、イストリアに何と言ったのか。
気になる所だが、嫌な予感しかしない。
「まあ、まだ誰にも会わせなくて正解だろうな。もう少しすれば落ち着くといいんだが…。」
呟きながらも、お茶の支度をする私の周りをぐるぐると回り始めたイストリア。
魔女部屋は机やソファーがあって、回り辛いと思うけれど器用に障害物を避けて観察を続けている。
この親子に見られる事に慣れっこな私は、逆に「何が違うのか」「どう見えるのか」気になっていたので、そのままイストリアの観察結果を待つ事にした。
きっと「何故ラガシュ訪問が中止になったのか」は、正確な解答が得られる筈だ。
うん。
しかし。
先に「何故 そうなったか」を、説明する羽目になった私は、案の定しどろもどろで怪しげな事を呟いて、いた。
お茶を淹れる手順も、怪しかったに違いない。
そう、複雑なのと、恥ずかしいのと、自分でもはっきりとしていないのと。
だから、結局は。
とりあえずいつもの作戦で「全部出す」様、思い出せる事から順に、出来事を並べていったのだけど。
そうしてつらつらと洩らしていた、「あの二人」のこと、「命」のこと、「貴石」のこと。
私が「合わさって」
金色も「合わさった」こと
そうして「生まれる」「チカラ」か なにか
それは なんなのか という 疑問。
余りに一生懸命、話していたからなのか。
恥ずかしくて半分俯きながら、話していたからなのか。
途中でフリジアが入って来た事にも気付いていなかった私は、やっと一息吐いた所で。
普通にお代わりを淹れてくれている、イストリアに気が付く事となったのである。
「さて。私の見ぬ間に、また随分と、まあ、なに。「成長」、した様だけどね?」
「そうですね。私がこの前、会った時は………ついこの間ですが。また、変わりましたから。」
「ほう。忙しいね。」
はい。
忙しいのは、合ってます。
多分「成長」も、してる 筈…………。
二人が話している所を、目の前で見るのは初めてである。
しかし流石に、「師匠」と言うだけあって息の合った二人はどうやら私の「変化」について、何やら合意した様で。
しかし「まあ 二人に任せよう」、そんな怪し気なセリフを投げつつ話題は「命」の話へと向かっていた。
まあ、私の顔が。
赤過ぎて、これ以上「その話」は止したのかも知れないけれど。
「それでお前さんは。何に、引っ掛かってるんだい?「生命」が生まれる、原因?それは勿論「あのこと」も、あるだろうがそうじゃないんだろう?」
「あのこと」とは、勿論「そのこと」、ですよね………???
私のおかしな顔に、頷いて返事をしたフリジア。
表情は至って真剣である。
その真っ直ぐな黄緑の瞳を見て「この部屋は明るいからな」、なんて考えつつも。
私も自分が「なにに」引っ掛かっているのかを、真剣に考え始めた。
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